再生するタワゴトver.5
りばいぶ



 浮浪者とガムとピッシャー屋(庄司再び)

 バイトでピザの配達(D君と同じ職場だったりする)をしていると時々変わった出会いをすることがある。特にぼくが配達している地域は中野や新宿区なこともあって特殊なのだ。今日はその中でも特に印象に残った出来事をひとつ。

 新大久保のホームレスと賭けをしたことがある。深夜にピザの配達で、ロッテのガム工場裏手のアパートに行ったときだった。「おいピッシャー屋!」。突然の声に驚いて振り返ると、前歯の欠けたホームレスが立っていた。ぼくの制服を指差しニヤッと笑う。どうやら前歯がないので、「ピザ」がうまく言えないみたいだった。ロッテのクールミントガムをぼくに握らせ、小声で話かけてくる。「ガム工場とスーカー(ツーカー)やから無料やねん。内緒やで」。よく見るとセブンイレブンのシールが貼ってあった。

 変なおやじだったが、同じ関西出身ということもあり、ちょくちょく話をするようになった。ロッテに就職したが、ガムの匂いに辟易したこと。匂いのせいで鼻水まで甘くなったこと。そのうち排泄物からガムの匂いがし、「俺の入った便所は香水いらずや」と、どこまで本当か分からなかったが、おやじの話はおもしろくて、よく二人で笑い転げた。

 おやじと賭けをしたきっかけは、ぼくが工場に対して「いいかげん頭痛くなるわ、この臭い」と呟いたことだった。それを聞いたおやじが突然立ち上がり「よっしゃ賭けしよ!」と言い出したのだ。「ワシが工場から細かくする前のガムの塊パクってきたる。賞品はでっかいピッシャーな。絶対やで」。そのままブツブツ言いながらどこかへ行ってしまった。おーい出来へんかったら?賭けになってないで――おやじと会うのはそれが最後になった。

 三日後、おやじの場所に花が添えてあった。交番で、やくざに殴り殺されたと知らされた。「『ピッシャー屋、ピッシャー屋』言いながらビニール袋指差してさ、中にガムのカスがぎっしり詰まってんのよ。なんでやくざに噛みかけのガムせがむのよ。困るんだよ、頭の変なのにうろうろされるとさあ。で、君なに?」。「ピッシャー屋です」。交番を出ながら、アホかアホかと呟いた。警察とやくざと死んだおやじが、無性に腹立たしかった。



2005年06月15日(水)
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