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2012年06月14日(木)
『テルマエ・ロマエ』『南部高速道路』

『テルマエ・ロマエ』@新宿ピカデリー スクリーン3

いやー笑った笑った。以下ネタバレあります。

別ものと思いつつも、原作を先に読んでいると…となりがちな映画化ですが、今回それが気にならなかった!原作のおかしみがしっかり活きていて、映画のオリジナル部分の構成にもニヤニヤさせられました。時空を超えるときオペラ歌手が唄い上げるとか、その時空を行き来する(もとの世界に帰る)要因とか。字幕や記号的なギャグ(「BILINGUAL」とか「ワニ」とか)を折り込むタイミングもいいー。

要因と言うのは涙を流すこと(ってところがまたキュンとなっていいわー)で、終盤それが明らかになったとき、ルシウスにその思い当たるシーンがフラッシュバックするんですが、そのいちいちが面白い!悔しくてとか殺虫剤を顔に吹きかけちゃったとかいろいろなことでルシウスは泣くんですが、そのなかにウォシュレットを使って悦楽お花畑、のシーンも含まれるのです。リアルタイムでは見落としちゃったんですが、ここがフラッシュバックしたってことはルシウスはウォシュレットの気持ちよさ+感動で涙を流したのね!な、泣く程だったのね…と二段で笑った……。

阿部さんは右目だけから涙をすーっと流すんですね。これがまた絵になりました。時空超えとは関係ないシーンですが、ハドリアヌスに「二度と私の前に現れるな」と言われたときの涙のシーンはせつなかったー。真顔にもいろんな表情があって素敵でした。ルシウスをヘルパーさんと勘違いしたおじいちゃんにシャンプーハットの使い方を教えてもらってるときの、ずーっと変わらない真顔がすごい笑えた。ここ編集のテンポも絶妙でした。

平たい顔族の面々もいいカオばかり!竹内力がこっちチームに入っているのが不思議でしたが、平たい顔族の血気盛んなとこ見せたれな後半の仕事っぷりに納得させられたり。あとねことかろばとかちょこちょこ出てくるどうぶつもかわいかったー。

平日昼間だったせいか、客席に平たい顔族のおじいちゃんが沢山いたことにもほっこりしました(笑)あー温泉行きたい。

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『南部高速道路』@シアタートラム

面白かった!面白かった!(二回言う)うわーリピートしたいよー!

『LAST SHOW』の頃だったか、長塚くんが「観客を巻き込むプロレス的な力」の話をしていましたが、今回その「プロレス的な力」とは違う形で、観客が舞台上の状況に引き込まれる、登場人物たちと共にいるかのような劇世界が提示されます。ある種の約束を、演者と観客が結ぶ。そこには風通しのよさがありました。長期に渡りワークショップを重ねて作り上げたもの、そして長塚くんがここ数年(殊に英国留学から帰還後)模索してきたことのひとつの成果としても興味深い作品です。面白かった!(三回目)

『エレファント・バニッシュ』『春琴』もそうでしたが、この辺りは公共機関の体制があるからこそ、だと思います。ああ、こういうのは大事にしたい…大阪の文楽じゃないけど、世知辛い昨今こういうとこの予算から減らそうって風潮にはもやもやする…悲しい……。

話が逸れた。以下ネタバレあります。

個人の好みもあるかと思いますが、今回の作品は観客の想像力を信用するバランスが絶妙でした。野田さんが『THE BEE』のパンフに書かれていた「小道具の“見立て”」の、観客への伝達方法がスマートで押し付けがましくなく、なおかつ視覚的にも鮮やかです。傘を持ち歩き回るひとびと、傘を拡げ、列に並び、傘と荷物を床に降ろす。渋滞が出来上がる。車扉の開閉を、傘を転がすことで表現する。このシーンの頃にはすっかり演者と観客の了解が出来ている。

渋滞解除の鍵となる腕時計は私の目の前(西ブロックA列)に落ちていたのだけど、それがいつどうやって置かれたのか全く気付きませんでした。最初はなかった、時計はミニの彼女の手元にあった。時間を気にする彼女をしっかりと見ていた。彼女が紛失に気付きバスの運転手とともに探し始める迄、時計のことは忘れていた。彼女の言葉から時計が失くなったことを知り、自分も舞台上(=真夜中の道路)に目を凝らした。勿論見付からなかった。しかし話が“そこ”に辿り着き、時計の存在が必要になったとき、それは目の前に落ちていた。冷静に考えれば、付近にいた役者さん(多分菅原さん)が寸前に持ち込んで置いたのでしょう。でも、目の前で行われた筈の仕掛けに、私は全く気付かなかったのです。

構成・演出の手腕によるところも大きい。エピソードの数々は、原作にある要素と、ワークショップで練られた要素の両方があると思われます。舞台のあちこちにコミュニケーションがある。同時多発の会話、各々の行動の変化。ステージは四方を客席に囲まれている。座る位置によって見えるもの、聴こえるものは微妙に異なる。しかしこのシーンのキモはここ、と言う誘導がしっかりしている。観客が至近距離にいる登場人物に興味を示していても、キーとなる部分を逃さないようにする態勢が舞台上に整っている。同時に、逃すようにするフックもあったように思う。

