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2011年06月04日(土)
『軽蔑』

『軽蔑』@角川シネマ新宿

役者と監督の熱意が伝わる、ヒリヒリした映画。激しく、痛い。

原作とは後半からの流れが変わっており、人物造形もかなり変わっていました。別ものとは解っているものの、先に原作を読んでしまったので気になる部分はあった。真知子がカズさんの故郷、カズさんをとりまく人々に対してどういう思いを抱いているか、と言うのが反転してしまっているくらいの印象を受けた。

ただそこが映画の面白いところで、原作は真知子が何を考えているかの描写がしっかりとあるが、その心のなかを周囲の人間が察することが出来るかと言うと、出来ないと言っていい。真知子は孤独で、それを受けて彼女は強い。たったひとりで、身体ひとつで稼いで生きていた。カズさんの故郷で暮らす真知子には既知の友人もおらず、彼女のことを理解出来る人間は皆無に等しい。真知子に見えていたものは、第三者にはそうは見えないのだ。

杏ちゃんも高良くんも目ヂカラがものすごい、目が雄弁。真知子とカズさんは目でものを言う。基本退きで長回しの映像がふっと寄り、アップになるときの力強さは半端なかったです。高良くんなんか後ろ姿でもあの視線を感じるくらいの強さ。餃子のシーン、顔映らないのに震え上がったわー。

そうそう原作にない(クリームシチューはありましたね)この餃子のシーン、よかったなー。ピーと一緒にカズさんの帰りを待ってごはんの準備をしてる。程よい図々しさと程よい仲のよさ。なんだかむずむずするような違和感。新婚の旦那の留守中に、嫁と旦那の友人がふたりっきりで餃子包んでるんだもんね。この部分も、真知子が腹のなかでどう思っていたかピーには解らず、勿論第三者にも解らない。

山畑は原作とは違う造形でも、個人的には面白かった!久々にくろーくてわるーいおーもりさんを観た!ちょーこえー!言い訳しようもない悪人ですやん。原作ではカズさんがとにかく金にだらしなく、山畑の言動は常識あるまともな人間だった。借金に関しては確かにカズさんが悪いと思えた。しーかーしーこちらの山畑と言ったらいやあんたそこ迄やらんでも、それやっちゃったら!てな高利貸しでしたがな。いやはやこんな展開になるとは……。

しかしそのおかげで?山畑に得体の知れない魅力が出て、マダム役の緑魔子さんと対峙するシーンの迫力と言ったらもう最高でした。カズさんと山畑の対決シーンも『タクシードライバー』みたいでゾワッとなった。そしてそんな山畑だったからこそ「何故おまえだけが愛されるんだ」と言う台詞が響く。破滅的なカズさん。その資質は山畑とそう違わないように映る。なのにカズさんは世界から愛される。そしてそんなカズさんと真知子が愛し合うことを、世界は許さなかった。世界はふたりに背を向けた。そうなると結末は見えている。カズさんによって地上へ降り立った天女真知子は、また空へ舞い上がっていく。

原作では明記されていなかったカズさんの故郷を、中上健次の故郷新宮として撮ったところにも監督の思い入れを感じました。海と山、深い自然がすぐ傍にある聖域、熊野神邑。

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初日舞台挨拶も観覧出来ました。廣木監督、高良くん、杏ちゃんに途中サプライズで(でも監督も高良くんも「知ってたー(ニヤニヤ)」、杏ちゃんがひとりビックリすると言う微笑ましさ)カズさんのとりまき三人組を演じた日向寺雅人さん、蕨野友也さん、小林ユウキチさんが飛び入り。厳しい乍らもいいチームだったようです。

杏ちゃんは終始晴れやかな笑顔。「初日は嬉しいけど、手を離れると思うとちょっと寂しい気持ちもあります」。やりきった!と言った感があったようでした。高良くんはぽつぽつと話す朴訥さでしたが、そのボソッと言うことがいちいちグッとくる。「沢山の映画が公開されるなか、『軽蔑』を選んでくださって有難うございます」「廣木監督は役者の手柄にしてくれる監督」等々。そして思い入れのある『軽蔑』と言う映画、カズさんと言う役とお別れになるのは寂しいですか?と言う質問に「会わなくても、ともだちはともだちですから」と言ったことがとても印象に残りました。

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よだん。ホント退きの映像が多かったので、トモロヲさんは「あれ、トモロヲさんだよね…?」としばらく訝り乍ら観た。忍成くんに到っては終わってパンフ見る迄どこに出てたか気付けなかった(笑泣)