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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年12月18日(火) --

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★冬休みのお知らせ。

いつも夢の図書館をたずねてくださって ありがとうございます。

本日より、新年まで冬休みをいただいて 蔵書の虫干しやら、新しい本の準備など したいと思います。

それでは、2002年にお会いしましょう。

2000年12月18日(月) 『植物一日一題』

お天気猫や

-- 2001年12月17日(月) --

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『コルシア書店の仲間たち』

ミラノ。

コルシア・デイ・セルヴィ書店、 通称コルシア書店。 司祭で詩人のダヴィデ・マリア・トゥロルドが 教会の軒を借りて友人たちと始めた 自由な空気の「居場所」。

夢のいる場所。

1950年代から10年余り、そこに居場所を求めた、日本人の「私」。 書店仲間のひとり、ペッピーノと結婚する「私」。 今は夫に先立たれ、日本に帰っている「私」が、 時を経て、あのころの回想を記しはじめる。

書店をとりまく人々の、日本語によるデッサンが 淡々とつづられて、やがてコルシア書店の姿と その時代がイメージをなしてゆく。 さまざまな階層、生き方。 やがてダヴィデが書店から離れ、 遠心力を失ってゆく「夢の場所」を ミラノという街の内側で描いている。

以前からイタリアは街によって性格がかなり異なるとか、 いろいろ聞くけれども、自分で確かめたわけではないから ミラノはどんな街、と聞かれても、こうだとは 言えないのだった。 それが、いまはちがっている。 なんでも想像力のままに思い入れてしまう私は、 もうすっかり須賀さんのミラノを内にとりこんでしまった。

その稀有な体験から何を選び取り、何を感じとるか、 感性の命ずるままの優先順位で彼女は文章をつむぐ。 こんなふうにいうと、すごくざっくばらん、衝動的に 書いているように思われそうだが、 須賀さんの文章から一般的に抱くイメージは まったく逆なので念のため。

どんなに淡々とつづっても、過ぎゆく時間のなかから 抽出されてゆく他者の情熱は、 読むものを熱い思いで満たしてゆく。 それはもともと、作者の内にあった情熱のうつり火だ。

読みながらうかびあがってくるのは、 上流・中流・その日暮らし階級のミラノ人への シンパシィとともに、 その流れのなかで、この文章をたぐり寄せた人の姿である。 きっと書店仲間の誰もが尊敬の念を まなざしにこめて接していた、 ひとりの、たぐいまれな日本人女性。 自分のことはほとんど語っていないにもかかわらず、 ちょっとした誰かの言葉や行為によって、 語り部の姿がデッサンされていく。 あの個性的な面々にとって、須賀さんが どんな存在だったのかも。

ときどき思う。 作家というのは、なにも一冊の本を出さずとも、 生まれついての生き方の呼び名だと。 表紙に装丁された船越桂の彫刻は、 「言葉が降りてくる」という言い得たタイトル。 須賀敦子が61歳で作家としてデビューし、 70歳を前にして惜しまれつつ他界したと知っても、 彼女のために惜しいとは思わなかった。 ただ私たち読者にとって、惜しい。 だが、どのみち彼女はずっと、 作家の目でものを見ていた人なのだ。

※2000-2001年にわたり、河出書房新社から 『須賀敦子全集』を刊行。

(マーズ)


『コルシア書店の仲間たち』 著者:須賀敦子 / 出版社:文春文庫

お天気猫や

-- 2001年12月14日(金) --

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『クリスマスのフロスト』

☆特集:『英国オヤジ刑事四人衆』その(5)

ここはロンドンから70マイル離れた田舎町デントン、 架空の街ではありますが、再開発された住宅地が増殖して 落ち着いた旧市街地を飲み込むのも時間の問題。 品の無いジョークとセンスの悪い服装と だらしないオフィスといいかげんな書類仕事、 プイライベートの時間もほとんど取らない仕事魔で 現場には人望も有る秘かに冴えてるフロスト警部は デヴューと同時に日本でも大人気となりました。 他の英国有名刑事達と上手く振り分けてある、と 言うのも変ですが、こちらの警部は 奥さんを病気で亡くしたやもめ暮らしです。

