2005年09月22日(木)  innerchild vol.10『遙<ニライ>』

「よかった」が何度も口をついて出てしまう芝居に出会えた日は幸せ。今年5月にオープンした吉祥寺シアターの真新しい木の匂いを抜けて外に出る間も、近くのもんじゃ焼き屋に着いてからも、一緒に観に行ったアサミちゃんと「よかったねえ」「いやほんとよかった」としみじみ言い合った。

G-upの赤沼かがみさんから案内をいただくまで、インナーチャイルドという劇団は知らなかったが、幕が開けた瞬間から引き込まれっぱなしだった。スクリーンに投影される文字が「芸」しているところ(言葉遣いはもちろんタイポグラフィーもとても洗練されている)、シンプルだけどセンスのいい衣装や舞台装置や小道具、音や照明の効かせどころ、役者の資質と魅力、すべてが予想以上。デザイナーのアサミちゃんは「チラシもいい紙だったし、デザインワークのクオリティ高いよねえ」と唸っていた。

何より感心したのが脚本。2時間の上演を長いと思わせない。沖縄とアイヌの言葉の共通点が投げかけられ、はるか南と北に離れた二つの土地の不思議なつながりを紐解く形で物語は進む。そこに介在するのは沖縄の異界伝説「ニライカナイ」。これはアイヌ語で解釈すると「根の下・空の上」となるらしい。そんな世界は本当にあるのか、どこにあるのか。もしかしたら沖縄の世界とアイヌの世界は、互いにとってのニライカナイであり、黄泉の国・天上の国であるかもしれないと思わせるラストに温かい余韻を感じた。

ところで、出演者の一人が先月事故で他界したことを、事前に訪ねた劇団のサイトで知った。一緒に舞台に立ちたがっていた彼女、希世(清田幸希)さんへの追悼の意を込めて、あえてチラシやポスターに名前を残したという。この作品の公演中に誕生日と四十九日を迎えた若い女優をこんな形で知ることになるとは。物語の内容にも祈りを感じられた。演じ手の思いがこもっていたせいだろうか。

劇場で配られた挨拶文によると、「土産」という言葉はアイヌ語の「ミアンゲ(=身をあげる)」が語源だと言われているという。命は何かをこの世に残して旅立っていくというメッセージも深くしみこんだ。沖縄やアイヌの言葉についてもずいぶん勉強されたのではないかと思う。沖縄の村では「サホ」「ヒカリ」と呼ばれていた登場人物がアイヌの村に流れ着いて「サポ」「ピカリ」となる。パコダテ人を観た北海道の方から「アイヌ語ではパピプペポの音を多用する」と教えられたことを思い出した。

innerchild vol.10『遙<ニライ>』
吉祥寺シアター
作・演出:小手伸也

海部クシラ/レプンカムイ:古澤龍児 
久高ハル:石村実伽
東方イクマ:小手伸也
外間ネーチュ:今村佳岳(カムカムミニキーナ)
外間ユタ:小椋あずき
西表ナサキ:森岡弘一郎(無名塾)
西表サホ/サポ:笠井里美 
南風原テッタ:児島功一(劇団ショーマ)
南風原チユ/チュプ:根岸絵美
北谷ムクオ:池内直樹(SUPER★GRAPPLER) 
北谷シマ/コシマッ:金子恵
パクシル:土屋雄 
ニセウ:宍倉靖二 
エトプ:岩龍 
ヌマウシ:櫻井無樹(千夜二夜)
アトゥイ/海部(旧姓・久高)カナ:石川カナエ 
ピカリ・イレシパハポ/東方ヒカリ:中谷千絵(天然工房)
海見キヨ/ホトゥケ・フチ:菊岡理紗 
葦原ヤマト:三宅法仁  

2003年09月22日(月)  花巻く宮澤賢治の故郷 その3

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