2007年02月03日(土)  映画『それでもボクはやってない』と監督インタビュー

Shall we ダンス?』以来11年ぶりの周防正行監督の最新作、『それでもボクはやってない』。劇場予告を観た第一印象は社交ダンスから一転、痴漢冤罪とは地味な題材だなあというものだった。「痴漢したでしょ」と主人公の袖をつかまえる女子中学生が『風の絨毯』でさくら役だった柳生みゆちゃんだとわかり、これは観なくちゃ、となったけど、ヒットはしないだろうなあと思った。観る人を選ぶ作品だろうなと。月刊シナリオ2月号の監督インタビューで「バカヒットさせたい」という言葉があったが、バカヒットは難しいだろうなあと思った。ところが、今朝9:30からの日比谷シャンテシネは、ほぼ満席。客席は中高年が目立ち、岩波ホールのような雰囲気。バカがつくかどうかわからないけど、ヒットしている。

混雑した通勤電車で、仕事の面接に向かうフリーターの青年が痴漢の疑いをかけられて駅員室に連れて行かれ、警察に引き渡され、罪を否認していると起訴され、裁判に巻き込まれる。青年の主張は終始一貫して「ボクはやってない」。だが、話せばわかってもらえるはずと思っているうちに、どんどん抜け出せない深みにはまっていく。やったことの証明よりも、やってないことの証明のほうが難しく、無実だからと言って、無罪になるとは限らない。逮捕者の有罪率は99.9%。無罪を出すことは警察が間違いを認めることになり、逮捕した以上は有罪だと決めてかかられる。有罪行きレールに乗せられた青年を丹念に追いかけながら、作品は日本の警察や検察や裁判の抱える問題点を次々と浮かび上がらせる。

周防監督は痴漢冤罪を取材しているうちに「これを作りたいじゃなくて、作らないと駄目だ」と使命感を覚えたらしい。そして、「とにかく現実に僕が見たことを伝えたい。そのためには、どう整理していったらいいか、それしか考えなかった」という。「とにかく映画的に演出の工夫をしようとか一切なく正直に撮ろう」という姿勢で小技や小細工を排し、「それで映画がつまらなくなるんだったらしょうがない」と開き直ったそうだが、結果的には大変面白い作品になった。でも、他人事だからのん気に見物できるのであり、自分が濡れ衣をかぶる立場だったら笑い事では済まされない。

グリコ森永事件の頃、大阪では大がかりな検問が行われ、キツネ目男に似ているというだけで疑いをかけられた人が多数いた。運悪くグリコや森永の製品を持ち合わせていた人は、とくにしつこく取調べられた。「十人の真犯人を逃すとも 一人の無辜をお罰するなかれ」という言葉が映画の冒頭に出てくるが、実際には、十人の真犯人をつかまえるために、間違って逮捕されてしまう人がいて、無実の証明に失敗すれば有罪の判決を受ける羽目になる。つい最近、服役まで終えた人が後から無実だと判明したという記事を読んだ。「家族は認めている」と取調べで言われ、否認しても無駄だと諦めて自白したらしいが、すっかり人間不信になってしまったのは無理もない。つかまえる側も裁く側も使命感と責任感を持って悪を正すことに取り組んでいるわけで、好きで無実の人を有罪にしているわけではない。けれど、有罪率99.9%は結果ではなく前提になってしまっている。それでも映画だったら奇跡を起こしたくなるものだが、ラストを甘くしなかったところに真実味があり、一件落着にしなかったことで観客に宿題を持ち帰らせるという余韻を残した。上映時間143分が全然長く感じられない。寝ているダンナに娘を頼んで出かけた甲斐があった。

帰宅してから月刊シナリオのインタビューを再読。2月号なのでもう書店には並んでいないかもしれないけれど、このインタビューは職人の心意気のようなものが伝わってきて、読み応えがある。「最終的には、僕のことなんかなんにも知らない観客が見る」から、人の話を聞く。「作る前に聞いて、そこで恥かいとかないと。作る前の恥は誰も知らない」「とにかく作る前に批判にさらされて、作ってからあまり批判されたくない」という真摯な姿勢がちゃんと作品の完成度に結びついている。

月刊シナリオには脚本も掲載されている。台詞のある登場人物は全員フルネームがついていて、みゆちゃん演じる中学生は古川俊子。『パコダテ人』のまもる父ちゃん、徳井優さんは留置係の西村青児役。徳井さんは『Shall we ダンス?』にも出演していて、その撮影をわたしは間近で見ている。ストリートダンスの映画だと勝手に勘違いしてエキストラに応募し、ダンス大会の観客席を埋める観衆の一人となって、「社交ダンスだったのか……」と呆然としながら、「あ、引越しのサカイの人だ」と徳井さんを見つけて喜んでいた。そのときは自分が映画の仕事に関わることになるとは思っていなかったし、映画脚本デビュー作に目の前の俳優さんが出演するとも思っていなかった。11年(撮影は公開より前だから12年か)も経つと、いろんなことが変わる。それだけの長い歳月を空けて渾身の一本を送り出したんだなあ、とあらためて恐れ入る。

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