2009年06月30日(火)  『1Q84』の話題からエリックさんにたどり着く

こないだまとめて読んだはずなのに、いつの間にか未読の新聞が山積みになっていて、それをまたまとめて読む。6月25日朝日オピニオン面、天野祐吉さんの「CM天気図」に「地球の出」の話。「月の地平からゆっくり昇ってくる地球」という風に「かぐや」から眺めた地球の映像を紹介している。そうか、月から見れば地球はまた昇るのか……。考えたこともなかったそのことを知り、そのうれしさだけで今日の元は取ったような気分になる。ぜひ想像だけでなく映像を見てみたい。「JAXA・NHK」とあるからCMではないのだろうか。

6月27日朝日別刷りbe「サザエさんをさがして」には、「人の痛みは見えません。痛度計があればいいな、と思っていました」と日本リウマチ友の会の長谷川三枝子会長の話。温度計(体温計)ならぬ痛度計。痛みの当事者でないと出てこない言葉だと感じ入った。

折しも「月刊ドラマ」の「セリフとト書き」欄に寄せた原稿(7月中旬発行の8月号に掲載)に、「実感のある言葉を脳内ハードディスクに蓄積することが大事」ということを書いた。身近な家族や知り合いの日常会話、たまたま居合わせた他人の何気ない言葉を頭の中のレコーダーを回して録音する方法を紹介したが、新聞にも無数の名言がちりばめられている。

このごろは新聞を開くと必ずといっていいほど『1Q84』の話題を目にする。「読んでみなくてはわからない」「紹介しきれない」と皆さん書かれているものの、連日の書評を積み重ねると、読んだような気になり、現物を手にする頃にはハングリーマーケットの裏返しの満腹状態になってしまいそう。映画『アメリ』を観たときのように答え合わせにならなければいいのだけど……と思いつつ、読者ごとに視点や印象が異なるのが面白く、つい記事を拾ってしまう。

村上春樹作品で最後に読んだのは、高校時代ぶりに再読した『ノルウェイの森』で、その前は『海辺のカフカ』だった。『海辺のカフカ』を読んだときに、「わたしは昔の作品のほうが好きだ」とあらためて思ったのだが、『パン屋襲撃』『1973年のピンボール』『TVピープル』を好んで繰り返し読んだ。

『ノルウェイの森』以来遠ざかっていた村上作品に『TVピープル』で再会したのだが、それを教えてくれたのは、通っていた京都の大学の近くにある古民家に暮らすエリック・ガワーさんというアメリカ人のフリージャーナリストだった。彼が日本語の小説を読むのを手伝うというアルバイトを知人から引き継ぎ、いくつかの短編を一緒に読んだ。他の小説は何を読んだか記憶が飛んでしまったが、『TVピープル』の記憶だけが突出している。これが最初の一篇だったのかもしれない。外国人は村上春樹が好きなのか、という発見とともに、その作品を楽しんだ。つっかえつっかえながらも漢字を読めるのだから、エリックさんの日本語レベルは相当なものだった。政治にもとても興味があり、わたしよりも日本の政治家をよく知っていた。趣味も多彩で、アルバイトというより、こちらが広い世界を教えてもらっている感覚だった。

そんなわけで、『1Q84』の記事を見るたびエリックさんを思い出し、今どうしているのだろうと気になり、「Eric Gower」で検索してみると、『日本は金持ち。あなたは貧乏。なぜ?―普通の日本人が金持ちになるべきだ』『 エリックさんちの台所 (海外シリーズ)』『 英文版 エリックさんの新・和食 - The Breakaway Japanese Kitchen : Inspired New Tastes [Illustrated] (ハードカバー)』と3冊の著書にヒットした。本を出していることは意外ではないし、一冊目はエリックさんらしいと思ったが、料理の著書があるとは意外。料理本の紹介から行き着いたThe Breakaway Cookというサイトで、顔写真のエリックさんに再会する。20年近い歳月が経っているので、最初は「こんな顔だったっけ」と思ったが、しばらく眺めているうちに、だんだんエリックさんに見えてきて、そうだ、やっぱりこの人に違いないと確信に至った。

劇団Motherにいた宮村陽子のことをアメリカ人の友人が「Yoko Miyamura」で検索して発見し、「女優になっていたとはビックリ!」とメールが来た、というエピソードを彼女に聞いたことを思い出したが、エリックさんが料理研究家になっていたとは驚いた。彼が京都を去った後、彼の友人のこれまたエリックさんが新しい住人となり、わたしは引き続き日本語教師となった。2号さんは料理好きで、毎回レッスンの後にランチをふるまってくれたのだが、1号さんも料理をする人だったのか。

京都を去ったエリックさんは鎌倉のほうへ引っ越した記憶があるが、今は日本を離れてアメリカにいるらしい。おいしそうな料理とレシピが並ぶブログを眺めながら、書き込んだら驚いてくれるかしら、とドキドキしている。

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