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2012年11月10日(土)
『霊感少女ヒドミ』

ハイバイ『霊感少女ヒドミ』@アトリエ春風舎

この日はなんと三ステージでなんなんだジャニーズかと思いましたが(笑)、もともとは2005年初演の『ポンポン お前の自意識に小刻みに振りたくなるんだ ポンポン』のなかの一編だったそうで、上演時間は一時間。映像のみのシーンも多いので、役者さんが出ているのは実質45分くらいかな。13時開演の回を観ました。

白い部屋をスクリーンに見立て、そこに映像をシンクロさせて壁紙や家具を浮かび上がらせる。岩井さん曰く、初演は「ミシェル・ゴンドリーや劇団地点、当時テレビでやってたセリエAダイジェストなどから多大な影響を受け」、自ら映像編集+オペを手掛けたとのこと。今回映像作家ムーチョ村松さんとの出会いにより、その部分をよりソリッドにしたいと言う狙いもあったようです。トリッキーな仕掛けがかわいらしく効果を上げていました。

おお!と思ったのは、夜のシーンの部屋はちゃんと夜の部屋の映像になってるんですよ。て書くと意味不明か…えーと、もともとセットがあって、それに照明をあてて昼だったり夜だったりのシーンにする場合、セット自体の色は変わりませんよね。あてる光の色で変わってるように見せるんですよね。今回の場合、映像の方に色が付いている訳ですよ。昼の壁紙はサイケなピンクでも、夜の壁紙はほんのり月明かりが滲んだ蒼色になってるんですよ。あたりまえっちゃああたりまえなんですが、こういうちょっとしたところがちゃんとしてる、ってところが大好きでした。

映像の引き出しから出しているように見せかけて、壁の隙間からパンティを引っ張り出す等の笑えるシーンもよかった。いやあこのシーン、平原テツさんの名(迷)演もあり、笑った反面震撼しましたけども。パンツって奥深いよね……。『ある女』でもそうだったけど、平原さんの女の手玉のとり方すごい怖い…そのままふら〜っと言いなりになっちゃう女沢山いそう……いや役がですよ、役が。

そして勿論、わあ映像面白ーい、シンクロしててすごーいだけでは終わらない。テキストがすごくよかった。言葉はいつも思いに足りないと言うけれど、実際思いを全て言葉で伝えられたら、これ程苦しいことはない。そしてその、伝えきれない思いを言葉にし、口にする役者たちの声色、表情ひとつひとつがとても美しい。全てを伝えようと必死に、不器用に、全身を駆使して表現する。それは大きな声で叫べば叫ぶ程相手には伝わらず、目を合わせずにぽつりと漏らしたものがすっと胸に入ってきたりする。

この辺りのシーン、上田遥さんも町田水城さんも全然顔が違って見えたもんね…三郎あんなにストーカーちっくで怖かったのに、ヒドミなんてアイラインをクマっぽく下だけ強めにひいててキモかわいめなメイクだったのに、恋人と穏やかに話している(演技で、実際には声を出していない)ときのふたりの表情はとても綺麗だった。

そしてそのぽつりと漏らした言葉が、音声ではなく映像で、字幕として姿を現す演出にもグッときた。しかもここで流れているのはキリンジの「エイリアンズ」。まるまる一曲使った。このシーンのせつないことと言ったら……。前半どうしてJ-POPなの、洋楽じゃないの、Blurとか、って笑える台詞を置いていて、この前振りは照れ隠しだったのかと気付かされると同時に、所謂肌に合う、を見せつけられたと言うか。公団で、僻地で、バイパスで。この国に住んでいる、この国で生きているひとたちの恋愛模様。

生きている人間と死んでいる霊の三角関係(、にすらなっていないか。それもせつない)を軸に、霊が死ぬ前に恋していた人物と、生きつつも自分のドッペルゲンガーの存在を感じている人物の思いのすれ違いをも描く。その間に虹郎と言う登場人物(霊)を存在させるところもよかった(演じる奥田洋平さんがまたよくて!)。思いが伝わらないもどかしさ、思いがなんとか伝わったときの小さな幸福感、しかしそれらは所詮自分の思い込みに過ぎないのではないか?と気付いてしまっている寂しさ。そしてそれら全てに関わりを持てないと感じている痛い程の自覚。愛情も恋心も、澄んだ混沌のなかに溶けていく。胸を締め付けられることこの上なし。

字幕と言えば月を映像で見せたり、「月」と言う漢字で見せたりと言う演出もよかったな。それがだんだん心地よくすら感じてくる、記号の交差。これも混沌。岩井さんの作品は混沌としていて、寂しさが募る。その寂しさは、決してイヤなものじゃない。ふとした拍子に、安らぎを得られるものでもある。

ちなみに三重公演をご覧になったぴーとさんが「ちゃんと小ホールの映像で作ってる」と書かれていて、そういう細かい部分もちゃんと変えてあるところにも好感。こちらは春風舍+その周辺の映像で作られておりました。

キリンジ以外の音楽もとてもよかったです。岩井さんと音響の方、どちらが選曲されているのかな。『ある女』でも使われていたオープニングの曲、骨折したかのようなアクセントのナレーションとともにとても印象的でした。