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JIROの独断的日記
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2009年12月04日(金) 【音楽】ソプラノ、森麻季さんの新譜、「麗しき瞳よ-ヘンデル・アリア集」素晴らしいです。

◆毎回素晴らしいけれども、今回も全く文句の付けようがありません。

いきなり、音楽家のプライベートな」ことを書いて恐縮ですが、

ソプラノの森麻季さんは、昨年9月にご長男を出産されました。

当然のこと乍ら、その前後は暫く演奏活動を休んでおられましたが、

女声声楽家の場合、出産の前後で声質や、演奏に変化が現れることもあるので、

ほんの少しだけ(ご出産は、無論おめでたいことなのですが)、森さんの演奏による

変化があるのか無いのか、音楽を聴くものとして、心配しておりました。


しかし、12月2日に2年ぶりに発売された新譜、

麗しき瞳よ~ヘンデル・アリア集を聴き、それが全くの杞憂であったことが分かりました。


森麻季さんは、より一層素晴らしい演奏を聴かせて下さいます。

全く「文句の付けようがない」とはこのことです。


◆テクニックと音楽性を兼ね備えた音楽家は、意外に少ない。森さんはそのお一人です。

森さんの演奏を聴くと、何故これほど、心を打たれるのでしょう。

それは、敢えて極めて単純化して述べるならば、

森さんが、高い演奏技術と、音楽性を兼ね備えた音楽家だからです。

森さんの非常に高度なテクニックを早く分かりたければ、

愛しい友よ~イタリア・オペラ・アリア集を聴くと良いでしょう。

声楽の中でも、特に器楽的な、早いパッセージを歌う。コロラトゥーラといいますが、

森さんのテクニックは、コロラトゥーラの中でも世界屈指だと思います


プロの音楽家になろうと思うのならば、歌であろうが、ピアノであろうが、

血の滲むような努力を重ねて高度なテクニックを習得しなければなりません。

テクニックは表現手段で、表現手段はないが、「心」があるから良いのだ、

というのは、プロではない。「NHKのど自慢」と替わらない。しかし、

ここが難しいところですが、テクニックは音楽家として大成するための必要条件ですが、

十分条件ではありません。作曲家が、その作品を通じて「何を表現したかったのか?」

を熟慮する「知性」「感受性」も必要です。

えてして(ピアニストなどに多いですが)、自分の演奏技術を誇示したい人がいます。

そういうのは聴いていてわかります。テクニックに「感心」はしますが、テクニックだけで聴衆「感動」

させることはできません。「作品への洞察」つまり知性が無いからです。

その意味において、森麻季さんは、その両者を併せ持つ、数少ない音楽家の一人です。

森さんの超絶技巧的演奏を聴いていても感動するのは、

森さんの知性が滲み出るからです。これは論理的に「証明する」ことはできませんが、

約35年間音楽を聴いてきた私の直感です。


◆最新CDには、ファースト・アルバムと同じ曲が収録されています。解釈の変化が興味深いです。

新譜、麗しき瞳よ~ヘンデル・アリア集の収録曲を見て直ぐに気が付きましたが、

森さんのデビュー・アルバム、あなたがそばにいたらと同じ曲が2曲あります。

いずれもお馴染み曲で、「オンブラ・マイ・フ」と歌劇「リナルド」から「涙の流れるままに」です。

こういうのは大変、興味深い。デビューアルバムは、2003年5月23日、カーネギー・ホールでのリサイタルライブですから

6年間の時間が経過している。その間に森さんはこれらの曲の解釈を変更したかどうか。変えたとしたらどのように変えたか。


最新のアルバムの面白いのは、古楽器の伴奏によるものだ、ということです。デビューアルバムはピアノ伴奏。

こういうことは本当はしてはいけないけど、まあ、エイベックスさん、森さん、見て見ぬフリをして下さい。


手元に最新アルバムのライナーノーツがあります。セルフライナーノーツのタイトルは、

大好きなヘンデルの作品をを収録して

です。前作、ピエ・イエス〜祈りを込めては宗教曲集というか教会音楽のアリア集でした。

このときの、セルフ・ライナーノーツに
「念願の宗教曲の録音ができて」

という意味のことを、森さんは書いておられます。オペラで派手にコロラトゥーラで拍手喝采を浴びるだけではなく、

宗教云々に関わらず、「ピエ・イエス〜祈りを込めて」や今回の「ヘンデル・アリア集」のように、穏やかな、

人々の心を優しく慰めるような歌を歌いたい、という音楽的欲求が森さんの大きな特徴です。