時計の紛失から発見迄、時間にして数十分。しかし(舞台上には)膨大な時間が過ぎ、(舞台上では)さまざまなことがらが起こった。「この一歩、の中に、ぜーんぶ入ってる」と言う台詞に象徴されるように、ミニの彼女が時計を失くしてから再び時計を見付ける迄、世界の全てが――時間も、空間も、ひとびとの存在も――舞台上にあったのだ。老人は行方不明になり、命の灯火が消え、新しい命が母胎に宿る。膠着した世界に共同体が生まれ、異常な状況は日常になり、変わらぬ日常は動き続ける時間の中にしかない。この状態が永遠に続くことは決してないと知っているから、彼らはお互いを車種名で呼び合う。いつか離ればなれになる、そうなったら二度と会えない。予感通りあっけなく共同体は崩壊し、そして皆お互いを忘れていく。忘れられない思いは個人の「この一歩」の中に埋もれていく。

現実にも白昼夢にも、瞬間にも永遠にもなる、個人の心の中にあった(かも知れない)約一年の出来事。現在性があり乍ら普遍性をも持つ。

見事な舞台でした。原作はフリオ・コルタサルの短篇小説。物販に文庫があったので早速読んでみようと思います。多分、いろんな意味で驚くのだろうな。

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その他。

・このひとのこれが見たかった!と言う面と、このひとにこんなところが!と思う役者の魅力を両面で感じられたところもよかった

・黒沢さんの仁王立ち、見たいじゃん!啖呵、聴きたいじゃん!そんな黒沢さんがぽろっと泣き出すと、ドキッとするじゃん!怒るとタチが悪いおっかねー赤堀さん、きたきた!女の子にふわりと寄り添う赤堀さん、えー!(おい)

・いやこの辺り、赤堀さんからするとちょーーーーー恥ずかしかったんじゃない…でしょうか……俺のこんな面、観客に見せたくない!みたいな

・あー嬉しかったー!(鬼)

・おにぎり、おやき、ハムサンド、ゼリー…ぐうぐう

・客席にも“見立て”がありました。座席は車のシートのようになっており、数脚毎に色が変わっている。観客は知らない誰かと同乗者になっている。その日たまたま隣になって、数時間を一緒に過ごし、またバラバラに帰っていく

・床面の美術もひとひねりあってよかった。ありあまる時間のなか、こどもが黒い道路に落書きを始める。アスファルトに色とりどりの世界が拡がっていく。しかしその子が手にしているのは何色もあるチョークではなく、銀色に光るコインひとつ。床が二層になっているのです。さまざまな色を敷き詰め、その上を黒く塗りつぶしたシートが床面に張り込んである

・入場したとき靴墨のような匂いがするなあと思っていたんだけどこれだったのか。ところどころに綺麗な色の点が浮き出てきたのを見たときは、靴や引きずった傘の塗装が剥がれたのかなと思っていた。それが何か判ったとき、図画工作の時間を思い出してニッコリしました

・ソフトバンクは繋がらない携帯の代名詞なのか(笑)以前『わが闇』や『アンドゥ家の一夜』でもケラさんにぼろくそ言われてたわー。大倉くんの「ソフトバンク…やわらかい銀行……」て台詞、今でも思い出すと笑える

・あそこで山下達郎を使うところがニクいー!せつないー!

・車種で呼び合うの、伊坂幸太郎が朝日新聞で連載中の『ガソリン生活』を思い出してニヤニヤしたり。いやこれは車の本体同士が呼び合ってるんですけどね

・フェスに参加するひとのイメージをよくしたいと思いました(苦笑)ちくしょー

・真木さん、顔ちっちゃい……!

・黒沢さん、脚長い……!

・菅原さん、間近で見るとお綺麗でスレンダーでおろおろしました

・と言えば菅原さんが近くにきたときいい匂いがしました。いや嗅ぐ気満々だった訳ではなくとても間近に来たので(1m切ってるくらい。ヒー)

・それはともかく菅原さん、場を陽性にする空気を持ってるなー。笑いの要素も勿論だけど、疲弊した集団に安堵を与える役割を担っていました

・赤堀さんがよりむくむくしててほっこりしました

・いやそれはともかく、あのー赤堀さんの難しいところをチャームとして掘り起こしてくれた長塚くんありがとー!と思いました(笑)あののらねことかのらいぬの感じがね!最初あんまりひとと関わりたくない、ひとの世話になりたくないってコートをばふばふに重ね着してたようなバスの運転手さんがちょーチャーミングで!

・だからこそあのラストシーンにはもー涙が出たわ…どこー!?どこー!?ておろおろ探しまわるさまがもー!かわいそうでかわいくて=かわいいそうで!正直萌えました(鬼)

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また長い……。アフタートークのおぼえがきは別日に改めて。