「創元」のフロスト物はこれまでの 「ハヤカワ」三オヤジ刑事物とは 若干雰囲気が異なります。 ハヤカワの三オヤジは警察官というよりある意味名探偵、 舞台は由緒ある街、随所に文学的な香りが漂います。 言い換えればアニアックかつスノビッシュ。 一方フロスト警部のシリーズは 一日の業務を丹念に記した警察小説であり ごちゃごちゃした町も風采があがらず仕事が好きな主人公も 馴染み深い日本の風景とオヤジさんを彷佛とさせます。 これは日本で人気がでますよね。 イギリスらしい場面といえば 凍えるクリスマス前の町で警部が あっちでもこっちでも暖かいお茶を 振舞われている所でしょうか。

『クリスマスのフロスト』はR・D・ウィングフィールドの 処女作だそうですが、細部は丁寧に書き込まれ 断片的に発生する事件はきちんと流れを追う事ができ、 全体の構成もばしっと決まって 良く出来たTVドラマのように読みやすいなあと思ったら、 現役の脚本家さんなのだそうです。納得納得。 (ナルシア)


『クリスマスのフロスト』著者:R・D・ウィングフィールド / 出版社:創元推理文庫

2000年12月14日(木) 『ユング』

お天気猫や

-- 2001年12月13日(木) --

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『骨と沈黙』

☆特集:『英国オヤジ刑事四人衆』その(4)

ここまでの罵詈雑言を部下はおろか 一般市民に向かって浴びせて良いものか、 偉大なる英国の傲岸不遜な巨体警視、 アンディ・ダルジール(本当はディーイールとか 発音するらしい)これにあり。

レジナルド・ヒルの人気シリーズ『ダルジール警視もの』は 相棒のインテリ青年ピーター・パスコー警部(昇進中)が 一方の主人公でもあって、 それぞれに独立した作品でも活躍しています。 スマートなパスコーのシリアスミステリよりも 下品なダルジールの爆笑ミステリの方が どちらかといえば私は好きかも。 ああ恐ろしい、ここまでオヤジに毒されている。 ダルジールは過去奥さんに逃げられて、 パスコーはシリーズの中で恋人と再会して 婚約して結婚しています。

分厚い『骨と沈黙』の前半はなかなか話が動き出さず、 しばらく警視の罵声にじっと耐えねばなりませんが、 佳境に入ると一転。 殺人犯と睨んだ相手に食らい付いて放さないダルジールと 自信に満ち溢れた犯人との間で劇しい火花が散り、 謎の自殺予告の差出人を探すパスコーが疾走し、 由緒ある街並で住民を巻き込んで催される 聖史劇を背景に物語は終幕へ雪崩れ込みます。

ヒルの作品はドタバタ笑劇の要素が大きいのに 不思議な文学的風格があります。 英国のミステリでは古典からの引用が 付き物となっている感がありますが、 『骨と沈黙』で各章の冒頭に引用される聖史劇は 物語の中で公演が行われる劇の脚本であると同時に 作品内容の象徴にもなっていて面白いですので エピグラムにも要注意。 (ナルシア)


『骨と沈黙』 著者:レジナルド・ヒル / 出版社:ハヤカワ文庫

2000年12月13日(水) 『私のしあわせ図鑑』

お天気猫や

-- 2001年12月12日(水) --

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『バースへの帰還』

☆特集:『英国オヤジ刑事四人衆』その(3)

輝かしきミステリ黄金時代の雰囲気が持ち味の ピーター・ラヴゼイの現代物の持ちキャラは 時代遅れの孤高の元警視、ピーター・ダイヤモンド。

シリーズ三作目『バースへの帰還』では 警視の座を去った職場から ダイヤモンドの元に思いがけぬ要請が。 かって逮捕した犯人が脱獄し、人質を取って 自らの無実を晴らさせるために彼を指名。 脱獄のスリル、人質の安全の確保、 昔の殺人事件の真相解明、 我らが元警視は全てを解決して復職が適うのか? 盛り沢山でサスペンスフルでかつユーモラス、 犯人は割と「信用できる男」なので じっくり過去の事件の謎解きにも取り組めますし、 古都バースの街と建築物巡りも楽しみです。

