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雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 0
遠いとおい草原を森を山々を駆け抜けてきた風が、冷たく月光を反射する街路を音をたてて通り過ぎ、処刑台の丘に生える名もなき草を揺らす。街の外れの林の中では、遙か彼方の、血と錆びで汚れた地区に咲く花が蕾を綻ばせている。
白壁の建物。黒光りする瓦屋根。足音を鋭く響かせる石畳。
行き交う人の多くが身に纏うのは鴉色の装束。腰に差すのは斬魄刀。
ここは「調整者」死神の住まう街。瀞霊廷。
ここで流されるのは血ではなく。ここで奪われるのは命ではなく。見開かれた目を塞ぎ、研ぎ澄まされた耳を塞げば、人は生きながらえる。
生きていくことは可能だった。
生きていくことだけならば、可能だった。
なのに何故、この眼はあの姿を探すのだろう。
なのに何故、この耳はあの声を探すのだろう。
伝える言葉はもうどこにもないのに。
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