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2013年03月15日(金)
『水の音』

水曜日の『鈴木勝秀(suzukatz.)-130313/ウエアハウス』@SARAVAH Tokyoは後程ー。

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『水の音』@エコー劇場

日本劇団協議会『日本の演劇人を育てるプロジェクト』の『「日本の劇」戯曲賞2012』最優秀賞受賞作品、ナガイヒデミの処女長編戯曲。ドラマドクターとして土田英生が戯曲の弱い部分に直しを施し上演台本を完成させたようです。演出は劇団民藝の丹野郁弓、出演は小須田康人、近江谷太朗、津田真澄。四国、澪村で育った幼馴染み三人が久し振りに集まる。「もう半世紀生きている」男女の傷跡、孤独、秘めた思い。以下ネタバレあります。

死者、恋愛、宗教、事故等扱われる情報が多く、端々に唐突さはあるのですが、いきいきとした台詞のやりとりでそれらがどんどん区画整理されていきます。このテンポのよい会話に引き込まれるうち、過去彼らに何が起こり、どのような影を落としているか見えてくる。川の事故で死んだ敦志の姉のエピソードと、敦志、楓太、奈津が“仲間”だった水泳部。そのふたつを繋ぐ、学校の立派なプール。登場人物たちを結びつけるものとして、そして敦志に内在する姉の象徴として、タイトルにも使われている水と言うモチーフが、美しさと畏怖を伴い印象的に描き出されます。

その“水”、演出でも実に効果的に使われていました。半地下を思わせる敦志の店の窓から見える雨だれも美しかったのですが、終盤店の床に音もなく本水が流れ込んできているのに気付き驚く。そこにあるべきではないものが突然目に入ったときの衝撃は忘れ難い。いや、やられた。静かに嵩を増していく水に、敦志は身体を委ねていく。水に、死に魅入られたかのような敦志の姿の美しさには思わず息を呑みました。舞台縁にはストッパーがあり、勿論客席側に水が流れ込んでこないようになっていたのですが、最前列にビニールシートと注意書きが配られていたことは終演後気付きました。

敦志を演じたのは小須田さん。いやもうね、小須田さん好きなひとは是非観に行くといい…そんな筈はないのにまるであて書き?と思ってしまうような面と、普段あまり見られない…と言うか、見せないようにしているのであろう部分……の両面観られます。見せないようにしてるってのはこちらの勝手な思い込みですし、実際役者さんですからそう見せることも自在な訳ですが、それにしても……。抑え、隠して、最後の最後に溢れ出た感情が恋愛感情って、小須田さんの役では非常に珍しくかつ貴重ではなかろうか。色気のある役者さんですが、それを前面に出したことってなかなかないのでは……。

と奥歯にものが挟まったような物言いですが、具体的なことを言うと私小須田さんのキスシーンて多分初めて観た。『ソープオペラ』でもハグだけだったと記憶している。『ビューティフル・サンデイ』ではどうだったっけか…そもそも第三舞台でキスシーンと言うものはなかったし……いや最終公演『深呼吸する惑星』で大高さんと山下さんのキスシーンはあったが、あれはコメディ演出として受け取りましてですねええはい。そしてこの劇場、段差が結構あって非常に視界のいい座席配置で、しかも二列目だと役者さんの目線と丁度同じ高さだったもんですからしてしかも結構近距離でもうどれだけ私がわああああああ!!!!と(心のなかで)叫んだか察してほしい。はあはあはあ、この狼狽を誰かと分かち合いたい。いや別にキスシーンて珍しくないけど、小須田さん…小須田さんがですよ?しかも直球のラブシーンですよ!?無表情で舞台を見詰める私の心のなかがどんだけ動揺していたか誰かわかって……。

しかしとてもいいシーンであった。半世紀も生きてきて、ずっと秘めておくつもりだった思いをさらけ出してしまったふたり。傷を舐めあうことになるかも知れない、それでも踏み出してしまう。水と戯れていた若い時代を思い返すかのような、言葉通りの美しい濡れ場に映りました。

ドラマドクターがどのように戯曲を手直ししたかは判りませんが、当日配布のリーフレットに「女性(の作者)だからこそ生身の自分(女)をさらけ出すことがためらわれ、女性がいまひとつ描き切れていなかった。土田さんはそこの部分を引き出した」と書かれていました。劇中奈津が思いを爆発させる台詞があるのですが、そこかな。その台詞を受けた敦志と楓太の言葉によって、男女の感情を抜きにした“仲間”が実はお互いの意識を基盤として維持されていたことが明かされる。数十年後の理解は戻らない時間の重みを感じさせる。印象的なシーンでした。この機微、年齢を重ねるとより実感が強い。大人の舞台。じわりと心に残る作品でした。

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・それにしても小須田さんは人魚の肉喰った族だなとしみじみ。最初観たときから殆ど姿形の印象変わらん……
・“マスター”と言うと大高さんだろうと思ってしまう第三舞台病
・しかしエプロン姿でコーヒーを淹れる小須田さん素敵でしたよ

・近江谷さんはあっちの女にフラフラこっちの女にフラフラと言うおいしい役であった(笑)が、こういうある意味幸福な役を悪びれずに表現するって難しいですよね。ちょっとのさじ加減でいや〜な役になってしまうところ、愛すべき人物をつくりだしていていました

・津田さんのさっぱりした物言い、“仲間”を印象づけるのに効果的で気持ちがよかった。それが瓦解して本音をぶわっと放つときの落差が衝撃的でもあり、女性として共感もし。これを虚勢と思うか照れの裏返しと思うかでも解釈が分かれますが、男女の押し引き(敢えて駆け引きとは言わない)の複雑なとこですよね。心に刺さりました

・エコー劇場初めて行きました。いいハコ!テアトルエコーのホームだったんですね。納谷悟朗さんについて何かあるかな…と思ったけど、劇場と事務所の入口は別だったので判らなかった。お別れの会はこちらで開かれるんですよね