雲間の朝日に想うこと


< 瘡蓋を剥がして良いですか >


俺が痛みに気づいたのは、
一息付いた時だった。

お互い相手を貪り喰う事に夢中で、
痛みすら何処かに飛んでいた。



 「血が出てるよ?」
 「痛てぇ・・・」



カーペットとの摩擦で出来た、
火傷のような丸い傷。

皮膚が薄く消え失せて、
体液で表面が覆われている。



 「動き過ぎたよね・・・」
 「薬塗る?」



痛みを堪えながらも、
笑みがこぼれて仕方がない。








この傷が消えると、
貴女との逢瀬が幻になる様な気がして、
膝に出来た瘡蓋を剥がした。


あの時の様に、
透明の体液で表面が光り始めている。





そうか。
やっと想い出した。

貴女の内股に、
キスの痕を付け忘れたんだ。


2002年10月28日(月)


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2001年10月28日(日) 損な恋愛って存在しますか



< 必要とされていますか >


例えどんなに都合の悪い事でも、
貴女が俺に隠し事をしたくないという気持ちは、
良く理解しているつもりだった。

けれども、


 「何でも言う女は嫌い」


馬鹿な台詞を貴女に吐いた俺は、
何日か前には、


 「何でも言って欲しいから」


なんて調子の良い言葉を、
貴女に対して言っていた事を、
怒りで忘れていた。





俺の欲しかった物は、
謝罪の言葉では無い。

俺の欲しかった物は、
別れた以上、
あの男が貴女に対して甘える事など許されないのだと、
あの男にわからせてやる事。


結局俺が欲しかった物は、
貴女への独占権。









貴女に意地悪したかったんだ。
貴女を振り回したかったんだ。

唯一俺だけに許された権力を、
振りかざしてみたかった。



 「私はもう必要無い?」
 「私には小坊主が必要だよ。」


そう言う貴女に言えるだろうか。









俺には貴女が必要だよ。
いつまでも俺を必要としていて欲しい・・・


2002年10月26日(土)


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< 脅威を感じているのか >


あの男が貴女に送って来たメールの内容も、
あの男が貴女に送って来た電話の内容も、
まるで最愛の人に贈る言葉。

女に対する男の甘えが存分に詰まっている言葉。


自分が大怪我したなんて言葉は、
元妻に吐く冗談では、
決して無い。

どう考えても、
俺にはそれ以外の解釈は出来ないよ。






俺には元旦那という存在を感覚として捉えられない。
俺には元夫婦という関係を感覚として理解できない。

相手は未知の生物だから、
恐怖感と不安感に身体中を鷲掴みにされて動けない。








あの男はまだ貴女に好意を持っている事を、
貴女が気付かない筈は無い。

あの男はまだ貴女に未練がある事を、
貴女は気付かない筈が無い。






あの男と貴女は、
どういう関係なんだよ。
あの男と貴女は、
どんな話をして別れたんだよ。

俺の知らない貴女を知っている男・・・
小さな宝物の父親という絶対的な切り札を持っている男・・・



怖いよ。


2002年10月23日(水)


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2001年10月23日(火) 終わりの予感がありましたか



< 報いですか >


アイツが弱っている事が、
手に取る様にわかる。

アイツの不安な気持ちは、
痛いほどわかる。



けれども、
前の恋人がどんなに困っていても、
俺にはアイツに声をかける事が出来ない。

俺の言葉は、
アイツが待ち望んでいる物で、
アイツを余計に期待させるだけだから。









無責任な言葉で俺が逃げたから、
その報いを受けているんだ。



 「友達に戻れば少しは楽になる」


無責任な言葉でアイツと離れたから、
その報いを受けているんだ。



 「好きな人が出来た」


アイツにとっての決定打は、
俺はまだ言えずにいる。

アイツにとっての決定打は、
今とてもアイツには言える状況じゃない。









アイツにとって大切な父親。
俺にとっても、
とても世話になった親父さん。


 「具合はどうなの?」


たった一言が遠く高くにあって、
手を伸ばしても掴めない。


2002年10月21日(月)


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< 柔らかかったですか >


知らない街を独りで歩いた。


 「太陽を背にしてぇ〜」
 「広い通りを歩いてぇ〜」


貴女の言う、
たったそれだけの言葉を頼りに、
ひたすら歩いた。





受話器の向こうにいる貴女が、
俺の目の前で手を振った。

逢いに来た事を実感する、
最高の瞬間。




制服姿の貴女は、
昼休みに抜け出して来た貴女は、
他人の様に余所余所しく振る舞ったけれど、
唇だけでも奪えたからそれで良いさ。






 「小坊主の唇は柔らかかった・・・」






貴女に先に言われてしまったから。

同じ位貴女の唇が柔らかくて、
それに反抗する様に俺が固くなっていた事は、
悔しいから内緒。


2002年10月19日(土)


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< 暖かくはないのですか >


受話器から届く貴女の声は、
きっと白い息に包まれているんだろう。


 「今日の気温差は10度だよね」
 「寒いよ〜」


俺の住むこの地でさえ、
紅葉色の葉が目立って来た。

貴女の住む地では、
紅葉は既に終わりを向かえつつある。







 「寒くないだろ!」


殊更寒さを強調して甘える貴女に、
一つだけ意地悪をした。


 「あっそ、貴女は寒いんだ・・・」


殊更寒さを強調して甘える貴女に、
少し不機嫌になってみた。



いつもの様に、
しばらくしてから気が付く貴女。

その地団駄を踏み悔しがる貴女が、
俺のお気に入り。













明後日は貴女が横にいるんだ。

寒かったら、
寒さなんか感じさせたら、
承知しない。


2002年10月17日(木)