◆新・旧「オンブラ・マイ・フ」と「涙の流れるままに」の調性とテンポの変化。

話がそれましたが、前述の通り、デビューアルバムと「ヘンデル・アリア集」両方に収録されているのは、

有名な「オンブラ・マイ・フ」と、歌劇「リナルド」より「涙の流れるままに」ですが、

伴奏者(デビューアルバムはピアノ、今回は古楽器アンサンブル)の違いだけでなく、

調性とテンポが異なります。この2曲で調性とテンポ(メトロノーム速度)を比べました。

(テンポは前奏を含む)。

オンブラ・マイ・フ(旧) 調性:ト長調 テンポ 59〜60

オンブラ・マイ・フ(新) 調性:ホ長調 テンポ 66〜70

____________________________

涙の流れるままに (旧) 調性:ヘ長調 テンポ 56付近

涙の流れるままに (新) 調性:ホ長調 テンポ 52付近

これだけで、森さんの意図は分かる、とは私にはとても言えませんが、

「オンブラ・マイ・フ」も「涙の流れるままに」も調性を低くしていて、

特に、オンブラ・マイ・フは短三度(一音半)も下げている(涙の流れるままには半音ですが)。

音域が低くなると言うことは、明るさや派手さ(もともとそういう曲ではありませんけど)が

抑制されます。また、特に森さんはソプラノですから、オペラの難しいアリアで高音を出すときよりも

中音域から低音域での、声の豊かさが要求されます。派手が減ずる分、演奏者の表現力が問われます。

(オンブラ・マイ・フでは、前回よりも低い調性にしていますが、テンポは速くなっています)。

ソプラノのオペラ歌手なら、高音だけ出せれば良いのではなくて、高音を美しく響かせるためには

中低音をたっぷりと豊かな声で歌えるように、全身の無駄な力が抜けていなければならない。

中低音で美しい声を出せる、なるべくそのままの状態で喉には力を入れず、ブレス(呼吸)で高音を出す

ということを森麻季さんはずっと訓練なさっているのであろうと思います。


誤解の無いようにいっておきますが、森さんは高音が出なくなったわけではありません。

それどころか、アルバム第一曲目、「ロデリンダ 私の愛する人よ」では、以前と全くかわらない

見事なコロラトゥーラを聴かせて下さいます。完璧な音程。声(ブレス)のコントロール。最高音Cis(ドの♯)。

胸のすくようなテクニックです。


◆旋律の装飾

一般的にバロック音楽では、古典派以降よりも、演奏者の裁量による、即興的な演奏が

許容されています。ヘンデルで、森さんもそのことに触れておられます。

これは、森麻季さんのセルフライナーノーツにかいておられることです。

抜萃引用させて頂きますが、問題があったら、おっしゃって下さい。

・・・・ヘンデルのアリアは、A-B-A’のような3部形式になっている作品が多く、

同じ音型が戻ってきたA’で装飾をつけることが許されているので、和声と言葉の意味、

様式感を考慮しつつ、独創的な装飾を考えるのがとても楽しみになりました。

デビューアルバムや、テレビで、森さんがリナルド「涙の流れるままに」を演奏なさるとき、

私は、森さんの装飾の美しさにいつも感心するのですが、こればかりは、聴かないと分かりません。

デビューアルバムと、新譜で、装飾がどのようにことなるか、ホンの数秒だけ、載せさせて頂きます。



デビューアルバム「あなたがそばにいたら」における「涙の流れるままに」の装飾。


(旧)「涙の流れるままに」



新譜「麗しき瞳よ-ヘンデル・アリア集」における「涙の流れるままに」の装飾。



(新)「涙の流れるままに」



いずれも、本来の旋律の美しさを損ねることなく、文字通り見事な音の「装飾」が施されています。

この辺が、バロックの面白いところです。実際のステージでは、毎回変えても構わない訳です。


以上、大変ながくなりましたが、2年ぶりの森麻季さんの新譜、多くの方にお聴き頂きたいと思います。

僭越ながら、私が以前森さんのアルバムに関して書いた文章を読んで下さった読者の方から、

薦められてCDを買って大変感激し、森麻季さんが出演なさるコンサートや、森麻季さんのリサイタルに

行き、一層感動した。涙が溢れた。というメールを、今まで何通も頂戴しています。

私の駄文は素人の知ったかぶりにすぎませんが、こういうお便りを頂くと、

お薦めした甲斐があった、と素人ながら物書き冥利に尽きます。


森麻季さん、今回も素晴らしい演奏を有り難うございました。

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