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2009年06月27日(土)
『アンドゥ家の一夜』

早起き出来たので(つうか暑くて目が覚めた…)余裕を持って与野本町に到着したぞ!評判のパン屋さんに行けたぞ!フィレオフィッシュバーガーと、ガチャピンを模したガチャパンと言うふざけた名前のパンを買って、さい芸ロビーのベンチでうはうは食べていたら(確かにうまかったーフィレオフィッシュサクサク!)近くのベンチに清家さんが座っている。あー観に来たのかなーいやー役者さんはオーラーがあるねー普通に座ってても存在感あるねーしかし何かと目立つ風貌だなー私服も衣裳みたいだなーと思う。そのうち清家さんは席を立ってどこかへ行ってしまった。食べ終わって私もそろそろ行きましょうかね、と開演10分前に劇場に入ったら、

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さいたまゴールド・シアター『アンドゥ家の一夜』@彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

清家さんは舞台上にいた(笑)出演者たちの稽古の相手をしている。中越さんも、蜷川さんも舞台にあがっている。開場時から芝居が始まっていたようです。リハから観客に公開して、そのまま本番に繋げる蜷川さんのよくやる手法です。開演時間になると舞台上から降りていきましたが、客席通路や最後列からそのまま芝居を見守っていました。プロンプターも3人が常時待機、実働する場面もちらほら。

この「全部見せる」は功を奏していた。観客側も、ただ受け身で観るのではなく、想像力を使って観る姿勢にスウィッチングしやすくなった。これが、終盤起こるある奇跡のシーンを素直に受け止められるいい効果になっていた。

今回脚本が遅れていることは周知と言うか、ケラさんのブログを日々チェックしてヒヤヒヤしていたひとは多いと思います。ケラ脚本の遅れに慣れている(…)ナイロンのメンバーならまだしも、初顔合わせのゴールド・シアターの面々がどこ迄台詞を入れられるのか?失礼乍らも心配ではあった。当日配布されたパンフレットに記載されていた登場人物一覧と、蜷川さんが初日朝に書いたコメント付きの簡易印刷紙に記載されていた登場人物一覧には若干の違いがありました。ケラさんがギリギリ迄粘ったのでしょう。

初日は延びない。現場を任せられた演出家はどんな仕事をするか。「100人の群衆が現れて…」と書かれた脚本を受け取って「カンタンにこんなこと書きやがってー!くやしい!しかし書かれていることを舞台にあげるのが演出家じゃー!」と本当に役者を100人出した(笑)蜷川さんですから、テキストにどんなことが書かれていても、必ず舞台上で表現する筈です。どこ迄狙ったかは判断付きませんが、リハを見せる、プロンプがいる、と言う仕掛けは「脚本の遅れに現場が対応出来る精一杯です」との言い訳ととられるかも知れないが、「これは芝居です」と言う状態を常態にシフトさせる力もある。天井の高さと設備階段をそのまま活かした(この劇場、綺麗でキャパ多めのベニサン・ピットみたい。結構空間が使える)中越さんの美術もよかった。芝居は現在と地続きだ。

以下ネタバレあります。

危篤の安藤先生は生き霊?となって皆の前に現れる。どうやら挨拶に回っているらしい。他愛のない話をしているそうだが、それは当人たちにしかわからないし、彼らはそれを他人に話す必要はないと思っている。他愛のない話だが、それは安藤と自分の間だけにしかない、とても愛おしい思い出話でもある筈だ。しかし安藤の妻の前に、その生き霊は現れない。

危篤の報を受け、約50年振りに顔を合わせた安藤のかつての教え子たちは、当然長い時間を生きて来たが故のいろんな事情を抱えており、久し振りの再会を機に現状を打破しようとする者、再会したが為に当時のコンプレックスを掘り返され荒れる者と様々だ。

老いても欲望は尽きない。彼らの姿は哀愁を伴いつつも滑稽で愚かに映る。しかしそれが全て肯定的に描かれており、笑いに昇華されている。人生を送ると言うことが肯定されるなんて、とても素敵なことだ。

当て書きだろうくらいに登場人物のキャラクターが役者と通じ合い、生きている。42人の書き分けが見事です。すごいなケラさん、そんなにゴールド・シアターと稽古を持つ時間はなかったと思うのだが…。それにしても宇野役の葛西さんはどんどんすごいことになってってるな(笑)こないだはパンいちとかだったよね?おかしいとこ担当みたいになってる(笑)

終盤起こる奇跡はふたつある。

死んだ安藤の魂が、安藤の娘が持ち込んだ怪しい宗教グッズのような青い球に宿る。球は小動物のように部屋を転がり、安藤の妻はそれを追いかける。「いてほしい時にいつもいな」くて、安藤の生き霊が自分のもとに現れないことを気に病んでいた安藤の妻は、最後の最後で球に宿った安藤の魂と会話をすることが出来る。妻は過去の不義を告白し、それでも「あなたといられて幸せだった」と言う。安藤もそれに応える。ここにも肯定がある。

多分笑えるシーンでもある。青い球は黒子が糸で釣って操っている。それが観客にもハッキリ見えている。しかし釣り糸が見えていても、黒子がステージ周辺を走り回っていても、舞台上で必死に球を追いかける安藤の妻の姿を観て涙が出た。これは演劇にしか出来ないマジックだ。

そしてその球を、隣家の息子が捕まえてはしゃぎ乍ら持って行ってしまう。息子は83歳の役者が演じている。でも、彼は“ちいさなこども”だった。

これ迄ゴールド・シアターは「高齢者のリアルな身体を通した表現が出来る集団」と言うのが持ち味だった。「老けメイクをしなくても老け役が出来る」と言うやつだ。しかし、この“ちいさなこども”は、その枠から明らかにはみ出している。こうなると、「高齢者だから」と言うアドバンテージは必要なくなってくる。可能性が拡がっている!今後がますます楽しみです。

現場に居合わせた幸福感に満たされ、余韻も残る作品でした。迷ってる方は是非。

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■思えば
プロンプが入ってる芝居初めて観たかも。『夜叉ケ池』の丹波哲郎さんのあれは、本人が台本持ち込んでたからなあ(笑)

■しかし
こないだ『楽屋』を観たので、プロンプの姿にはいろいろ想像力が掻き立てられました(苦笑)

■そして
ケラさんはまた“柔らかい銀行”をいろいろいじめていた(笑)
あと最近か?前からだっけか?モチーフに象が出てくることが多いですね