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2011年06月19日(日)
『幽霊たち』

『幽霊たち』@PARCO劇場

オースターの舞台化と言えば白井さん、と言うイメージがすっかり定着しましたね。白井さんがオースターに入れ込んでいるのは、ご本人もことある毎に発言されているし、よく知られていることだと思います。先日twitterでもケラさんがやってみたい!と発言されていたし、オースターの世界に魅了されている演出家は多いのだと思います。

小説から構成台本を起こしていく作業はたいへんな手間だと思います。しかし『幽霊たち』はオースター自身が書いた『ブラックアウツ』と言う戯曲が下敷きになっているのだそう。回想と現実が地続きになるような不思議な感覚があるオースターの世界は、想像力を駆使出来る舞台とは親和性があるのかも知れません。可能性が無限にある。だからこそ、実際に舞台にあげるのはとても難しい。

それでも果敢に挑戦を続ける白井さんの作品からは、オースターの世界を舞台にあげたい、と言う思いがいつも強く伝わります。そしてその、“白井さんが描くオースターの世界”のスタイルが明確になってきたように思いました。

『偶然の音楽』同様少数精鋭、ブルー、ホワイト/ブラックの2人以外は複数の役を演じる。彼らの動きには、システマティックな“型”がある。これも『偶然の音楽』からの流れ。今回は振付に小野寺修二さんが参加、コミカルでいて流麗、登場人物たちはダンスするように舞台上で身体を翻す。それにしても小野寺さん、今年は上半期だけでも『金閣寺』『あらかじめ』『黒い十人の女』そして今作と、ちょう多忙!あちこちから声が掛かるのも納得のオリジナリティ。

登場人物たちがソフト帽にトレンチコート姿なこと、PARCO劇場だと言うことから、フィリップ・ジャンティ・カンパニーの作品群が思い出されました。


Philippe Genty - La Fin des terres 3/3 投稿者 Zycopolis

フィリップ・ジャンティ・カンパニーは人形や小道具含めてのものだし、スタイルは違いますけどね。でもソフト帽にコートのシルエットはある種神秘的にも見える美しさでした。

芝居を進める演者たち以外の人物は無彩色の衣裳。舞台美術も照明も、基本無彩色。そんななか、名前と同じ色の衣裳を着たブルー、オレンジの姿が鮮やかに浮かび上がる。そしてすっかり白井さんとのタッグが定番になりつつある(うれしい)、三宅純さんの音楽がすごくよかった!opのsaxカルテット、一音目から鳥肌!音響は井上正弘さん。既存曲もあったけどサントラ出してくれないかなあ。

後ろ目の席だったんだけど、演者の動き、装置や映像とのバランスと、全体的に引きで観られてよかったなあと思った。オースターの世界が視界いっぱいに拡がる。幕開けと幕引きの、ブルーの影が背後に大きく伸びていく光景も素晴らしかった。影はふたつに分かれる。それぞれ違う道を行く。ものごとは動き始めたらもう止められない、自分かも知れなかったあのひと、ああなったかも知れない自分。誰かを見張っている自分は、実は誰かに見張られている。見ることと見返すこと。幽霊たちはブルーの死んだ父親かも知れない、世話になった先輩探偵かも知れない。

蔵之介さんにはどこか浮世離れしたところがあり、それは探偵と言うちょっと変わった職業を演じるのにピッタリだった。Team申で前川知大さんと組んだ作品といい、SF=すこし不思議なシチュエーションにピタリとはまる。