2009年02月04日(水)  映画になった『鴨川ホルモー』

2007年に読んだ約100冊のなかで、5本の指に入る面白さだった『鴨川ホルモー』が、ついに映画化。読んだときは、「映像化は難しいかなあ」と思ったけれど、同じ筆者・万城目学さんの『鹿男あおによし』がドラマ化されたのを観て、ホルモーもひょっとしたらと思ったら、暮れに映画館で予告に遭遇。映画化されるんだったら、脚本やりたかったなあと悔しがりつつ、原作ファンとしては早く観たくてウズウズする気持ちでマスコミ試写に駆けつけた。

原作を知ってから映画を観ると、「あの人物が、あの場面が、形になってる、動いてる」という嬉しさと同時に、「想像したよりよかった」「想像してたほうがよかった」と一喜一憂してしまい、純粋にストーリーを楽しむことより、そちらの答え合わせに忙しくなってしまう。この作品の場合、役者さんがかなりイメージに合っていたことで、すんなりと物語の世界に入っていけた。舞台である大学は母校であり、ロケも大学やその近辺で行われているので、これもイメージ通りだったのだけど、懐かしさをかき立てられて、学生時代の思い出がやたらと蘇り、そちらのほうで頭が忙しくなってしまった。どこからかトランペットの音がいつも聞こえているボックス(部室)。立て看板に囲まれたキャンパス。住人が仙人に見える百万遍寮(ロケ地は吉田寮)。生活力のなさを物語る男の下宿も、服装も髪型も会話も自転車の乗り方もコンパのノリも、こんな感じだったなあとうなずきながら観てしまった。三十路近い役者さんが学生役を演じても不自然にならず、むしろリアリティを感じさせる。荒川良々さん演じるような年齢不詳、時代も超越しているような先輩は確かにいた。

「ホルモー」という音ありきで原作が生まれたという話を聞いたことがある。この響き、よほどキャッチーなのか、2歳半の娘が試写状を見て、「これなに?」と聞くので、「ホルモーだよ」と答えると、それ以来「ほるもぉ〜〜〜〜」と連発している。伸ばして、繰り返したくなる中毒性があるらしい。「ホルモー」ありきで生まれた謎のサークルが闘う競技のルールも彼らが執り行う儀式もすべて架空のもの。だけど、新歓で誘われた新入生たちは怪しみつつも入ってしまい、抜けられなくなり、時が経つと、次の獲物を狙って新歓の歴史を繰り返す。活動内容は違えど、わたしが4年間をどっぷり過ごした応援団にも似たところがあった。ビールを真っ先に飲んだ一人だけが先輩の名刺を頂けるとか、灯油のポンプで酒を飲まされる(北のSS=サッポロソフトと南のSS=薩摩白波という二大アルコールが君臨していた)とか、酒の飲み方は常識離れしていたし、関係者にしかわからない歌や挨拶や儀式があった。「普通の大学生活を送りたい」と言って去っていく仲間も多かったけれど、「どうせ4年しかいられないんだし、この状況を楽しもう」という人や、抜けることも面倒になった人は残った。大学のクラブ活動という閉じた世界だけに通用する価値観って確かにあったなあと振り返り、不思議でへんてこだったけど、あんな4年間は二度と体験出来ないなあと感傷に浸った。

現実にはありえなくても、あの気分はすごくわかる。それが『ホルモー』。原作を読んでなくても、京都で大学生活を送ってなくても、学生時代特有の「あれは何だったんだろう」的没頭や熱中や迷走を体験したことがある人は、『ホルモー』に昔の自分を重ねられると思う。大人になれば壁でないものが学生時代は壁である(その逆もしかり)。登場人物たちを動かす理由や感情のひとつひとつに、受験から解放されて就職活動はまだというモラトリアムな学生らしさがよく出ていた。

監督は『犬と私の10の約束』の本木克英さん、松竹のプロデューサーは『子ぎつねヘレン』でお世話になった矢島孝さんと、企画開発で本作りをご一緒したことのある野地千秋さん。さらに主役の安倍明役は『ジェニファ 涙石の恋』主演・荒木隆志役の山田孝之さん。安倍とあやしげなサークル青竜会に同期入部する三好ブラザーズの兄役に『快感職人』で橘隼人役だった斉藤祥太さん。さらに『天使の卵』で美術教師役だった甲本雅裕さんも出演……という贔屓を差し引いても、十分楽しめる作品。でも、原作を読んでから観ると、より楽しめると思う。

【今日のおやつ】クリスピー・クリーム・ドーナツ

東銀座にある松竹の試写室からの帰り、有楽町イトシア地下のクリスピー・クリーム・ドーナツで、行列初体験。一時期のような長蛇にはなっていないものの平日の昼でも25分待ち。一個だけ買おうと思っていたら、並んでいる途中でオリジナル・グレーズドが一人一個配られた。できたてのおいしさは、格別。それですっかり満足してしまったものの、行列から抜けては食い逃げになるので、2個買って、カロリー増強。

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