シリーズものとはいっても元警視、 登場の頃の渋さがどんどんお笑いに傾いているような。 巨体でぶきっちょ、ジョークはすべる、 ハイテク全然駄目で略語で話すと怒鳴られる、 頑固で誠実、仕事は出来るんですけどね。 愛妻がいて部下にも有能な女性警部がつきます。

おまけで本文中TVの刑事物が話題になります。 脱獄場面では『モース主任警部』のTVドラマが流れ、 ダイヤモンドは自身は『刑事コロンボ』と 『刑事コジャック』のファンらしい。 どっちもアメリカの刑事じゃないですか。 (ナルシア)


『バースへの帰還』 著者:ピーター・ラヴゼイ / 出版社:ハヤカワ文庫

2000年12月12日(火) 『茶の本』

お天気猫や

-- 2001年12月11日(火) --

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『ウッドストック行最終バス』

☆特集:『英国オヤジ刑事四人衆』その(2)

海外ミステリは人気のあるシリーズでも 書店店頭で全巻手に入れる事は至難の技です。 しかし『モース主任警部』シリーズは見事揃っている! なにしろイギリス本国視聴率No.1のTVドラマ原作、 BS放映記念のようです。見たいなあ。

モース主任警部が本国TVドラマで 大人気と聞いた時は正直びっくりしました。 ミステリマニアには妙な受け方をしたものの 一般的に楽しめるミステリという 系統ではないと思っていたのです。

主人公は警察官にもかかわらず、 いっこうに地道な捜査はせず死体も血も見られない ヒラメキに走る気まぐれ主任警部、 きっと作者は取材に出るより自宅や近所のお気に入り場所で 謎を作ったり解いたりするのが大好きな書斎派タイプなのでしょう。 かといって昔ながらの古典的名探偵ならば 全てのピースが揃ってからおもむろに謎を解くのに 警部の場合は次々仮説を立てては崩し立てては崩すパターン、 その仮説の大胆さが前代未聞。 デヴュー作『ウッドストック行最終バス』の ノース・オックスフォードの住人約一万人の中から 大雑把な計算で犯人を一人に絞ったり、 次作『キドリントンから消えた娘』で 折角自分が捜査するんだからただの失踪事件じゃなくて 殺人事件に違いない、と決め込む場面など ‥‥爆笑。 ギャグじゃないんですよ、真面目な推理の第一歩です。 一見いいかげんなようですが、カンに自信のある人は 「仮定」して行動したほうが地道に足元を固めるよりも はるかに効率が良いし確実なのです。

コリン・デクスターの文章は落ち着いた オックスフォード周辺をいかにも身近に感じさせ、 容疑者関係者無関係な人々、皆地に足の付いた感じで 犯罪捜査の話なのに読んでいてなかなか感じが良いです。 コージー派でも凝り性でもそれぞれに楽しめるあたりが TVドラマで人気が出た要素でしょうね。 モース主任警部も気分屋で理不尽な言動をするけれど 後で反省してぺこぺこ謝ってくれるし、 おなかは出かかって頭も薄いけど 読書好きで独身で結構チャーミング、 オヤジ刑事群に入れるのは可愛そうかなとも思いますが これで大酒飲みでスケベな、立派なオヤジであります。

原作は先頃シリーズ完結したそうですが、 終ってしまうのは淋しいので最後の方は まだ読んでいないのです。 (ナルシア)


『ウッドストック行最終バス』『キドリントンから消えた娘』
著者:コリン・デクスター / 出版社:ハヤカワ文庫

2000年12月11日(月) ☆ ムーミンとわたし

お天気猫や

-- 2001年12月10日(月) --

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☆特集:英国オヤジ刑事四人衆。

その(1)『英国オヤジ刑事四人衆』とは?

