2010年06月03日(木)  神戸大学応援団総部50周年×「脚本家になるには」

今日と翌日の二日間、ツイッターで一度もつぶやいていない。ほどほどの締切に追われていると、ツイッターは息抜きになるけれど、本当にお尻に火がついているときは、つぶやくヒマもないことを実感した。

保育園の送り迎え以外はパソコンの前という一日で、何を食べたかも覚えていない。朝コーヒー豆を挽いてカフェオレを飲むのだけは習慣なので、それは胃に納めたと思う。あとは疲れているときほど効き目がよくわかることを身をもって感じたチョコラBBもこの日摂取したと思われる。

今日の出来事を綴るかわりに、先日手元に届いた神戸大学応援団総部の50周年記念誌に寄稿したエッセイを掲載。わたしがいた京都大学応援団とは京神戦と呼ばれる野球の定期試合で合同演舞をするなどの交流があり、今でも連絡を取り続けている同回生は多い。昨年、七帝(=国立七大学)体育大会の応援団演舞演奏会を東大へ見に行ったときに再会した池田君が声をかけてくれ、記念誌に足跡を残させてもらえることになった。

七帝演舞演奏会を見た直後で血中応援団濃度がかなり上がっていたときに書いたので、今読み返すと、われながら暑苦しい。普段のわたしはここまで熱血ではないけれど、ちょっと焚きつければ、「押忍!」のあの頃に戻れてしまうほど、応援団の日々は埋み火のように胸の奥に静かに燃え続けている。

神戸大学応援団総部50周年記念誌寄稿
「脚本家になるには」 今井雅子


「どうやったら脚本家になれるんですか? ヒマなときにでも教えてください」
 挨拶抜き、用件のみ(でも絵文字つき)のこの手のメールがちょくちょく舞い込む。芸能人に会えて、先生と呼ばれて、文化人っぽい。わたしの職業をそんな風に誤解して、人を便利帳代わりにする。本屋へいけば、いくらでもハウツー本は並んでいるんだから、それぐらいの汗はかきなさい。その前に、まず名乗りなさい。言いたいことはいろいろあるけど、もちろん返信を書かないし、そういう人にはそもそも向かない職業だと思う。才能よりも必要なのは、ダメ出しの連打に耐える気力体力忍耐力。そう、応援団員に求められる「押忍!」の精神。だから、もし一言だけ返事を書くとしたら、「応援団に入って、根性を鍛え直しましょう」とおすすめするのがいいかもしれない。
「今の仕事がつまんないので、脚本家になりたい」こうぼやく人も、向いてない気がする。仕事を面白くするかどうかは自分次第で、仕事を変えても問題は解決しない。「つまらない」と吐き捨てるアナタ自身がつまらない人間になっているのでは。人生なんて、誰かがお膳立てして楽しませてくれるなんて思ったら大間違い。苦労を喜びに買えるのも、どん底に光を見出すのも、心のありようだと思う。
 自分を過大評価して、うまくいかないことは人のせい。そんな他力本願型人間の甘えが目についてしまうのは、応援団出身だからだろう。文句を言う前に、やるだけのことをやったのか、と喝を入れたくなる。脱走者が出るような夏合宿。炎天下での失神寸前の応援。極限まで追い込まれる場面が、四年間の活動の中で何度もあった。終わらない延長戦、意識朦朧となりながら、ここで倒れたらラクだよと内なる声が囁く。自分の弱さと向き合い、闘い、自分の限界を知る。
「なんでここまでやるんだろう」「こんなことして、何になるんだろう」そんな疑問を抱いたことは一度や二度ではない。あの頃は自分の流す汗に意味と意義を見出そうとしていたけれど、振り返れば、友人たちが断じていたように、無駄なことだったのかもしれない。でも、無駄は無意味とは違う。無駄なことに打ち込んだ者しか見えない風景があるし、つかめないものが確かにある。わたしにとっては、それが、「人生は自分で何とかするもの」という自力本願の悟りであり、たくましさだった。
 努力ゆえの悔しさや苦しみゆえに爆発する喜びをこれでもかというほど味わえたことも、今となってはかけがえのない財産だ。「愛と筋肉はお金では変えない」というけれど、体が震えるほどの感動も、力の限り声を振り絞った者へのご褒美だ。観客や視聴者の心を揺さぶってなんぼの脚本家にとって、喜怒哀楽の起伏を体感していることは、強みになる。
 追い詰めるといえば、四方八方知らないOBに囲まれて、いかに酔いつぶれず、場を盛り上げ、気に入っていただくか。そんな局面で鍛えられた飲み会サバイバル術は、会社勤めでも役に立ったが、人脈が命の脚本家にとっても仕事をつなげる命綱になっている。
 応援団にいなかったら脚本家になれなかったし、なれたとしても続かなかった。そう思えるほど、あの四年間が今のわたしの土台になっている。何より「応援団出身」と言うと、プロデューサーたちに大層喜ばれる。「どんなにダメ出ししても、こいつは投げ出さないぞ」と安心するらしい。
 お近くに脚本家を志す学生がいたら、どうか応援団入団をおすすめ願いたい。応援団界が活気づくとともに、根性のある脚本家が育つ。一石二鳥だ。学生を終えてしまった人には、体験入団のチャンスはないものか。合宿一回でも人生観が変わる気がする。

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