2013年10月26日(土)  そうだったのかリヒャルト・ワーグナー

NHK FMでラジオドラマを3本(「夢の波間」「昭和八十年のラヂオ少年」「アクアリウムの夜」)ご一緒したラジオドラマの名職人、保科義久さんから久しぶりに厚みのある封書が届き、何事かと身構えたら、「一日だけの舞台やります」と元気いっぱいの近況報告。

ほっとして、うれしくて、ぜひうかがいます、と返事をして、会場が高円寺なので、高円寺の阿波踊りを一年だけ一緒にやらせてもらったミホコさんをお誘いした。

高円寺スタジオKでの「満天星M&M」という公演。
二つのMは、第二部でワーグナーの二人の妻を演じられた戸村美智子さんと宮地牧子さんのお名前からだろうか。

このお二人に朗読劇にするいい題材はないかと相談された保科さんが、ワーグナーの人生はどうかと答え、脚本と演出を引き受けた、という経緯のよう。

百人ほどのホールは、落ち着いた年代のお客様で満席。 

まずは第一部。 
戸村美智子さんと中村祐子さんの読み語り「お母さんは人気ブロガー」に、ほろり。
客演の講談・一龍斎貞友さんは、昼の部を観て夜の部も観ることにした方がいらっしゃるということで急遽演目を変更し、小柄な子ども力士の出世話を小気味よく。
特別出演の槇大輔さんは「無名の有名人」という自己紹介から味がある、いい声、いい語り。
遠藤周作氏が霊媒師の元を訪ねた逸話(タイトル失念)を淡々と語れば語るほど客席が笑いに湧いた。遠藤周作さんのお話でこんなに笑ったのは初めて。

休憩を挟んで、第二部、音楽朗読劇「ミンナとコジマ」〜ワーグナーの妻達〜。
ワーグナーの最初の妻、ミンナに戸村美智子さん。
二人目の妻、コジマに宮地牧子さん。 
ワーグナーに客演の小林通孝さん。
そして、槇大輔さんが頭と最後に語りで登場。

ワーグナーの人生が、逃亡に継ぐ逃亡の日々だったとは。
借金を棒引きにした上に屋敷の離れを貸してくれた恩人の妻にも手を出す、どうしようもない男なのに、どん底に落ちては運に拾われたワーグナー。
とことんダメ男。なのに、神だけでなく、愛にも見放されなかったワーグナー。
あのフランツ・リストの娘、コジマの愛まで勝ち取るとは。

ワーグナーについて、音楽の時間に聞きかじったクラシック音楽の歴史について、断片的な知識のピースがぎゅっと寄せ集められ、ひとつの旋律にまとまった。

ワーグナーを愛してやまない保科さんが、できるだけ史実を拾ったという作品。もちろん保科さんの創造の部分もあるだろうし、これは保科さんの作ったワーグナー像だけど、一時間の音楽劇に立ち会えただけで、ずいぶんワーグナーを語れるようになった気がする。性格も世に遺したものもまるで違う二人の妻が互いをたたえあうラストは、傷つけあった二人に保科さんが用意した結末なのだろう。

音楽はもちろんリヒャルト・ワーグナー。
あの曲もあの曲もワーグナーだったとは、の驚きを生演奏で味わえるとは。
ワーグナーの音は覚えやすく、耳に残る。その余韻とともに劇場を後にできるのも、なんとも贅沢。

いつもお世話になっているお礼に、とミホコさんを招待したのに「本物を見せてくれてありがとう」とお寿司をごちそうになった。

今月は井上ひさしさんのこまつ座3作品『それからのブンとフン』『ムサシ』『イーハトーボの劇列車』と、昨日のタクフェス『晩餐』、そして今夜の音楽劇と6本の舞台に立ち会えた。

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