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< 次は早くキスしてくれませんか >


貴女の身体には、
俺には聴き取る事の出来る鈴を、
ちゃんと付けてあるから。

貴女の仕草には、
俺には嗅ぎ取る事の出来る匂いが、
ちゃんと付いているから。


どんなに急いでいても、
貴女の音は聞き逃さないよ。




 「行ってらっしゃいのちゅぅしたのに・・・」
 「すぐに電話切っちゃったでしょ」

 「ちゅぅが聞こえなかったでしょう?」




本当に残念な気持ちが溢れた文面。


電話を切られた事に対する残念な気持ちと、
聞こえなかったと言う事に対する残念な気持ち。

そしてもう一つ、
ほんのちょっとだけ隠し味が入っているよね。








躊躇してしまった事に対する残念な気持ち。

貴女が躊躇したから、
俺へ気持ちを届けるのが遅れてしまった。











照れに照れて、
やっと贈ってくれたキスの音。

ちゃんと届いたから。
遅くなかったから。




心配しなくて大丈夫。

今更そこまで照れなくても良いのにと、
微笑みを浮かべながら受話器を置いたんだから。


2002年10月15日(火)


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< 俺は出たらいけませんか >


アイツと連絡すら取らなくなって、
既に数ヶ月だ。

一通の手紙のやり取りですら、
今はもう無いのに。








旅行の計画を断ったらしい。
折角の誘いを断ったらしい。



 「やっぱり最後には」
 「好きな人のことが好きって思う」



胸が痛む必要なんて無いのかも知れない。

もう終わった事。
もう決めた事。



それなのに、
アイツのサイトに書かれた文字を見て、
胸が痛んだ。









何故?
何故飛ばない?

それじゃ何も変えられないじゃないか。
俺が嫌いになったアイツそのままじゃないか。





伝えてやりたいけれど、
それはアイツの迷いを生むだけだよな。


2002年10月13日(日)


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2001年10月13日(土) 貴女の心はどこにありますか



< 暗い道を照らしてくれませんか >


小さな彼と会える事を楽しみにしていた。
少しずつでも進んでいると実感できる、
ちょっとしたイベントだから。



 「まだ別れて何カ月も経って無いじゃない」
 「本当に子供の事考えてる?」
 「何考えて会わせようとしているの?」



親友が貴女に伝えて来た言葉は、
もっともな事かもしれない。

俺と貴女だけの考えは、
著しく客観性を欠いた考えになりがちだ。
第三者の言葉を聞くのは、
自分を良く知っている親友の言葉に耳を傾けるのは、
とても大切な事だろう。




焦る必要はないし、
そもそも一番大切な物は小さな彼の気持ちだから。

親友の言葉を正しいと感じて想い直した事であれば、
貴女の意見を尊重するよ。










けれども・・・

貴女の小さな声が、
貴女の自信無さを代弁しているようで、
どうしても不安だった。

他人の言葉にただ揺らされ、
コロコロと意見を変えただけに見える、
そんな貴女を不満に想った。




彼と顔を合わせる事は、
まだ本当に時期尚早なのだろうか?


 「お母さんが大好きな人だよ」


そんな紹介しろと言って無い。


 「友達が遊びに来る」


たった其の一言でも、
小さい彼を苦しめるに値する言葉なのか?









その問いに答える術が無い。

彼の心の中を感じ取る経験も全然足りない。
彼の周囲の環境を手に入れる力も持たない。
俺には子供が居ない。




だからどう藻掻いても、
貴女の言葉に従うしか道が無いんだ。


そんな道が不安だらけに聞こえたら、
俺は一歩も動けない。


2002年10月07日(月)


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< 俺の魅力は何処にありますか >


困っている人がいれば助けたいし、
悩んでいる人がいれば力になってあげたい。

それが例え異性であっても。



 「誰にでも優しくしたら駄目だからね」



まるで見透かされているかの様な貴女の言葉に、
少し恐怖感を覚えた。



 「でも小坊主は・・・」



後から続けようとした言葉に、
複雑な貴女の想いが詰まっている事も、
すぐにわかった。









本当の優しさがどんな物なのか、
俺には良くわからない。
だから俺は、
素の自分に従って行動しているつもり。




俺が俺らしく振る舞う事が、
貴女にとって心配極まりないのだと言う事は、
良く理解している。



けれどもこんな俺だから、
貴女は俺を好きになったんだよね?
俺の魅力って此処だよね?













貴女が居るから俺で居られる。
貴女が居るから俺は皆の力になれる。



貴女の前だと、
俺はとびっきりの笑顔を手に入れられるから。

この笑顔を引き出してくれる貴女が、
俺の一番の宝物。


2002年10月06日(日)


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< 腕の中の温もりが届いてますか >


受話器越しに貴女に触れて、
受話器越しに貴女を抱いて。

受話器越しにお互いを感じて、
貴女が達して俺も達して。



何度も何度も貴女へ気持ちを贈った筈なのに、
顔をぐしゃぐしゃにして泣き出した貴女。





俺の気持ちが足りないのか?
それとも貴女の周囲に何か起きたのか?

突然降って湧いた疑問に戸惑って、
収拾のつかない俺の中枢。




 「ごめんね・・・」
 「ごめんね・・・」
 「ごめんね・・・」



謝り続ける貴女を、
俺はちゃんと支えていられたか?

漠然とした不安に、
今にも潰れてしまいそうな貴女を、
俺はちゃんと安心させられたんだろうか?












貴女に届ける久しぶりの声は、
いつもの俺だろう?


だから早く、
その垂れた洟を拭きなってば。


2002年10月02日(水)


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