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2013年01月19日(土)
モーリス・ベジャール没後5年 記念シリーズ2『ベジャール・ガラ』

東京バレエ団 モーリス・ベジャール没後5年 記念シリーズ2『ベジャール・ガラ』@東京文化会館

『ドン・ジョバンニ』『中国の不思議な役人』『火の鳥』(プログラム順)。

『中国の不思議な役人』は大昔首藤さんの役人で観た憶えがあるんだけど、自分の日記検索しても見付からない。いつだったかなー…こうやって忘れるからやっぱり書いとくに越したことはないですなあ(自分は)。席がかなり上手前方で、目の前に机があり、机上のダンスを必死で見上げていたことが記憶に残っています。

なので、今回は全景を観られたー!と言う爽快感がまずありました。アンサンブルのダンス(スーツって衣裳がまた格好いい!)をフォーメーション込みでしっかり観ることが出来、ストーリーにもより感情移入出来た。この日の配役は首領:後藤晴雄、娘:小笠原亮、中国の役人:小林十市。

小笠原さんの女装は倒錯的な美醜が打ち出され、男性ダンサー演じる娘が女性ダンサー演じる若い男を誘惑する、と言う図式の妖しさがより明確に感じられました。濃いメイクを施し、ボンデージなランジェリーを身に着けているにも関わらず、筋肉質で骨太な脚、上腕から男性性を意識せざるを得ない。ドラァグ的な魅力があり、昨年観た森山未來のヘドウィグをなんとなく思い出した…メイクのせいか、顔立ちも似て見えた。

そこへ現れる十市さん演じる役人。彼もしなやかな筋肉を持つ、均整のとれた男性的な身体を持つひとですが、ゆったりとした人民服の衣裳だと着痩せして華奢に見える。肌を見せるのは顔周り(最初は人民帽を被っているし)と前腕のみ。照明によって白い肌が暗い舞台に浮かび上がり、腕だけでセクシュアルな美を感じさせる。『ボレロ』もだけど、ベジャールの作品は振付だけでなく照明含めた演出も見どころが多い。肉体を酷使する踊りに、やがて肌には汗が滲む。娘からのキスとともに白粉と口紅を残された役人の顔は、その汗とともに光を帯びる。何度殺されても生き返り娘を追い求める、生/性の魅力と欲望に取り憑かれた役人は、踊りに取り憑かれたダンサーの姿にも見えてくる。

カーテンコールに立つ十市さんの顔には汗なのか涙なのか判らないものが(後日ご本人のブログであれは汗なんです(笑)とのこと。汗がすごくて目が痛くて…ですって)。ひときわ大きな拍手が起こりました。飯田芸術監督から花束が贈られたとき、やっと我に返った様子を見せた。幕が降りてもフィナーレかと思われる程拍手がやまず(二番目のプログラムでこれって珍しい)、幕前に十市さんが出て来るカーテンコールもありました。春に渡仏する十市さん。今回は単に出掛けていくと言う訳ではなく、家族と暮らすための移住。ご本人のブログのコメントからも、いろんな意味での「最後」のようにも思えます。何度「最後」があってもいいし、再びの復活があれば勿論嬉しい。十市さんの踊る姿を観る機会に恵まれた幸運に感謝します。「彼(ベジャール)のダンサーだったんだ!」。この言葉、ずっと憶えていると思います。

『ドン・ジョバンニ』はいちばん回数観ている作品。今回のヴァリエーション6は上野水香さん。これも全景を見られるといろいろな発見があるし、ラインダンスはやっぱり退きで見られるのがいい。日曜日は最後の掃除夫を十市さんが演じるサプライズがあったとか。そ、それ、普通に格好よくてオチにならないのでは(笑)土曜日の掃除夫はどなただったのかな。

『火の鳥』は火の鳥:木村和夫、フェニックス:柄本弾。木村さんがこの役を踊るのは最後とのことでした。パルチザンのリーダー火の鳥が闘いの果て倒れ、フェニックスの力で蘇る…木村さんがときおり手をついたりふらついていたのは演技だったのか、それとも。若手柄本さんとの対比は残酷なドキュメンタリーのようにも映りましたが、傷付き続けても立ち上がる不屈の魂をも感じ、心を動かされました。最後に蘇った赤い鳥、図だけ見るとちょっと笑えてしまうようなフォーメーションではあるんですよね。一歩間違えば組体操ぽくなってしまうものを感動のフィナーレへと持っていく、ベジャールの高い要求に応えるダンサーたちの“気”のようなものが感じられる作品です。

ロシアかぶれ中なので(しつこい)ストラヴィンスキーを今迄と違った思いで聴きましたわニヤニヤ。それはともかく、今回ショパン、バルトーク、ストラヴィンスキーと言う音楽をより意識して聴くことが出来ました。それは単に自分の心構えもありますが、全てのプログラムを観るのが二度目以上で、ステージ上で起こることをひたすら見るのに精一杯、と言う作業から、よりベジャールの振付、演出と音との関係を考えつつ観る余裕が出来たからかも知れません。ちょっと嬉しい。