ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]
■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 00-z
何かに突き動かされるように、乱菊は間を空けずに口を開いた。
「あたしは訊いてるのよ? 約束したわよね、あたし達。あの、森の中で約束したわよね? ギン?」
乱菊の目の前で、ギンが困ったように顔を歪めてわずかに眼を伏せる。そして目を上げると、首を傾げて、
「覚えとるよ」
と一言だけ呟いた。きれいな薄い笑みを浮かべて、ギンは乱菊に向かい合う。
乱菊は唇を噛んだ。
薄い笑みを睨むように見上げ、乱菊は言葉を飲み込む。その様子をギンは歪みをきれいに隠した笑みのまま見つめた。
お互いに言葉が出てこなかった。
伝えたいことはあるのに、形にならない。形に、できない。
居心地の悪い沈黙だけが今の二人にあった。
視線を動かせないまま、乱菊は言葉を探していた。ギンもじっとその迷う視線を受け止めていたが、常に意識を尖らせている肌にざわりと触れるものがあった。
ギンはふと横に顔を向け、遠くを見るような表情をする。そしてふっと、普段通りの軽薄な笑みに切り替えた。
「もう、人来るわ…………ほな、十番副隊長さん、失礼しますわ」
はっと乱菊が周囲に気を巡らすと、その間にギンは背を向けた。乱菊は唇を更に噛みしめ、その背にある三の字にきつい眼差しを送る。
「はい……市丸隊長。失礼致します」
乱菊は深くお辞儀をした。視界からギンの姿を消すように深くふかく頭を下げ、そしてそのまま硬く眼を閉じる。長い髪がさらさらと背中から流れて落ちた。
ギンは振り返らず、ただその微かな音を聞いた。そして俯くと、振り切るように瞬歩でその場から離れる。
顔を上げた乱菊は、その姿が掻き消えるのを見た。そしてその行方を眼で追って、大きく溜息をつく。ここ一月ほど、消しても消しても沸き上がる不安を抑えこむように、乱菊はただ両腕で自分を抱える。
上を見ると、空は青く澄み渡っていた。
暗い予感も重い現実も全てを嘘だと言わんばかりの空が、高く深くそこにあった。
けれど、遠く遠く向こうから。
遙か雲の向こうで鳴り響く遠雷の震えは微かに、しかし確かに肌を揺らしている。
気付かない程に微かなそれは、確かに大気を震わせ肌を震わせ、嵐の到来を告げているのに。
今はまだ、空は青く澄み渡っている。
○○○前 ◄ 目次 ► あとがき
07月15日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る