カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 うつぶせ

=うつぶせ=

冷たい手をかざすと、ほら、僕が見えたでしょ。そのままにじり寄って、首もとに手を置いて、力を込めれば 僕は、寝返りも、小さな声も漏らさない。最後に薄く目をあけて、君の目の下、小さなほくろを見つめる。失われた視線は、見透かしたまま宙に漂って、その先、幾光年分かの夢をみる。君の夢を見たよ、光のスピードで、じりじりと失われていく夢。
そんな光は、心を凍らせてしまうから、僕は最後に君の顏を忘れないように、眺めたくて 眺められない どうせ忘れてしまうからと、気を抜いた瞬間、息がもれた。手を止めた君。指先が震えて。それに涙を誘われた。僕は、ほら。綺麗な表情で殺して、と 言ったのに。

ふと開いたふりして見つめた君を包み込む僕の優しさが、抱かれる君を芯まで冷やして、震えさせる。

死化粧は君に。
泣く子は嫌いなんです。



2008年09月16日(火)



 ヒヤシンス

=ヒヤシンス=

あまえんぼの仔猫を あやしつけて、ひざに抱えて 寝かし付けて。半刻も経てば、うすく目を開くから 優しく微笑みかけてあげれば、みゃあ と、ちいさな声で鳴き哭き夢の中へ。
おれのいつか、美しいしろねこに恋をして、寝かし付けた仔猫をひざに 遠くの三日月を見つめてた目。彼女はその日、なみだの浮いた夢をみて、その目はうすく開かれて、ココロボソゲに身を震わせたはず。
だからというのにおれのひとみに灯る三日月を見つけたときは、

その時

みゃあ、と泣くのか にゃあ、と哭くのか

今は、まだ、知らないよ。


2008年09月14日(日)



 抒情の後

=叙情の後=

なんのやるきも起こさないかぜ とおりぬけ とおりこす
うばわれてしまったよ 服を着る ちからも こえも
お腹のうらがわ筋肉が ちからが抜けて 張っていて 強張ったからだのふしぶし ほぐしほぐ
その足下。タオルケット
はしっこからだに巻いて
ようやく届いた指先で
らくだがらのパッケージ
寄せて、反す。気まぐれなたゆみのなかに、吐き出した。吸い込んだ。

いっぷくに余韻

ベッドに残るは ゆめのきをくと もぬけのからがら 散らばった ティッシュケットが、すこしばかり かぜに吹かれて ほろり、苦いね

ぼくは/わたしは
自己主張を失なった 吸い殻のなかに
愛し合ったきをく
押し込んで 棄てた


2008年09月11日(木)
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