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2011年11月18日(金)
『往転』

『往転』@シアタートラム

チラシの情報だけを見ると、「アンチェイン・マイ・ハート」「桃」「いきたい」「横転」から成るオムニバス形式の芝居かなと思っていたのですが、実際に舞台に載っているものはひとつの流れになっていました。しかし、しかしこの脚本は構成と言うかたちでとても手を入れられたのではないか………。それ程、こりゃ青木さんの力がすごく多大だなあと言う印象を個人的には持ちました。開演前の挨拶、“現在”の入れ込み方も含め。このパワーバランスって…うぬううう。このことは自分の邪推であるし、出演者の巧さ含めとても心に残る作品だったけど、なんとも言えないひっかかりが残った。以下ネタバレあります。

福島経由で仙台へ向かう夜行バスが横転事故を起こす。6人の乗客中2人が亡くなり、1人の乗客と1人の運転手が行方不明になる。時系列を並べかえ乍ら、乗客たちがバスに乗る経緯、それぞれの事故後を追う構成です。要所要所で左右の壁に日時を表す文字や、“調査団”を連想させる扮装をした人物たちが撮影した映像が映し出されます。

亡くなったひとりの女性は、全員父親の違う「生み散らかした」こどもたちに自分の遺骨を分配してほしいという母親の遺言を忠実に守り、最後の目的地に向かう途中で事故に遭う。出発前、数年前に別れた男性が会いにくる。リストラされたばかりで、妻子のもとに帰りづらい彼は、その遺骨分配の旅に同行することにする。道中ふたりはいろんなことを話し、いろんなことを思い、男性は深夜バスが休憩で停まったSAに留まり事故を逃れる。彼は女性の遺骨をひきとり、家にも帰らず、旅を続けることにする。

中心はこのエピソードで、いろんな形の鎮魂と、図らずも道を外れてしまったひとたちの姿が描かれていくのだが、どうにも物語の焦点がぼやける。何故この路線のバスなのだろう。桃農家の風評被害と調査団を連想させる人物たちは、エピソードとして必要だったのだろうか。どうしようもなく滲み出る現在と、意図的に組み込んだ現在の肌触りの違い。意図的でもいいのだ、今と言う状況を反映させたいと言う思いなのだろう。しかしイヤな言い方だが、ただ、それだけのことのように感じてしまった。そしてその提出方法を説明過多に感じてしまったことが残念。

出演者は皆素晴らしかったなー。聖子さんの人生の機微を感じさせる表情、弱さを隠し続ける強さを表す声色、仕草のひとつひとつ。優柔不断を絵に描いたような人物が、最後に決断したことの大きさと重さを感じさせる、大石さんの清々しい最後の姿。底抜けに明るく図々しい典型的なオバチャンが、実は息子に金をせびる程に浪費癖を患っていたことを告白するときの陰の濃さは流石峯村さん(唸った…)、仗さんの、金にスレて人間不信そうなのに実は情に厚い人物も印象深かった。自分の性に迷い、常にイラつき悩む女の子を演じた穂のかちゃんもよかったなー。ふたりの人物を演じた柿丸さんの切り替えも見事。市川さんと浅利さんは、行き着く先が不明瞭な難しい人物像をしっかり舞台に立たせていた。

聖子さん、峯村さん、大石さんはもう随分長いこと観ている役者さん。彼らがこういう、人生の後半を迎えた人物を演じる年代になったのだなあ、そして自分もそういう年齢になったのだなあ、としみじみした舞台でもありました。以前は気付かなかったことに気付けると言う意味では、嬉しいことでもある。

あ、あと選曲がものっそい80年代の坂本龍一周辺で、曲が鳴る度ギャッとなりました(笑)。しみついてる……。