ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 6-2
 宵闇を押しやるように明るい執務室で、瞬間だけ藍染の気配を感じてギンはちらりと窓の外を見た。そして諦めたように息を吐き、薄く笑う。
「イヅル、もうこれで終わりにしぃひん?」
 ひょいと隣の机に顔を向けると、吉良が眉を寄せてギンを見ている。ギンが可愛らしく小首を傾げてみせると、吉良は大きな溜息をついた。
「イヅル? あかんやろか」
「だめと申し上げても、もうやる気がないんですよね。そうなんですよね」
 肩を落としてイヅルはもう一度、溜息をつく。薄い金色の髪が揺れてイヅルの物憂げな顔を隠した。
「構いません。明日の午前中のうちに提出しなければならないものは全て終えられてますし……隊長、聞いてます?」
「聞いとる聞いとる」
 すでに机から離れて窓枠に腰掛けていたギンは、ひらひらと右手を振ってみせる。
「明日の午後までのもんは、午前の間に終わるやろ。問題あらへんよ。せやから、イヅル、君ももう休み? 地獄蝶来てからぼんやりしとるよ」
 イヅルが顔を上げ、申し訳なさそうに俯いた。
「すみません」
「ええよ。ちょいと驚く内容やったしなあ」
 ギンは外にちらりと視線をやり、再びイヅルを見る。イヅルは苦笑して、目の前の書類を片付け始めた。
「いえ、僕は朽木さんとそんなに親しいわけでもないし、驚きはしましたが……むしろ、阿散井君が、……気の毒で」
 書類の端を机上でそろえて未処理の箱に入れるイヅルの仕草は几帳面で、自分の言葉を整理しているようで、ギンはその様子を薄笑いで眺めている。
「もちろん、朽木さんのことも心配ですが……、すみません。ちょっと気になっていまして、ぼんやりしてしまっていました」
 そう言ってイヅルは真面目な表情をしてギンを振り返る。ギンはへらりと人当たりの良い笑みを浮かべる。
「ええよええよ。仕方あらへん。そういうもんや。今夜はもう終わりにし? 阿散井君のところにでも行ってみたらええやないの」
「ありがとうございます。そうします」
 イヅルはほっとした顔になり、深く頭を下げた。さらさらと金色の髪が揺れる様を見て、ギンは色が違うと感じる。もっと濃く、本当に太陽の光を写し取ったような、闇の中でも暖かく光る山吹色の髪。そこまで思い浮かべて、振り切るようにギンは小さく笑った。
 その笑みを見て、イヅルは力の抜けた顔になって、
「本当にありがとうございます。また明日も頑張ります」
と言った。ギンはただ頷く。
 そして窓枠から半身を出して、
「ほな、戸締まりはよろしゅう頼むな……おやすみ、イヅル」
と笑った。イヅルが普段のように窓からの出入りを止めようと手を伸ばすのを目の端に捉えながら、ギンはふわりと屋根まで跳び上がる。瞬間、二人分の気配がして、次の瞬間には宵闇に消える。ギンはその行方を眼で追って、大きく溜息をついた。空を見上げると、月のない空だった。刻一刻と深くなる闇を照らすには星の光はあまりに弱く、街の明かりはただ地面に影を作るだけだ。ギンは空を見上げたまま気配を完全に消した。
 足の下の方で、窓の閉じられる音がした。
 ぱたん、と軽い音を聞いて、ギンはひっそりと笑った。そしてその笑みをも消すと、さきほどの気配を追ってその姿を消した。

 中央地下議事堂の前は少し広く見通しよくなっていて、そこには見張りの死神が数人、通りに目を光らせている。それを遙か上の屋根から見下ろして、ギンの口元は嘲笑の形をとった。
「入り口を見張ったところで、どこからでも入れるというのにね」
 ギンの背後で藍染が笑みを含んだ声で言った。ギンは振り返らずにただ地下議事堂の建物を眺める。
「藍染隊長、どう侵入するおつもりですか」
 東仙が静かな声で尋ねた。藍染が小さく笑い声をあげる。
「まあ、建物を壊さずに入らないとならないからね。下の彼らには幻を見てもらうことにして、正面から入っていこう。何、今回の朽木ルキアの件について意見があると言って、内側から開けてもらうよ。扉も壁も壊すわけにはいかないからね」
「四十六室は開けるでしょうか」
 慎重に東仙は尋ねる。

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07月14日(金)
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