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2012年06月09日(土)
六月大歌舞伎 夜の部『ヤマトタケル』

初代 市川猿翁 三代目 市川段四郎 五十回忌追善
六月大歌舞伎 夜の部 スーパー歌舞伎 三代目猿之助 四十八撰の内『ヤマトタケル』@新橋演舞場
二代目 市川猿翁 四代目 市川猿之助 九代目 市川中車 襲名披露
五代目 市川團子 初舞台

お初のスーパー歌舞伎です。お、お、おもしろかった……。3S(スピード、スペクタクル、ストーリー)とはこれか、と。現代語の台詞、展開のはやさ、たっぷりとしたエンタテイメント性。生演奏に限らない音楽、スピーカーを通す効果音、ストロボ等も使った派手な照明。思わず新感線のいのうえ歌舞伎を思い出してしまったのですが、奇しくもスーパー歌舞伎といのうえ歌舞伎が始まったのは同じ1986年なのですね。初演時イロモノ扱いされただろうことは想像に難くない。どちらがより、と言う訳ではないのですが、殊に歌舞伎の世界では、相当の逆風もあったかと思います。

それが今では多数の支持を得、再演が待ち望まれる数々の作品を生み出している。スーパー歌舞伎をジャンルとして確立させた三代目市川猿之助丈と、彼が倒れた後留守を守り続けた右近さんをはじめとする猿之助一門の方々の結束と献身に、心から敬服した次第です。右近さん演じるタケヒコが登場したとき、万雷の拍手が鳴り響いたのにはジーンときました。そして四代目猿之助丈!三代目の『ヤマトタケル』の映像をちらちら観てから行ったのですが、もうそっくりで……声、言い回し。「(猿翁丈には)自分の身体を使って好きなことをやってもらいたい」と言ってたけど、こういうことかと……いろんな意味で鳥肌が立ちました。口上で「歌舞伎のために命を捨てる覚悟」と仰っていましたが、その言葉の重みにひしと感じ入りました。「先代を超えるのは無理。新しい猿之助のファンを獲得していく」との言葉も思い出し、自分は四代目のこれからを観ていくのだなあと思いました。

そして今回の襲名披露に際してこの作品が選ばれたことに、宿命と言うものの意味を考えずにはいられませんでした。父に認められたい、愛されたい一心で戦い続ける息子の物語。そしてその父=帝を中車さんが、父子和解の象徴、ときを受け継ぐワカタケルを團子くんが演じていると言うこと。中車さん、グッとくる熱演でした。團子くんも堂々としたもの。大歓声を受けていました。

と言う訳でいやはやすごかった、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエ、京劇、殺陣…どんだけの要素が詰め込まれているかって言う。あの、のんびり観てられません。その分なんてえの、客席が集中してると言うか、観る以外のことが出来ないと言うか、歌舞伎の客席にありがちな、喋ったり動いたり袋ガサガサ言わせたり、てのがない!(笑)ハラハラドキドキほろりの連続のストーリーな上、見せ場の派手さが半端ない。熊襲の戦いの場面なんてどんだけ樽投げるのって言う。伊吹山で雹に打たれる場面も、どんだけ雹飛ばすのって言う…この辺り一歩間違えば大ケガなので(樽も雹もそこらじゅうに転がっているので、うっかり踏んだりしそうで)どうするのかなと思ったりし乍ら観てて、その処理の絶妙さに感心したりする面白さもありました(笑)。一転、タケルが山神の化身である猪(この猪がちょー格好いい。白毛に蒼い斑紋)と戦う場面ではほぼ裸舞台、奥行きをフルに使ってタケルと猪の躍動を見せる。猿之助さんの華奢な身体つきが身の軽さとして映り、若者タケルの俊敏さ、しなやかさが際立つ場面の数々。炎の場面も迫力、京劇役者さんたちの身のこなしにどよめきと大歓声。

毛利臣男氏による衣裳も豪奢、そしてかなり重そう。特に印象に残ったのは熊襲兄弟の衣裳。兄は大蛸、弟は大蟹を背負っています。この蛸と蟹がもうね、それはそれはの大物。普通のひとが背負ったら立ち上がれないのではないかと思ってしまう程の大きさです。動くときにたっぷりとした裾を後見が数人で持ち上げるのですが、それが羽根を拡げた孔雀か威嚇するエリマキトカゲかと言うヴィジュアル(笑)。もーーーむっちゃ舞台映えする。それを身に付けた熊襲兄タケルを演じた彌十郎さん、熊襲弟タケルを演じた猿弥さんの格好いいことと言ったら!!!大柄な彌十郎さんの存在感、猿弥さんの力強い動き。熊襲の場面はむちゃくちゃ楽しかったしドキドキハラハラしたしもう釘付けだった!