テロは怖いし混むのも嫌だしお金もない、 年末年始どこにも出かけたくない皆様。 しんしんと冷え込む表とは別世界の 暖かいお部屋で部屋着を着て紅茶かウィスキー、 お馴染みキャラの活躍するミステリを手に ぬくぬくと過ごしましょうか。

現代英国本格ミステリを担うシリーズ名探偵達は どういう訳かデブで下品で横柄で 協調性皆無で人使いの荒いという 上司には絶対持ちたくない典型的オヤジ警官ばっかりです。 唯一女性作家(P・D・ジェイムズ)描く ダルグリッシュ警視だけがドリーム入ってる? 英国男性ミステリ作家ってみんな スリムで上品で優しいハンサムに 怨みでもあるのでしょうか。

しかしまあこのオヤジ達、皆 ユーモア精神にあふれていて 秘かに人情に厚く、自分なりに仕事熱心で なによりみかけによらず頭が切れる。 そういえばアメリカの刑事と違って 彼らは銃を持ってないんですよね。 組織にも頼らない質だから 狡猾な犯人と渡り合うには 自分の頭脳一つが頼りです。

主人公の個性はもとより、いずれのシリーズも 不可思議な事件の謎や舞台となる街のそれぞれの趣きが 文学的にも観光的にも楽しめます。 では英国が誇る四人のオヤジ刑事を順次御紹介。 (ナルシア)


(主人公名/役職/所属/舞台/相棒/作者名/出版社)
☆E・モース/主任警部/テムズ・バレイ警察/オックスフォード/
ルイス部長刑事/コリン・デクスター/ハヤカワ文庫

☆ピーター・ダイヤモンド/警視/エイヴォン・アンド・サマセット警察/
バース/ジュリー・ハーグリーヴズ警部/ピーター・ラヴゼイ/ハヤカワ文庫

☆アンドルー・ダルジール/警視/中部ヨークシャー警察/
ピーター・パスコー警部/レジナルド・ヒル/ハヤカワ文庫

☆ジャック・フロスト/警部/デントン警察/R・D・ウィングフィールド/
創元推理文庫

お天気猫や

-- 2001年12月07日(金) --

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『ちびっこ魔女の大パーティ』

☆魔女なかまの本。

三人のちびまじょが主人公のハロウィーンもの、 というので若干季節はずれですが、猫や的には 「買い」なので入手してしまいました。 小学校1年生くらいから自分でも読める内容です。

魔女の子どもたち、ザラ、ゾエ、ジギーは、 森のなかの大なべ荘でいっしょに暮らしています。 それぞれ、かえると黒猫とふくろうのペットをお供に 魔法を使って楽しい共同生活をしているのでした。 もちろん、ホウキにも乗れます。

さて、秋も深まった10月31日、ハロウィーンの真夜中に お客さまを招いてパーティーをすることになった3人は、 森のいろんななかまに手紙を出します。 そして、当日。。。 というにぎゃかなお話。

みんなが通っているのは、ウィンク先生の まほう学校。毎日いろんなところに出没する学校です。

パーティーの材料を仕入れにいくまほうスーパーも、 毎日移動するおもしろいところ。 コウモリを買ってかえるところが、私のお気に入り。 なんと、とくばいで、2匹買うと1匹サービスです! なんのためにコウモリがいるのかというと、 部屋のなかをとびまわって、パーティーを もりあげてくれるから。 ハロウィーン気分満点のお菓子も用意できました。 時計の針が12時を告げると、 あの子もこの子も、やってきます。

「こんばんは、三人のちびまじょさん!」 (マーズ)


『ちびっこ魔女の大パーティ』 著者:ジョージー・アダムズ / イラスト:エミリー・ボラム / 訳:おかだよしえ / 出版社:評論社

2000年12月07日(木) 『絵画で読む聖書』

お天気猫や

-- 2001年12月06日(木) --

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『サンタ・クロースからの手紙』

書店の2階、児童書のコーナーでひっそりと 行われているクリスマスのブックフェア。 マイナーなクリスマス本は、取り寄せも面倒なのか、 ふだんの本棚にまだうずまっていて、 そういうのを掘り出す楽しみもある。

掘り出した一冊は、トールキンの 『サンタ・クロースからの手紙』。 『指輪物語』で有名な作家のトールキンが、 英国のオックスフォードで暮らす自分の子どもたちのために、 毎年送っていたサンタの手紙。 いわゆる「しかけ絵本」の形式で、封筒に入れてページのなかにはりつけ、 手紙は取り出せるようにデザインされている。 あの『ゆかいなゆうびんやさん』シリーズのようなスタイル。 (アルバーグの『ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』は 1992年発行なので、1995年発行のトールキンのほうが、 このスタイルでは後発らしい)

