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■ エッセイ 人生波茶滅茶
【蓋を開けば厳しくて】
松本は地下鉄もなく交通網が限られているので、圧倒的にマイカー通勤者が多い。 不況に併せ、飲酒の取締り強化も手を貸し、夜の賑わいは年々寂しくなって行く。 皆それほど懐の余裕も無く、外で酒を飲まなくなっているのだ。 私の店の場所は駅前からは少し離れており、お城や市役所の近くでは有るのだが、わざわざ目的を定め出向かなければならぬと言う中途半端な場所にある。町名は【旧東町】と言い、母の店が有った場所と同じ通りである。 この店を選んだ理由は、駅前よりは家賃がずっと安いという事と、私達の原点の場所だったからだ。 店に隣接する通りは【裏町】と呼ばれ、昔は飲み屋街としてかなり賑わっていた通りがある。 昔は小股の切れ上がった芸者姿なども良く見掛けたが、今はその面影は全く無く、外人の店ばかりが軒並み増え、閑散とし、情緒もへったくれも無くなってしまった。 キャバクラやホストパブ系の呼び込みのお兄ちゃん達が呼び込む客も無く、皆でコンビニの前に屯し、寒そうに身を屈めながら不況の厳しさを愚痴り合っている。 私の店はエポック時代、グループで飲みに来る若者客が多く、恋人同士や夫婦者も多かった。客席での接客や色気は無用の店で、それを求めるような客筋も来ない。 エポック当時、大人数の男女グループで飲みに来ていた常連はそれぞれが所帯を持ち、子供がまだ小さく、今では皆が一斉に集まれる機会が殆ど無くなったようだ。 そんな事も影響し、意気揚々と店を開いては見たのだが、やはり現実は厳しく、時々言い知れぬ恐怖感に包まれる事がある。 それでも昔からの常連の一部が、未だ引き続き店に来てくれ、エポックの再来と喜んでくれている。過去からの常連に加え、新たな常連になってくれる人もポツポツ出来始め、もちろん赤字の月もたくさん有るが、パートを渡り歩いていた頃に比べたら心身共に充実感はある。 とは言う物の、やはり水商売なので時期によって売り上げにかなりのバラ付が有り、正直、お盆過ぎに静かな日々が続いた時には店の家賃の遅れが出だし、やはり店を持つ事は無謀だったのかと暗澹とした気持ちが続いた。 何日も暇な日が続くと世間全体から阻害されているような気持ちになり、自分自身を攻めまくるのだ。 私は一時期ノイローゼ常態になり、夫との口喧嘩の後、咄嗟に諏訪湖まで車を走らせ、湖畔のベンチに座り半日考え込んでいた事がある。 此処で飛び込んだら自分からも逃げる事になってしまう。でもきっと、楽にもなるんだろうな・・・。 しかし私はある事を思い出した。 【私、泳げるし、水中バレエやってたし・・・、きっと飛び込んでも世間を騒がせるだけで死に切れないんだろうなぁ・・・】 やはり死んではいけないとも思う。何とかしなければ・・・・・・。しかし何をどうすればいい? ずっと暗い湖を見詰めながら自問自答していた。 ネットの仲間や地元の友人達に店を潰したと報告した事を想定すると、皆の落胆した姿が目に浮かび、誹謗中傷した人がザマァミロと悪魔の槍を持ち、高笑いしている光景が目に浮かび、私は何処かに穴でも掘り、このまま埋まってしまいたかった。 店の状況や客とのエピソード等、遠くで来られぬネット仲間に、店の風景を知って貰えるよう、店での出来事を日々日記に書いていたのだが、暇な日が続くと、何をどう書いたら良いか解らなかった。 一時期、無料の電話カウンセリングを受け、カウンセラー相手に、生きる事に自信が無くなったと泣いてばかりいた。 しかし、11月辺りから再び店は活気付き、十二月が結構忙しく、それで何とか暇な時期の穴埋めが出来たのだ。 私はお金の苦労を散々している癖に、お金の稼ぎ方がとても下手だ。持って生まれた性格なのでどうしても変えようが無い。 余った食べ物等が有れば捨てるよりは客に喜んで欲しく、押し売りではなく、ただで振舞たりしてしまう。 電話やメールで客を呼んだりするのもあまり得意ではない。 若く綺麗なオネエチャンから呼ばれるならともかく、電話などしても迷惑だろうと思ってしまう。それを営業努力が足りないとか、奇麗事で商売なんかやってられない。と言う人も居るだろうが、来たい人は呼ばなくても来てくれるだろうし、来られない時にはいくら電話しても来られないと思うのだ。あまり物欲しげな商売をすれば余計お客が逃げるとも思う。人々にだって都合と言うものがあるのだから・・・。 なのでついつい、来る者拒まず去る者追わず的、自然任せの商売法になってしまう。 やりもしないうちから諦めてしまう処が、私の人生が上手く行かない最たる要因なのかも知れない。 それでも人が来てくれれば嬉しくて、自分も客と一緒になって楽しんでしまい、美味しい手料理を作る事と、良い歌を聞かせて少しでも楽しんでもらえる事にだけは一生懸命全力を尽くしている。 もしも私なりに頑張って、頑張って、それで、どうしてもダメだったら、皆に謝罪し、店を明け渡し、再び就職活動をするしかない。 そうならないように出来る限り頑張り続けなければ・・・・・・。
続く
2007年01月17日(水)
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