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2015年09月10日(木)
『幕末太陽傳』

『幕末太陽傳』@本多劇場

1957年に公開された川島雄三監督の映画が原作。2011年末、新宿地下街にこのポスターが貼られていた。

・映画『幕末太陽傳』デジタル修復版

色鮮やかで美しいデザインのポスター。「生きるんでぃ!」と言うコピーも印象に残った。たいへんなことが起こった年の瀬、このポスターを見掛ける度に少し気持ちが華やいだ。毎日そこを通るのが楽しみになった。あらすじを読み、『居残り』『品川心中』が挿話として使われていることを知る。このふたつの落語は知っていた。ますます興味が沸く。結局映画館へ行く時間がとれず、でも映画館で観たくて、DVDには手を出さないまま四年。今度は劇場でもらう大量のチラシ束をめくる手が止まった。

・舞台『幕末太陽傳』オフィシャルWEBサイト

こちらの宣美も見事。しかも佐平次を青木崇高が演じると言うじゃありませんか。他のキャストもかなり好みなうえ演出が江本純子、これは気になる。ウキウキと改装された本多劇場へ。椅子の座り心地がよくなってましたよ。

序盤は怒涛の展開と聴きなれぬ江戸弁に戸惑う。言葉遣いに役者が振りまわされてしまっているなあと感じる場面も正直あった。聴く方(観客)だけでなく演者も台詞と格闘しているなと思う。しかしそれらを幕末の騒々しさだと受け取れば、あとはもう楽しさばかり。ワクワクドキドキ、おそめとこはるのキャットファイトも見ものです。ここらへん江本さんの味が出ていたような(笑)。登場人物たちが自ら舞台上へと装置や小道具を持ち込み、場面が地続きになる転換が特徴的。三段ほどになっている舞台の立ち位置により、時間と場面がスピード感を持ってジャンプしていきます。衣装替えし乍ら出てくる役者さんもいて、これはそういう狙いなのかホントに着るのが間に合わなかったのか微妙に判らなくなっているアップアップな感じがもはや面白い。ドタバタシーンは本当の意味でドタバタして見えた(笑)。音楽は伊藤ヨタロウ、メトロファルスのリスナーでヨタロウさんの曲は長年愛聴していますが、近年は粋な劇伴を書くひととしての信頼感も増しました。

「おっと、その幸せがおいらの苦手」「地獄も極楽もあるもんか、おいらまだまだ生きるんでぃ!」。台詞のひとつひとつに胸がすく。『居残り』『品川心中』以外にもさまざまな引用があったようで、そこらへんの知識があればより楽しめたかもしれません。「首が飛んでも動いてみせまさァ!」は『四谷怪談』からだよね。それとも江戸の流行り言葉だったりしたのだろうか? 自分の勉強不足もあるけど、映画が公開された当時はこういった娯楽、文化が庶民に浸透していたのだろうなあと思う。

青木さんの佐平次、それはもう魅力的。この愛嬌は貴重だなー。野中隆光が気のいい若旦那を好演。このひとシャンプーハットでも映像の仕事でも、ホントおっかない残忍な人間を演じることが多いので、そうだよこういう役も出来るひとなんだよー! 素敵なんだよー! と叫びたい気持ちに(笑)。おそめを演じた田畑智子は三味線も披露、和服での身のこなしがサマになる。和服と言えば、宍戸美和公の衿の抜き方も素敵でした。

年配のお客さんも多く、ドッと笑いが起こる場面もしばしば。映画版をリアルタイムで観ているであろうひとたちにこの舞台はどう映るのかなと思っていましたが、楽しんでいる方が多いようでした。やっぱり映画館で観たいな、家でひとりでひっそり観るよりきっと楽しい。いつになるか判らないけど、名画座をチェックしておこう。それにしてもこの映画に出たときのフランキー堺って、28歳だったんだ…綺麗な顔立ちですよね。

映画版でナレーションを務めた加藤武のコメントが舞台版の公式サイトに載っていた。「おーい、あっちの御連中よ。済まない。この舞台を観てからじゃないと私は逝けなくなっちゃった。」加藤さんは七月に亡くなった。ご本人も、江本さんをはじめとするスタッフキャストも、とても残念な思いをしただろうな、と思い、楽しい作品に少しせつなさを残した。

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・日本映画の傑作『幕末太陽傳』を江本純子の上演台本・演出により舞台化! 破天荒だが粋で憎めない佐平次役に、青木崇高が挑む!|e+(イープラス)Theatrix! Pick Up