f_の日記
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子供の頃
よく引っ越しをして

住む土地で
生活が違う事を知った


三時に
英国のカップで
紅茶を愉しむ家

帰りに寄ると
朝の味噌汁がお椀に残されたまま
埃をかぶっている家


でも


ほとんど崖になってる坂を
義経とばかりに段ボールで滑り

薄暗い沼の向こう岸へ
探検隊を組んで

秘密基地を幾つも作っては
合い言葉でわかりあった


日が暮れてもボールを追いかけて
ケンカして次の日の朝に仲直りをする

誰かが窓ガラスを割って
誰からともなくみんなで
校長室に謝りに行く


そして

別れ際に
手紙を書くと言いながら
結局何も書けずに次第に離れていく心



確かにみんな
違っていたけれど

それがどれほどのものだっていうんだ

同じ痛みを知らないから
わかりあえないなんて

そこになにがみつかるというんだ



煙草の火を消し
新聞をたたみながら

溜息を一つついた

2004年11月28日(日)



 まるくなったのかおとなになったのか

高校の頃
そいつとはいつも一緒に帰っていた

少しでも遅いと
僕はぷいと一人で帰ってしまうのだけど
追いついてきていつもぶつぶつ小言を言う奴だった


ああ、すまん


その一言だけ言うと
またつまらなそうに僕は歩く


ある日昼間に廊下ですれ違い
今日は待っててくれ
とそう言うものだから

ああ

と一言だけ答えた


どういうわけか少し遅くなったそいつは
僕のことだからとっくに帰っているだろうと思い
だらだらと一時間近く教室で過ごしてから帰ることにしたらしい


その一時間が過ぎた頃
本を読みながら待つ僕を見つけて呟いた

待っててくれたのか

僕はつまらなそうにまた


約束したからな


とだけ呟いて
ぷいと背中を向けた


まあその次の日からまた
ぷいと一人で帰ろうとしていたけど


まるくなったのかおとなになったのか

いや

今もあんまり
変わらないのかな

2004年11月21日(日)



 昼下がり

いつもの道を歩いていたら
今まで気がつかなかった建物をみつけた
ビルの谷間にひっそりと
カビ臭そうに佇むそれ

門をくぐると石畳がつづいて
道祖神のような像が簡素に並んでいる


民芸品と工芸品の展示場
入り口の受付に一人の女性が座っていて

仕事をしているのかずっと俯いて
薄いガラス一つ隔てて
こちらに気付く様子もないので

僕はコツコツと二つ
窓を指でたたいた


少し驚いて顔を上げると
にっこりと頬笑み館内へ促してくれる
その静かな所作に好感を覚えながら
会釈を返し引き戸を引いて
中へと足を踏み入れた


館内は静かで誰もいない
自分の足音だけがカツコツと木霊して

漆塗りの器々
竹細工や金物が
放り出されたように
それでも丁寧に並べられていた


丹念に眺めながら
こんなものに囲まれていれば
つつましくも清楚に暮らせるのかなと夢想を抱きつつ

入り組んだ造りの内装
二階、三階、屋上へ雑然と並んだ作品

街の喧騒から離れ
遠野物語の屋敷に迷い込んだかのような錯覚の中で
迷路を抜けていく


忘れ去られたような品々の
ひとつひとつに感動をおぼえながら


誰も来ないガラスケースのなかで
それは美しかった

雅やかでもなく
艶やかでもなく
実直なそれ


また街への門をくぐって
表の張り紙に目をやると


此処は今日までだと知った

2004年11月20日(土)



 まだ早いのに

クリスマスツリーが飾られていた

ああそうか
あの人と最後に言葉を交わしたのは
クリスマスだったんだ

今年もやっぱり
独りでゆくよ
そこへは

ロマンチックなんて
相応しくない

そんな特別な夜だから

2004年11月17日(水)



 心というもの

極論を言えば
重さと軽さしかなくて

嬉しいこと、悲しいこと
ひとつひとつ
心の重力をあやつり

自分の想い、人の想い
それぞれがのしかかってくる


愛する人からの愛は心を軽くして
そうでない人の愛は重く

たとえば日常は重力の中
恋の浮力は喜ばれる


ひとつひとつを操って
心の健康のために

たとえばプラス思考
いやマイナス思考すら


ひとつひとつを操って
心の中庸のために


軽すぎれば足下をすくわれて
重すぎれば前へ進めなくて

自分の心を見つめて
必要な処方箋


わからなければ
僕を訪ねればいい


病まない人間など見たことがない


流れゆく世界の中で
独りだけとどまることなんて
けして出来ないのだから

2004年11月14日(日)



 人はなぜ生きるか

幸せ
になるためです

2004年11月10日(水)



 

大切なものを
大切にしようと

その道を行く

あなたは
素敵です

自分をもう少し
好きになって下さい

2004年11月07日(日)



 

僧は山上の岩場から
ただ世界を見渡していた

虹色に彩られた世界の
ひとつぶひとつぶの光の粒子を慈しみながら

世界は美しい
美しさの中で
絶える事なき悲鳴を上げている

だから恍惚に身を任せるでもなく
歓喜に我を忘れるでもなく

同時に訪れる喜びと悲しみと
同時に存在する無為とカタチとを
肉と心の目で同時になぞりながら

大日如来も梵天もヤハウェにも
蔵し蔵さぬこの世界の抗いのなかで

僧はただ
立ちすくんでいた

2004年11月01日(月)
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