2005年11月17日(木)  『天使の卵』ロケ見学4日目 電車でGO!

今日は春妃と歩太が出会う印象的なシーンの撮影。嵐山電鉄、通称嵐電(らんでん)の貸切車両に乗りっぱなしで終着駅の嵐山までひたすら往復し、テイクを重ねる。鉄道ファンのご近所仲間・T氏が聞いたら羨ましがりそう。定員があるのでわたしは乗り込めないかもと事前に言われていたが、無事乗せてもらい、運転席のすぐ後ろのすみっこの席へ。カメラには写らない位置で、撮影の模様も見えないが、「はいっ、テスト」「はいっ、よーい、本番!」「はいっ、カット」「はいっ、ボールド」といった冨樫森監督の声や「あと二分です!」「ガバチョください」といった助監督の声がしっかり届き、現場の緊張感は共有できる。ちなみに「ガバチョ」はガムテープ(ガバッと引っ張っるから?)、「カット」はそこでフォルムを回すのを止めること、「ボールド」はシーンの最後にカチンコを映してからフィルムを止めること。

この日集まった乗客役のエキストラさんたちは役者の卵中心だそうで、礼儀正しく挨拶も威勢がいい。撮影待ちの間に繰り広げられる会話は関西弁のせいか漫才を聞いているよう。「鴨川べりに、よくアベック座ってるやんかー」「あー俺、その中におるわ」「あ、そう。僕、その外におるほう」といったとぼけたやりとりが面白い。「ところでこの『天使の卵』ってどんな話?」「俺、原作読んだで」「あらすじ教えて。一分以内で簡潔に」と言われた若い男性は、「歩太っていう美大落ちた浪人生がおってな……」と話し始め、一分ぐらいと思われる時間よどみなく話したが、無駄な言葉も説明不足もなく、見事に要約したストーリーを伝え、「そういう切ないラブストーリーよ」と締めくくると、聞いていた人々から「ほうー」と感心のため息がもれた。同じ課題を彼よりうまくこなせた自信はない。国語力が問われるオーディションがあれば、役をものにできそう。「そうか、悲しい話なんやなー」「悲劇の恋の二人の出会いのシーンなわけやな」とあらすじを知ったエキストラたちはうなずきあっていた。

天気もよく、ガラス窓からのぽかぽか陽気が心地よい。運転手さんは指示通りに電車を発進し、スピードを守って進行させ、ドアを開け、発車ベルを鳴らし、ドアを閉め、また発進することに集中。真面目な横顔に誇りがうかがえる。プライドを持って仕事に打ち込むとき、人はとてもいい顔をする。

嵐山駅に電車を停め、車内でお弁当を食べて休憩。小西真奈美さんとカフェめぐりの話をする。この人にカフェという言葉はよく似合う。京都の趣のあるカフェで、ページにかかる髪をときどきかき上げながら本を読む姿が想像できる。

撮影後、スタッフルームに立ち寄り、監督と本直し。現場の状況によって書き換える必要のある箇所がいくつか出てきた。「いい時期に来てくれました」と言われ、やっと居場所が少しできた気がする。部屋の壁にはシーンナンバーとシーンを手書きした模造紙が貼られている。「撮影が終わったところを塗っていこう」と監督が朱色の墨汁を浸した筆を入れていく。半分ほどが赤く染まる。「ずいぶん撮った気がしたけど、あと半分残っているのか」と監督。

おいしいと評判のお好み焼き屋で監督、助監督さんたちと夕食。和気藹々と楽しそうな雰囲気にまぜてもらえて、また少し転校生を脱出。

2002年11月17日(日)  学園祭

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