彌十郎さん、芝居もシビれた…むちゃ格好よかった……(ぽわ〜)熊襲兄と伊吹山の山神、二役を演じて二役ともタケルに退治されるんですけど(涙)その死にっぷりも素晴らしいんですヨ!頭領としての誇り!敗れ乍らも相手を無傷では帰さない神の威厳!もう持ってかれましたよ!熊襲兄は死んでから突っ伏してるシーンが長くて(笑・途中で衣裳から抜け出てるようなのですが)大蛸が床にべらーとなって延々死体が舞台に放置されているので、ヴィジュアル的にも面白いやら悲しいやら長く見られて嬉しいやら。伊吹山の山神の最期、山から後ろ向きに飛び降りるところには涙が出たよ!あーもう格好よかった…そして実は彌十郎さんに大向こうが飛ぶのを観たのも初めてで感激した……。

歌舞伎では珍しいカーテンコールにも、ストーリーに繋がる演出がありました。帝は二幕目以降登場せず、タケルは故郷に帰ることなく死んでいきます。使いの者から帝の許しを聴けたことはひとつの幸せでしたが、和解した父子は命あるときに顔を合わせることが出来なかった。カーテンコールでふたりは出会い、タケルが帝の手をとり跪き寄り添う、と言う場面がありました。そして二度目のカーテンコールには猿翁丈も登場!大歓声とスタンディングオベーション。涙ぐんでいるひとも沢山いました。手を振り、猿之助さんと中車さんと手を繋ぎ、一言も発せず客席を見渡しわずかにうんうんと頷いたその姿の大きさに圧倒された幕切れでした。

ストーリーに関しては、初日前に猿之助さんが言っていたとおり「二股交際の話」だった、と言うか二股どころではなかった(笑)タケルモテモテ、そして走水の場面の淡白さがすごい…弟橘姫を手放す経緯迄スピーディですよ!個人的には熊襲や蝦夷、伊吹山の面々に肩入れしてしまいます。九州出身者としてひいきもするよ!熊襲も蝦夷も楽しく暮らしてたのにー!ホント侵略だよあれはー!ヒドいよー!あーもう熊襲ちょーかわいそう…蝦夷も……。蝦夷と言えば弘太郎くんが演じた蝦夷っ子のヘタルベが愛嬌あってかわいかった。髪型もツインテールだしね(笑)。以前の脚本ではヘタルベが蝦夷に帰るシーンがあったそうで、それも観てみたいなあと思いました。弘太郎くん、カーテンコールでは女性から大向こうがいくつも飛んでいましたよ。

解りやすいものをバカにしたり見下したりすることの傲慢と危険性を改めて考えました。自戒も込めて。解りやすいからこそ、その奥にある登場人物の心情やストーリーの背景に思いを馳せることが出来る。そしてそれを豊かに、より深く想像することが出来るのではないか…と思いました。

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よだん。

・ヤマトタケル=みすず学苑の呪縛から解放されたぞー!これからはヤマトタケルと言えばスーパー歌舞伎!

・襲名披露記念グッズがいろいろあって目移りしまくりです。檜箱入りの信玄餅買おうか迷っている…な、中身食べたら箱はおべんと箱として使えるよね……

・あーあと蝦夷の衣裳、頭にどうぶつの尾っぽみたいなのがついてたのがかわいかったー。いやもう衣裳も見どころありまくりで大変…と言えば、これの初演時衣裳制作のバイトに入ったひとから話を聞く機会があったのですが、
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作り直したのか補修したのか、気になるところ。初演のだと、昔のだから、すごい重いんだよね。
衣装パレードで、ガヤの人がゴロゴロ〜って転がって、「大丈夫!転がれます!」って言ってて、バイク起こせないと中免取れない!みたいな?って言ってたんだよね。
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だって、シェー。今回のも相当重そうでしたよ……