カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 病床うつらうつら

=病床うつらうつら=

しあわせな夢を見た ちょっとどんな夢だったかは忘れてしまったけれど。病床からのぞくカーテンの外は、すぐさっきまで夏が青葉をうすみどりに透かしていたのに。今はもういつの間に茜いろ。
きをくを手探って、アルバムにおさめるぼくの右手が止まってしまうと、このまま ゆっくりと目を閉じてしまいたい。


=ドラッグか、ビートニクのように=

無数の狂った頭を征服したい


2008年08月27日(水)



 TESLA SETH LA SEA

=テスラセスラセア=

 僕はどこかの僕が送らず消したメールを拾う

 イマジネーションギャップグラウンドの磁場は不安定だ。イマジネーションギャップグラウンドの電話回線は非常に複雑だ。それは大昔、金鉱をめぐって縦横無尽に掘り進められた坑道に似てる。無計画。法則の不在。そして、一つ。あわよくば辿りつける、という期待感。


 人知れず、電磁波に 垂れ流されたのは、
 それ ボク どこかに期待を ね。 なにも言えないから、優しく ひろって ね。おねがい


 伝書鳩が、爽やかな朝に清々しく、一枚の便箋を足にくくりつけ窓辺に降りる。外で跳ねまわって遊んだ光が、カーテンとカーテンの隙間から僕が小汚いベッドの上で、まどろんでいるのを覗いて、高い声でささやき合う。半透明のジェルに包まれたように、夢のなかで聞くその音は、孤独に慣れた老人が漂流先で送る救難信号。ミニマリズム。安心感。優しく抱かれ、そこにあり続ける愛のような甘さ。ループするワンフレーズ。背中をなぜる手のひらは、完璧な温度。上から下へ。優しく上へ。上から下へ。溶けこみ、日常に同化した永遠のセンテンス。ループこそが。上から下へ。優しく上へ。やわらかさに抱かれて。やわらかさに包まれて。

      繰り返し、
                          繰り返し、
 繰り返し      僕が求めるもの    
                       は

ループこそが、僕の求める、もの。

 震える、たった今命を与えられ、たった今、命を失わんとしている生命の、ふるえ。慟哭にも満たない、かすかな、ふるえを寄せ集めた。そこには、コードはなくて和音が聞こえる。光をとらえたら、一瞬の魂が。鳴らす震えは、寄り集まって、ようやく音へと昇華する。音が、音が聞こえる。かよわくも、全霊をかけて響き渡る。自己主張を始める。ここに! ここに! いる! いる! いた! ここにいた!存在した。ここにいた、から、ここにいたから!!
 一秒をふたつに。こどうと、こどうのあいだに四分音符をいれて、くだいた。せつなに変わった。せつなをのぞくと、ひかりが、生命の様々な色彩が その 一生のすべてをかけて鳴らした、一つの音が響き渡る。一つの生命に対して、ひとつだけ、神様は音符をくれて。
そこには、
               
   こーどはなくて 和音が聞こえる

僕が淘汰する。
 かなしくとも、現実的に
  ただ、それは くやしくも 意識の外側で


2008年08月18日(月)



 十七歳の夏、彼女は深夜の屋上にのぼる

=十七歳の夏、彼女は深夜の屋上にのぼる=

 深夜二時の屋上。そのとき私は、私である。彼でも、彼女でも、俺でも、僕でも、アタシでも、なくて、一人称としての私。性別は関係ない。私という個は、深夜二時に吹く夏の、すべてを腐らせ、駄目にし、いつのまにかその活力を奪ってしまうかのような生ぬるい風に吹かれ、屋上の柵にもたれかかっている。私は、車のヘッドライトがアスファルトの上を流れていく様をみつめている。長めの重い髪は、されるがままに、遊び、私の視線をせばめている。
 美しい。死に際。
 私は、いま、完璧さについて考えている。私は、いま、完璧さについて考えていることをしらない。きっと、二つの眼のうらがわには、情報を理論的、かつ、打算的に処理する脳みその部分があって、彼らは、退屈なレンタルビデオ屋のアルバイトのように、夜明け前のコンビニエンスストアで若者があくびをかみ殺すように、さらに言えば、まったく理解できない授業を眠ることもできずただ、ひたすら教科書に落書きをふやす生徒のように

 うずうずと刺激を欲している。

 そんな脳みその部分は、退屈まぎれに完璧さについて考えている。それを、私は、「私は、いま、完璧さについて考えている」と呼べるのか知らない。「私は、いま、完璧さについて考えていることをしらない」と、付け加えることにしてみる。ささやかな完璧さのために。

 完璧さ。美しい死。
 完璧さ、と、美しい死、そのあいだに私は、化学でいう二重結合のような強い結合を感じる。現実に根付いた日常に、完璧さも美しい死も存在しない。対人関係はこじれ、私の肉体さえ、私の思考さえ、私の意に反さないことはない。同時に、美しい死さえも存在しない。青白い肢体、魂を失った容れもの、落ち着いた頬の曲線。切り取られた完璧さは存在しようとも、流れゆく完璧さの皆無。落下ぎわのはためき、柵越しに見つめる目、青く澄んだ呼吸、脱げかけた片方の皮靴、美しく投げ出された黒髪と、手足。
 くずれる、つぶれる、はいせつされる。とびちらかされる。処理されては、きっと、誰かが黒い言葉を言う。



                  そうね。きっと、私。


2008年08月11日(月)
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