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2013年10月20日(日)
NODA・MAP『MIWA』

NODA・MAP『MIWA』@東京芸術劇場 プレイハウス

客入れの音楽がT.REXで、あー「20th Century Boy」でも流すのかな、題材が題材だしと思っていたけど別に関係なかったか。開幕直前の曲は「Get It On」でした。二十世紀はともかく、昭和の色は濃い。美輪明宏の、生まれる前からPARCO劇場迄、と言う感じかな。上手と下手にある扉から出て行くひとたち。最後の扉はPARCO劇場に行っているひとならピンとくるだろう、あの壁紙が張られていた。

ここ数作の舞台を観ている上で感じていることをまた感じる。「当時」を知らない者にとって、その対象が「当時」どのくらいの影響力を持っていたか、世間からどう見られていたか、社会的にどんな扱いをされていたのか。その空気をどうやって感じればいいのか。自分は美輪さんの当時を知らないし、彼(彼女)の交友関係や背負って来た歴史を文献でしか知らない。もっと若いひとにとっては『オーラの泉』に代表されるスピリチュアルな黄色い髪の人物と言う印象だろう。しかし今はそれに「2012年の紅白歌合戦で圧巻の歌を聴かせた人物」と言う印象が加わっている。「ヨイトマケの唄」はいろんなひとがカヴァーしているし、放送禁止歌としても数年毎に話題にあがる楽曲だ。今回の舞台の企画があがったのはいつなのだろう。

作品そのものとしては、とても楽しんだものの「野田さんにしては…?」と言う疑問もちょっと。生まれるときに引き裂かれた片割れであるアンドロギュヌスを現世につれてきてしまい、彼(彼女)と主人公は人生のエポックごとに会話するものの、肝腎なときに彼(彼女)は出てこないと言う設定は非常に面白かった。史実から大ボラを立ち上げる野田さんらしさがあった。しかし……。ひとひとりの人生があまりにも濃厚で、それがまだ途中であろうとも二時間強ではやりきれなかったと言う感じだろうか。もう一段階何かがあったような気がしてならない。ここをとりあげるとあそこを描かない訳にはいかない、それならここは不可欠、と言う迷いがそのまま出ているような印象だった。

個人的に心に残ったのは浦井さんの役に代表される、名もなき人物たち。主人公に絵描きになるのが夢なんだと明るくと語ると同時に赤紙を持たされ軍服を着せられて出征していく青年、美しい衣裳を身につけ輝くような笑顔を湛えた瞬間やってきた家族に否定され首を吊る青年。彼らの行く末は主人公に怒りを呼び起こす。そんなひとたちの無念は夥しい数あるのだ。そこへ光を差す青木さんの演じる役。彼女も、名もなき人物だ。語られる場がないだけで、彼らには皆名前があり、それぞれの人生がある。そこをしっかり掬い上げていたこの作品には愛がある。これがあるとないとではかなり印象も違ったと思う。

楽曲そのものの良さもあるが何よりいちばん強いのは当人の声、そして歌唱法。それがあまりにも唯一無二のものなので、役者が歌を唄わないフックには成程と思った。とは言え口パクに関しては、もうちょっと見せ方があるのではないか…と思ったのも正直な気持ち。しかしあれらの“歌”を唄える役者って、いるだろうか?ただ巧いだけでは勿論ダメだし、独特な歌唱法をコピーするだけでもダメだ(そもそもコピーも難しいだろう)。ひとりの人物(しかもモンスター)の人生を体現出来る役者と言う怪物は、どこかにいるだろうか。

その辺りの演出はともかく、宮沢さんのヴィジュアルはまさにスターのそれで、役者としてのタフさも見応えありました。いい主役。『ロープ』で嗄らして以来、喉が強くなったようにも。凛とした声がよく通ります。所作の美しさにも惹き付けられた。で、今の宮沢さんで『ロープ』の再演観たいなあとふと思った。が、あの役は妖精のような(実際妖精だったか)壊れそうな危うさあってのものだったから、どうかなあ。どちらも兼ね備えるって難しい……。古田さんは最強。一稽古場に一古田とはよく言ったものです。あの扮装で登場してきたときの客席のどよめきっぷり、すごかった(笑)。ワンノートの発声も素晴らしかったよ!そして成志さんが八面六臂の活躍で、そりゃ稽古後や本番後に電車で寝過ごしたりSuicaなくしたりするよね…と思った(twitter参照)。あの声で聴く長崎弁、最高です。この三人はホント見事でした。しかし仕事してないときの成志さんホント心配(苦笑)リアルサザエさん見てる気分だ。

出番自体は多くなかったけれど前述の浦井さん、そして瑛太さんの陰ある人物像も素晴らしかった。煌びやかなショウビズの世界と、その裏の闇を浮かび上がらせる光を持ったふたりでした。そこへ「自分の言葉で話せない」通訳、小出くんの陰が加わる。生と死の谷間を覗き込むような瞬間を感じさせてくれました。井上さんはほぼ初舞台とは思えない度胸のよさ。声もいい、またNODA・MAPの舞台で観てみたいです。アンサンブルもよりアグレッシヴになり、各々の顔がより見えてくるようになった。美術の美しさ、小道具の見立ては毎回やっぱりすごい。椅子が飛行機の操縦席になる場面の鮮やかさについては、パンフレットで古川日出男さんも言及されてましたね。あれにはやはりゾクッときた。

主人公と交流のあった作家を、野田さんが演じたことにもグッときた。野田さんはまだ死なないで、と思った。野田さんには書き続けてほしい。愛について、また書いてほしい。そう思うと、前述の「迷い」も愛からくるものなのかな、と思った。だからこの作品を否定する気持ちにはなれない。『オイル』も『ロープ』も『ザ・ダイバー』も、社会的な理不尽を被り打ち捨てられる登場人物たちは、それを声に出来ない弱い者たちばかりだった。怒りは悲しみを呼ぶ。それがハッキリ表に出て来たのは『エッグ』辺りからのような気もする。書くものが、怒りの季節から悲しみの季節へと移行してきた。勿論怒りが消えることはないのだろう。サヴァイヴァーはそれからどうするのか。観ていきたい。