サンタクロースからの手紙は、 けっこうきちんとしていて、カラフルで楽しいイラストが 添えられている。 ぶるぶるふるえる筆跡で、寒い国から来たことと、 歳取った、知らない人の手紙だと強調しながら。

日付を見ると、めまいを覚える。 最初は、1920年。80年以上も前だ。 この絵本はダイジェスト版なのではしょっているものの、 20年も続いたというのがすごい。 しかけ絵本でなくてもいいので、 普通の絵本で全部見てみたい。

しかも、サンタさんは、けっこう大変。 仲間のように暮らしている北極熊が、ドジで、失敗ばかり。 性格もいいかげんで、すぐむくれるらしく、大変。 なんだか、読んでいる自分が北極熊になったみたいで、 落ち着かないほど。

そんなアクシデントを、つらつら書き送ってくるサンタさん。 あんまり、というか90%くらいは、 いかに自分達が苦労しているかを知らせている。 年末の愚痴大放出といってもいい。

手紙をもらった子どもたちは、 「サンタさんも大変なんだから、今年のプレゼントは これでもしょうがないんだよね」 って、思っただろうか。 (マーズ)


『サンタ・クロースからの手紙』 著者・イラスト:J・R・R・トールキン / 訳:瀬田貞二・田中明子 / 出版社:評論社

2000年12月06日(水) 『ACTUS STYLEBOOK』

お天気猫や

-- 2001年12月05日(水) --

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『不眠症』(その2)

どこから見ても老人であるラルフとロイスは、 オーラを感じることができるようになり、 人の死の秘密を覗き見た。 下巻ではさらにその向こうに待ち受ける 若者顔負けの冒険へとつき進んでゆく。 まさにまっしぐらに。

ゆっくりゆっくり進む前半と、後半のスピード感、 曲がり角の先にあるエピローグなどは、 キングファンならおなじみのものなのだろう。 私は数冊しか読んだことがないので、 キングらしさについては多くを語れない。

しかし、上巻での彼らは、弱くても落ち着いており、 毎日少しずつ眠れなくなっていくという異常事態をも 老人にありがちな不眠の延長と考えれば、 この上巻に描かれた老人たちの日常こそ、 1947年生まれで老境にさしかかろうというキングが 今にして想う、近未来なのではないだろうか。 デリーのような町には、普通の世界と、老人たちの世界が 存在しているという思いが、日々を暮らしながら キングのなかにも芽生えているのだろう。

『ハリー・ポッター』では「マグル」と呼ばれ、 『不眠症』では「ショートタイマー」と呼ばれる人間。 魔法使いや高次の世界から見れば、なんとささやかで短い 火花のような生命。その生命にすがりつく人間。

上巻にあるような、老人のこんなつぶやきに、 キングのショートタイマーとしての自負が、かいま見える。

"ほら、爪を隠した内気な鷹が、ときどき田舎にいるだろうが。
・・中略・・
天才の大半は、小さな町で世に知られず暮らしている教師たちだね。"
(本文より引用)

いわば異次元、生死を越えた世界といってもよいほどの 超常現象が起こる謎をテーマにしながら、 あくまで「ぽんこつ同盟」の二人に主役を張らせた キングの思いは、長く生きていればやがてわが身に重なるだろう。 どんなすばらしい過去よりも、 今このときが、一番よいものだと思えるように、 ショートタイマーは本来、生まれついているのだと。 だからこそ、そう思えないことはつらいのだと。 (マーズ)


『不眠症』(上・下) 著者:スティーヴン・キング / 訳:芝山幹郎 / 出版社:文藝春秋

2000年12月05日(火) 『誰か「戦前」を知らないか』

お天気猫や

-- 2001年12月04日(火) --

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『不眠症』

この世界に起こる現象の裏には、 私たちの知性や言葉では感知できないような 世界の仕組みが息づいていて。

あちらの世界(複数)とこの世界は 鏡のように関連づけられていて、 この世界で起こる災害や犯罪の本当の原因は あちらの世界のゆがみや闘争にあるのではないかとか、 そういったことを推測するのは人間の性だろうか。 私も、そういうことが好きな人間のひとりである。

