冒険記録日誌
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2021年04月13日(火) ギリシャ神話アドベンチャーゲーム1 アルテウスの復讐(P.パーカー他/社会思想社) その12

 「よくぞ戻った!そなたこそ我が息子だ」
 宮殿に戻った拙者に父アイゲウスは、驚嘆の叫びをあげながら駆け寄って抱きしめてきた。
 よく見るとまぶたにかすかに涙が滲んでいる。内心では死地へ向かわせた者が、もし本当の息子だったらと心痛していたようだ。拙者もじんわりと胸にくるものがある。
 「お顔をあげてください。拙者、父上に会えて嬉しゅうごうざいます」
 「母は元気なのか?それにその奇妙な言葉遣いはどこで覚えたのだ?さあ、お前の話しを聞かせてくれ」
 父の顔は喜びに輝いていたが、何かを思い出したように急に深刻な表情になった。
 「お前は良いところにきてくれた。頼みたい事があるのだ。お前でなければ勤まらぬ仕事なのだ。すまぬがクレタ島へ行ってほしいのだ。こちらへ来てくれ」
 どのみち最終目的のミノタウロスがいる場所はクレタ島だ。異論はない。王は苦渋に満ちた国の事情を話す。
 「クレタ島のミノス王は、ミノタウロスへの生贄にするために、わが国の若い男女を7人ずつ毎年献上することになっている。屈辱だが献上された彼らは断ればミノスは軍隊をわが国に差し向けると脅してくるのだ。だが毎年、若者達を奪われる我が民衆の不満はもう限界まできている。そこでお主は私の使
者として、生贄のかわりに金銀などの財宝の献上であがなえるようにミノス王を説得してきてほしい。決裂すれば後は戦争しか手段がないところまできているのだ」
 「もし決裂したときは敵軍の様子を少しでも多く探ってきてくれ」
 父の隣に控えている髭面の軍師らしき男がそう口を挟む。むしろ戦争を望んでいるかのような口ぶりだ。先程ミノス島からきた旅人エリデュロスが、アテネの住民の手でリンチに遭っていたが、その理由がやっとわかった。
 「さっそく親書をしたためよう。こちらへ来てくれ」
 父は拙者を貴族達の立ち並ぶ広間から、誰も居ない書斎に招き寄せた。親書を自らの手で書き上げ、封をして拙者に手渡す。
 「実はな。もう一つ頼みがある。ミノス王は冷酷な男だから申し出をはねつける可能性があるのだ。そのときはミノタウロスを殺してきて欲しい。なぜならクレタにあの化け物がいる事こそが、奴らの軍隊に神の力を与えていると言われているからだ」
 「承知つかまつった。もとより兄じゃの敵、ミノタウロスの退治は我らが一族の悲願でござる。父上、安心してくだされ」
 「おお、頼もしい。お前を乗せて行く船には黒い帆を張っておくぞ。お前が首尾よくことを果たせたら、船に白い帆をつけかえて凱旋するのだ。それを見て私は魂から安らぎを得る事だろう。だがその前にもう一つ困ったことがあるのだ」
 まだあるのか。この都もいろいろ問題が多そうだ。いずれ拙者が王の後継ぎになるのかはわからぬが、王という立場も楽ではないらしい。威厳に満ちて見えた父だが、こうして間近で見つめていると相当な疲労をひきずっているのがありありと見えた。
 「実は女戦士のアマゾンどもが、わが都に向かって進軍してきているのだ。このままなら明日には我が軍との戦闘になる。理由はわからんが降りかかる火の粉は振り払わぬばならん。お前の力も貸して欲しい」
 ようするに一兵士として戦えということか。仕方ない。せめて今晩はゆっくり休んで英気を養わせてもらおう。

by銀斎


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