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2006年08月26日(土)
『噂の男』

『噂の男』@PARCO劇場

ネタバレあります、未見の方はご注意を。

『小鹿物語』を観た翌週にこれとは…いい流れで観たなー。笑いに関わったことで身を滅ぼすひとたちの話です。今年のケラさんは冴えまくってますね。『ヴァージニア・ウルフなんてこわくない?』を意外な迄に希望の残るラストに持っていったひとが!今回はもー悪意しかありません。徹底的に、丁寧に、人間の悪意、それも解決策のない悪意を描いている。福島さんの元の脚本を読んでみたいよ。

あーでも逆に、その悪意だらけな筈の「人間を信じる」ところがあるとしたら、それは面白いものになるとケラさんを信じて潤色を許した福島さんにあるし、福島さんのストーリー構成を信じてここ迄潤色したケラさんにあるんじゃないかな。そしてここ迄人間の嫌な部分を演じた役者陣に。悪意だらけの舞台を観て、観客が笑うことを信じている。そんなことを信じるってのも、まあ人間のいいところなんじゃないかな…嫌なもんですけどね(苦笑)

二度目のタッグがあるかは判らないな…でもいい座組だと思います。この組み合わせでしかやれないものが出来たのでは。この企画出した細川社長もすごい。

演出はやはり手堅い。終盤のスポットライト→地明かりにして現実に引き戻す(モッシャンにはもうスポットライトなんて当たることはないのだ)→暗転、の流れは、この芝居を決して幸福には終わらせないんだぞと観客を徹底的に叩きのめす。

が、そのひとり漫才をするモッシャンの姿や(前半胸くそ悪くなるくらいの彼の狼藉を見ているのにも関わらず、だ)、パンキチのふたりがワンマンライヴのために打ち合わせをしている時、ほんの少し幸福な風が流れる。そこにホッとしてしまうのが人間の呑気なところでもあり、よく言えば「人間を信じている」ってことなんだろう。

あーでもモッシャンにはこどもっぽい暴力性があったけど、アキラはアキラで根の深い嫌な部分があったよな。鈴木をいびり倒してるモッシャンに「やめなやー」と言いつつ全然止めないところとか。ひとに興味なさそうだし。

笑い声のSEがとても効果的。タイミングもしつこいくらい計られている。悲惨なシーンであればある程その笑い声は恐ろしく響く。そして、悲惨なシーンであればある程、そこで笑ってしまった自分を呑気だと思うし、嫌な気分にさせる。でも笑う。そして「嫌な話だったねー」と泣きそうに笑いながら帰って行く。それが人間のダメなとこでもあり、タフなとこでもある。

そしてケラさんは女のえげつなさを描くのが本当に巧い…女同士ですらなかなかあそこ迄突っ込めませんぜ。男はドン引きしますわな…同性ですらひいたもん、でもちょっとあれ、解る。解るって言いたくないけどね…そしてどの部分がそうかは言わないけどね…。演じた水野さんも素晴らしい。ありゃたまらん、最低だ(ほめてる)。ちっともデフォルメされてないと思う。ああ言う女は実在するぜ!

ひっかかるところはちょこちょこあるのです。やはり上演時間が長い。いや、150分休憩なしってのはケラさんの芝居からすると短っ!なんだけど(笑)このストーリーの流れなら、120分↓にも出来たのではないかなと思った。特に終盤ちょっと迷走気味になり、「どこで終わらすのん…あれとあれが片付いてないから、ええと…」と何度も思った。解せないところもあるし。アキラは事故死ってことで片付けられてたの?頭蓋骨粉砕してるだろう、あれ。検死するだろう。とか、トシとボンちゃんの関係性がちょっとハッキリしなかった、とか。

悪意を丁寧に引き出すのに重きが行ってしまい、ストーリーの辻褄が放置になった部分はあったと思います。なのでサスペンスとして観るものではない。最後にユキオを殺したのはモッシャンだったと言うことが判明するけど、まあキチガイの言ってることなんで正直真実か判らないし、それが連鎖の発端になった訳でもない。ひとは簡単に死ぬし、それに意味を見いだせない場合が多い。だからユキオの息子の加藤は、怒りの持って行き場がない。

バックステージもの、笑いに関わって身を滅ぼす人間をケラさんがとりあげることは多い。PARCOでは3年前に『SLAPSTICKS』が上演されている。

中盤、実在したお笑い芸人の壮絶な死に様を列挙するテキストが流れる。これはやはりケラさんのお笑いへの愛情と、醒めた目線なんだろう。

ひとつ邪推。今回の芝居って、『LAST SHOW』がボーダーになってる部分がある気がしたな…あのレベルの暴力(動物虐待の描写も含め)がPARCO劇場でオッケーならこれも行けるだろう、って。どうだろう。

うわーとっちらかってるな。まとまってない!でも勢いでこのまま載せる!

BGMはハリー・ニルソンの「EVERYBODY'S TALKIN'(うわさの男)」でお送り致しました。劇中エンディングで使われたケラ&ザ・シンセサイザーズのカヴァーもよかったな。つーか、オリジナルかと思った程の完コピでした(狙ってとのこと)。声、似てるねー!細川社長の発注だったとのこと。憎いねこの!