そして、世界をつなぎとめるために 見えざる存在が、いかなる苦闘を演じているか、 私たちひとりひとりの人生を 守ったり、助けたり、損なったり、それぞれの役割を果たしながら 自由意志のもとに生きていく私たちのそばにいて、 表向き感謝されることもなく奮闘していることを ときどき、想う。

そういうスリリングでファンタスティックな娯楽映画が 見たいと、ずっと思っていた。 この本はそういった世界観を、リアルにかいま見せてくれる。 キングが執筆に3年余りを費やした重みが、 もっと言えばここにいたるまでの人生観が、枝を伸ばし、 葉を繁らせ、花が咲いている横で豊かに実っている。

しかし、『不眠症』は映画化されない。 予言のように埋め込まれた事件のせいだ。

舞台はメイン州デリーの町。 主人公は妻に先立たれた70歳のラルフ・ロバーツ。 同じく夫を亡くしたロイス・チャース。 どちらも、ハリス大通りぽんこつ同盟のメンバーだった。

ラルフは耐えがたい不眠症に陥り、極限状況で 人間や動物、世界にあふれているオーラを見ることが できるようになる。

そして、二人の医者を目撃したことから、 人の死の真実を、おぼろげながら知ることになる。 「意図」の世界と、「偶然」の世界。 人の死には、そのどちらかが関わっていることを。

--その2へ続く--(マーズ)


『不眠症』(上・下) 著者:スティーヴン・キング / 訳:芝山幹郎 / 出版社:文藝春秋

お天気猫や

-- 2001年12月03日(月) --

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『Good Things For Organizing』

☆整理術?そうだ、マーサに聞こう!

マーサ・スチュワートが紹介する"整理術"の本。 この夏、スカイパーフェクTV!に加入し、 熱心にマーサ・スチュワートリビングを見ています。 ビデオにも録画してあって、 ときおり、環境ビデオのように、 ぼーとしたい時や、単調なPC仕事の時に 流しっぱなしにしています。

マーサ・スチュワートは、アメリカで一番有名で、 お金持ちの"カリスマ"主婦だそうです。 ネットで、マーサについて調べると、 しばしば、そういう風な説明があります。 この秋には、マーサのお店が日本にも初上陸し、 12月から、マーサの雑誌が創刊されています。

アメリカでは、家事で困ったことがあると、 「マーサに聞こう!」ということになるそうです。 だから。 私も、整理整頓には苦労しているので、 マーサに聞いてみることにしました。 『Good Things For Organizing』は、 マーサ・スチュワート流整理整頓術。 144P オールカラー版。 洋書ですが、読むまでもなく、 写真を見れば一目瞭然。 マーサのさまざまなアイデアを、 わが日本家屋で、 取り入れることができるのか、できないのかが。 いったい、そのアイデアあふれる小物を 作ることができるのか、できないのか。 全部を取り入れることはできないのですが、 エッセンスは、充分に生かすことができます。 写真を見て、見よう見まねで、 やってみることができるので、 言葉の壁はありません。

まるで写真集のように、 センスあふれるこの本を、 間接照明の下、Jazzyな音楽を聴きながら、 ゆっくりと眺めていると、 とても贅沢で満ち足りた気分にもなります。

ただ、この本に限らず、 どの整理術の本を見ても、 結論は、物を減らすことしかありません。 物を減らすか、スペースを増やすか。 あるいは、工夫をして、限られたスペースに、 ぎゅうぎゅうに物を詰めるのか。 おしゃれにレイアウトを楽しむためには、 物を捨てて、スペースを広く確保するしかないのです。

マーサをもってしても、 私のように、あらゆる物を持ち続けたい、 できるだけ物を捨てたくない、 そういうタイプの人間は、助けようがないようです。

最近、生活の裏技番組が流行っていますが、 確かに、知っていると、知らないとでは 大違いのことがいろいろあります。

だからこそ、マーサのアイデアをポイント、ポイントで 取り入れて、生活を楽しみたいと思います。(シィアル)


『Good Things for Organizing』著者:Martha Stewart / 出版社:Clarkson potter publ

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