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■ (日記) 獄中からの手紙・・・
実は先日・・・この日記をUP寸前まで書き上げたのだが、チョットした手違いで消滅させてしまい、それ以降、中々書く気にもなれず、今日は時間が取れたのでもう一度書き直してみる事にした。
先日店に来たらドアの所に一枚の手紙が挟まっていた。 「今時、手書きの手紙なんて珍しいなぁ・・・」 差出人の名前を見るとミミズののたくったようなへたくそな文字で○×△■と書かれている。 なんで市内在住の筈なのにわざわざ手紙? と思い、ひっくり返してみると他県からの投函になっている。 (?)と思い、さっそく店の下準備が終わった後、封を開いてみた。
手紙を送って来たのは昔からの知人(仮にKとする)だ。 アタシがまだ三十路前の若かりし頃、とあるパブで働いていた事が有る。そこに新人のバーテン見習いとして入店して来たのが(K)だ。 当事彼は18歳になったばかり、まだあどけなさの十分残る可愛らしい顔立ちの少年だった。 何も解らぬ彼は何故かこんな毒舌なアタシの事を姉のように慕い、アタシのアドバイスや指導は素直に聞き入れ、徐々に仕事を覚えるようになったのだ。 しかし彼は半年ほどすると、何処かのイタリアンレストランのコックになるといい、その店を辞めて行った。 その後彼からの音信は途絶えていた。
やがて2年が経過しアタシは独立し、エポックと言う店を開いた。 彼の記憶も薄れ掛けたその頃、街の噂を聞き付けたのか、彼が母親を連れ立ちエポックに飲みに来た。 それをきっかけに、その母子は常連になったのだ。 彼の母に言わせると、(K)は中々仕事が続かなく、人とのコミュニケーションを取るのが不得手で困ってると言う。 その話を聞いた時(あぁ・・・その原因はキット貴女だわ・・・)アタシはそう感じた。 所謂、彼はマザーコンプレックスなのだ。 常に彼に寄り添い彼を心配し、ああだこうだとちょっかいを出す母親の姿を見て、口には出さずとも、アタシは心の中でそう感じていた。 優しく気弱な(K)は母の事を部分的に重くは感じていても、口に出せずに母に従っていた。 やがて二人に、給料は安くてもいいので是非アタシの店で使って欲しいと頼まれた。
やむなく(K)を厨房担当で雇うことにした。 しかし、やはり(K)は意思が非常に弱く、又、極度な寂しがり屋のせいか、給料を貰えば全て飲んでしまい、寝坊をして次の日の仕事に穴を開けるという不祥事が続いたのだ。 エポックは大きな店なので、30人の予約と言うのもまま有るのだ。そんな大事な時にすら無断で穴を開けることもしばしば有った。 とうぜん彼を叱るのだが、その都度彼の母親が彼を庇う。 とうとう堪忍袋の緒が切れたアタシは主人に相談し、(K)に店を辞めさせ、主人の仕事の助手をさせてみた。 しかし、コレも中々続かず、夫もアタシも完全に匙を投げたのだ。
その後10年(K)からの連絡も無く、完全にアタシの中から彼の存在が消えていた去年、何と彼は恐る恐るドアを開け「からくり箱」に現れた。 何度か店の前を通り「マキュキュ」と言う変な看板が出ていたので、きっとアタシの店にちがいないと思ったらしい。 「給料前でお金が無いので今日はコレで飲ませてください」と彼は千円札を2枚取り出し、申し訳なさそうに笑っていた。 「まだそんな暮らししてるの?」とアタシは苦笑しながら(K)をニラメ付け(笑)beerを注ぎ「それで今は一体、何をしてるのよ」と聞いてみた。 聞くところによると駅前のキャバクラでボーイをしてると言う。 他に客も居なかったのでしばし世間話をしていたのだが、途中で客が入って来、彼は程なく「今から仕事なんですよ。今度来る時は必ずボトル入れますからね」と少し寂しげに帰って行った・・・・・・。
あれ以来彼は来る事もなく、そしてつい先日彼からの手紙が届いたのだ。
便箋一枚にやはりミミズの這ったような字で、今身柄を拘束されていると書かれてあった。 途中、(マキさんの考えてる悪とは違うと思うのですが罪は罪、2年の刑期を受けながら反省の日々を送っています。・・・中略・・・、フミさんやテツロウは元気にしてますか? よろしく言って下さいと言っても、そんなこと言えませんよね・・・後略・・・・皆様が幸せになることを獄中より心から願っています。) と手紙は締めくくられていた。
何の罪を犯し拘留されたのかは解らない。しかし、彼がアタシのところ等に手紙をよこしたと言う事は、彼がこよなく孤独だと言う証拠だろう・・・・・・。 そう考えると、彼が不憫に思えてならない。 彼がからくり箱に現れた日、もっと引き止めて話を聴いてあげていたら、彼の犯罪は防げていたのだろうか・・・・・・。
罪を犯したらそれを償うのは当然の報いだ。 しかし、罪を犯すに至った彼の心情はいくばくのものだったのだろうか・・・・・・。 そんな事を考えてしまう今日この頃だ。
なにはともあれ、無事に刑期を済ませ、出所した暁には、彼にも幸せな人生を全うして欲しい。 そんな手助けやフォローをしてあげる人が彼には必要なんじゃないか・・・・・・。
2007年05月21日(月)
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