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2011年08月05日(金)
『岸家の夏』

劇団鹿殺し 夏の女優祭り『岸家の夏』@青山円形劇場

久々に観ました、と言うか劇場で観たのは初めて。上京してきて東久留米に鹿ハウス設立した前後にやまこさんからすごいすごいと聴いて、路上公演を何度か観た以来……それからメンバーも随分入れ替わってますよね。『クラウド』に出演した山岸門人さんが素晴らしかったし、今回“夏の女優祭り”として千葉雅子さん、峯村リエさんを客演に迎えるとあってはこれは見逃す手はないと出掛けていきました。

いやあ、楽しかった…ちょっと元気が出ましたよ。すっかり嫌いになりつつある夏に気持ち希望を持ちたいなと思える心向きになった。と言うか、持つようにしようと思うきっかけになれるといいなあ。この世界はまだまだ愛せると思えるようになりたいな。

破天荒なイメージがありますが、ホンはしっかりしてるし(向田邦子の風情すらあった。ここらへんは今回のテーマから意識していると思う)、ダンス、歌、場面転換とあれだけの段取りの多さを(時間的にも空間的にも)まとめあげる演出も見事。シメるところはガッチリしめていて手堅い。そもそも劇団の出発がつかこうへいさんですし、いのうえさんが推すのもよくわかる…これは新感線好きにはハッとするところが多いと思います。ちょっとエンジンかかるのが遅い感じがしましたが(これは観客の反応に左右される要素も大きい)、構成の妙と役者の緩急自在な熱演で、中盤からぐいぐい引き込まれた、これはすごいと思いました。

そしてこの緩急、千葉さんと峯村さんの存在と言うものがとても大きかった。となると男芝居のときはどうなってるんだ…チョビさんの背負うものの大きさもうっすら感じましたが、今回千葉さんと峯村さんがいたことで、そこらへん突っ走れる部分もあったのではないでしょうか。ベテランの女優さんと言うだけでなく、年長者としての人間的魅力に溢れたふたりの女の懐の深さは観ていてゾクゾクするくらいだった。そして年長さんがあがく姿をも見せてくれていたと思う、体力的にも(笑)。あがいていいんだよー、て言うか歳とってもあがくもんですよ。あああれくらい大きい人間になりたいわ。それにしてもリエさんはホント素敵だ…声もしぐさも表情もだいすき。ナイロンの女優さんは皆品がある。勿論本人たちが持つ素養は大きいですが、ケラさんの役者を育てる手腕と言うものもすごいと思う。千葉さんの、『流れ姉妹』でも見せた本当は弱いのに甘えたいのに強がってしまう、しかもそれが出来てしまうからなかなか見抜けない、と言うもはや名人芸とも言えそうなキャラクターも素晴らしかったです。

あとあれよ(ネタバレ)、千葉さんのネグリジエ、リエさんの魔女の宅急便が観られたのんは嬉しかった…どストライクでした。チョビさん有難う!チョビさんのレディーガガ精肉ヴァージョンもかわいかった……。

いや〜ホント「ガードを下げれば舐められる ガードを上げれば寄り付かぬ」って歌詞は核心をついてたわ(笑)。そしてこんだけのダメ男カタログ、よく並べた。戦国武将ネタを観られたのもツボでした(笑)。

久々に劇団らしい劇団の公演を観られたと言うのも嬉しいことでした。ブレイクスルー寸前の劇団と言えばいいか。この歳になると、怖いものなど何もないような希望と野心に溢れた集団が、その幸福な季節の終わりを迎える場面を何度も見てきている。鹿殺しは一度それを経験している。そこからまた、ここ迄来たんだ。彼らの強さを感じました。そうなるともう、ブレイクスルーの瞬間を目撃したくなる。次回は紀伊國屋ホールに進出(こういうところも正統派だ)だそうです。