冒険記録日誌
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2016年11月06日(日) ポートピア連続殺人事件 密室殺人の謎(池田美佐/双葉文庫) を改めて遊んでみた

 ファミコン版では初の推理アドベンチャーゲームとして有名なあのゲームを原作にしたゲームブックです。
(「ポートピア連続殺人事件」といえば、本当はパソコン版も存在するのですが、今回は関係ないので割愛。)
 本書は以前にも2002年6月13日の日記で紹介していますが、そのときは発売当時のプレイ記憶を元に感想を書いただけです。
 その後、ファミコン版の方を初めてクリア出来たうえ、数日前に本書も20年以上ぶりに再プレイしたので、また感想を書き足そうかなと思って再び取り上げることにしました。

 まずは概要説明。
 主人公の刑事と部下のヤスのコンビで、評判の悪い金融業の社長が被害者の殺人事件を捜査するという内容です。以上、説明終わり。

 本書に対して印象に残っているのは、雑誌ウォーロックに載っていたレビューで、そこでは辛口に評価されていました。その主な理由はゲーム性が低いという事でした。
 つまり実際に推理することもなく、ただ進めていくだけでクリアできてしまうようになっている点が批判されていたと思います。(今、手元に雑誌がないので、後で一応確認しておきます。)
 実際、原作はシンプルなコマンド選択式のアドベンチャーながら、適当に選択していては捜査が手詰まりになってしまう作りなので、推理を必要とする要素はありました。
 対して、ゲームブック版では情報ポイントと知力ポイントという2つの能力値が存在していて、捜査で誤った選択肢を選んでいると能力が下がり、そのうちゲームオーバーになる構造です。ゲームオーバーの理由は、誤認逮捕や無駄な捜査をしていると上司の怒りに触れて、捜査の任務を外されるパターンがほとんど。事件の真相については勝手にゲーム内の主人公が考えてくれるので、読者が実際に推理する必要はあまりありません。
 しかし、山口プリンは言います。それがどうした。
 推理要素が優れたゲームブックは、「ツァラトゥストラの翼」のように確かに存在するし、それはそれで当然良いのですが、「ポートピア連続殺人事件」のゲームブック版は、推理ゲームよりもストーリーの補完に力を入れているからです。
 ウォーロックの記事の指摘は、女の子が仲良く話しているだけのアニメにストーリー性がないとか、キングの小説「シャイニング」に13日の金曜日みたいな猟奇的ホラー場面が少ないと文句言っているのと同じなのです。それじゃあ、コマンド総当たりでクリアできてしまう「ファミコン探偵倶楽部」はどうなるのでしょうか?
 
 さて、30年近く前のレビューに対して、今頃ヒートアップするのもどうかと思うので、落ち着いて原作との違いについて話しましょう。
 基本的にはゲームブック版は、原作の設定はなるべく壊さないように、追加のオリジナル設定や登場人物を増やして、より2時間サスペンスドラマみたいな世界観に近づけています。
 例えば、主人公側の人間には署長と部下のヤス以外に、麻薬取締官や、情報屋のシゲ、捜査のライバルとなる川崎刑事と桑原刑事がいます。
 特に川崎・桑原コンビは大阪弁でいつも主人公たちに嫌味を言ってきて、いかにもな役どころです。ゲーム的には、こちらの捜査で情報の取りこぼしがあると、彼らが得意げにそれを発見するという、捜索が行き詰まらないようにする救済処置として扱われているようです。ただ、この事件の真相から思うに、主人公が事件を解決しても川崎・桑原コンビの鼻を明かすという感じにならないな、と思うと少々悔しいところ。
 捜査対象者側のオリジナル登場人物の方は、ちょい役まで含めればかなり多いですが、ストリップダンサーおこいの3年前に亡くなった夫の竜二の存在と、ふみえの子どもの頃を知るお梅ばあさんは、特に捜査に影響します。
 ゲームブック版のおこいは、竜二の死が影響して、警察嫌いとなっていて捜査に非協力的という設定。竜二の死亡現場で考えていた主人公が、夫を偲んで花を手向けにきた和服姿のおこいと偶然遭遇して、彼女の心をときほぐすという展開は、子ども向けの双葉ゲームブックとは思えぬ、味のある良シーンだと思います。
 お梅ばあさんの方はネタバレになるので言えませんが、お梅ばあさんからのエンディングへの進み方は、ファミコン版の終盤よりドラマティックになっていて実にいい。
 ファミコン版だとエンディングは取調室の中だったから、ちょっとあっさりに思えたのですが、ゲームブック版ではラストは海岸で犯人が告白します。やっぱりサスペンスドラマのラストはこうでなくてはね。

 もちろんファミコン版はハンマーや虫眼鏡でフリーダムな取り調べができたり(ゲームブック版はむやみに相手を叩くと警察の不祥事になってゲームオーバーとかあり)、リカちゃんと通話したりと面白い小ネタが多くて、いろいろ魅力がありますが、ゲームブック版も負けず劣らずなんです。守衛のこみやのゲートボールに付き合ってあげたら、こみやの頭にボールを当てて傷害事件になってしまうとか、情報屋のシゲと一緒に麻雀したら警察の手入れにあって逮捕とか、アホなゲームオーバーも時々交じっているのさえ愛おしい。麻薬絡みのエピソードでは、主人公が銃撃戦に巻き込まれて撃たれてしまい、ヤスの叫び声を聞きながら殉職!なんて、太陽を虫眼鏡で見るどころか、太陽に吠えたくなるようなものもあります。
 犯人を知った状態でのプレイなら、ゲーム中の犯人の言動がちゃんと真相を踏まえたうえでの動きになっているので、その胸中をお察ししながら楽しむのもありでしょう。

 ポートピア連続殺人事件は、推理ゲームでも初期の作品だけに、今のゲームに比べれば長いストーリーではありません。その気になればゲームブック版も、原作に忠実なベタ移植も可能だったと思います。でも、ゲームブックという媒体を生かすには、本作の内容の方が妥当でしょう。
 ファミコン版の特徴だった被害者の屋敷にあった地下迷路は、ゲームブック版にも存在しますがとても簡略化されています。原作再現という意味では、単調な双方向迷路を延々迷うような作りにしても良いところを、そうしなかったのは無意味に迷路を取り入れるゲームブックも多い中、プレイヤー側への配慮を感じられて好感がもてました。
 ゲーム的には、推理云々の点はさておいても特筆する作品ではないですし、密室事件にする必然性も特に感じなかったりするのですが、総合的に見ればやはり本書は良作だと思っています。


山口プリン |HomePage

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