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2014年07月13日(日)
『ハナガタミ』

尾上松也/新傾龍(ShinKaRon)Vol.1『ハナガタミ』〜能曲『花筐(はながたみ)』より〜@Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

構成・演出は鈴木勝秀、出演は尾上松也、新納慎也。世阿弥の能曲『花筐』をモチーフにしたふたり芝居です。スズカツさんのツイートによると、今回のテキストは『シスターズ』のニュアンスで書いたとのこと。個人的には、その手法でリライトした『NAKED』最新ヴァージョンと言う印象も受けました。そう、マサルくんとスグルくんの会話。

……これがまーッ! これがまーッ! 瑞々しい!!! ええっと失礼千万を承知で書きますが、ダイアログにおける情景描写がめっちゃ巧くなってないか!? 見えないものを見てきたかのように書く、それを観客の頭の中に映写する言葉の力。特に終盤の、学校へと続く坂道の描写が素晴らしかった。この坂道と言うモチーフはスズカツさんの作品にはよく出てくるものですが、今回の使い方にはグッときたなー。

いやースズカツさんが今青春小説書いたらすっごい素敵なものが出来そうな気がするわ…すずかつさんの中の少年と少女が時空を超えた恋をするのよ……! 何を言っているのか。

頭のおかしい感想はさておき、とてもヴィヴィッドなのに懐かしささえ感じるストーリー。今回松也さんと慎也さんと言う出演者から興味を持ったひと、歌舞伎ファン、ミュージカルファン、古典芸能好き等幅広い層のひとが観に来ていたと思いますが、そのあらゆる興味にコミットするものだったように思います。

能曲に即した入場の足さばきや舞と言った型を見せる場面と、ほぼフリー(アドリブ)と思われる台詞のやりとりがある場面の緩急。序破急の様式もさりげなく押さえていたように思います。不在の女性についてふたりの男が語る場面は夢幻能を想起させる。出演者ふたりのリズム感がとてもよく、ダイアログは勿論専門用語が多用されるモノローグもするする頭に入る。テルアキは「あっ寝ちゃいました」って言ってたけど(笑)そのややこしい話を切り上げるタイミングもよかった。稽古期間もそんなに長くなかったようだし、台詞量にふたりとも四苦八苦していたそうですが、決して発声しやすいとは思えないスズカツさんの言葉を乗りこなすロデオっぷり、その間に挟み込むユーモア。演者の実力をひしと感じました。見事。慎也さん初めて観たけどすごかったなー、『100歳の少年と12通の手紙』に出演されてたんですね。

メモしておくと、終盤朗読される詩はポール・エリュアール「自由」からの引用のようです。彼の活動内容やその時代背景は検索すると見付けることが出来ます。それを知るとああ、とまた得心するところがあります。劇中流れた「蘇州夜曲」の歌詞や坂本龍一の楽曲名、客入れの音楽にもさまざまな想像喚起力がありました。そこには具体的な言葉にしていない部分に描かれている思いが存在する。しかし、作品を介して反映される現在は、観る側の中にある。秘すれば花。

…なので、こういう引用元とかを書くのは野暮だってのは承知してるんですが……。でもねえ、前日『おとこたち』を観てしみじみ思ったのは、あのー私この日記書いてるのって、ボケたときに忘れたことを思い出すためなんですよ。ホント今でもどんどん忘れてってるからね! 許して!

それにしても沁み入る詩でした。朗読(と言っても諳んじている)した松也さんも感極まったようで、途中から涙声になっていましたね。図らずものことだったのかも知れませんが、その登場人物への移入には素直に感動。手応えある舞台だったのでしょう、カーテンコールでは慎也さんとがっしりハグ。ウィッグをとって坊主頭を披露し客席を沸かせてました。おわっ坊主になってるって知らなかった。これがまた結構似合ってました。

ちいさな世界。「部屋」から見える世界、アクセス出来る世界。そこから生まれた作品が劇場にかかり、集まったひとびとの思いとともに持ち帰られ、また違うところへと運ばれていく。観客はミツバチのようなものかも知れないし、そうでありたい。そうやって、広い世界を見ていくのだ。いい舞台でした。