冒険記録日誌
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2016年09月04日(日) 天空要塞アーロック(マーティン・アレン/社会思想社)

 人気のファイティングファンタジーシリーズ(以下FFシリーズ)33巻目であり、日本語版最終巻です。国内のゲームブック市場では古本価格が最も高騰していることで有名な作品ですね。
 シリーズ前巻の「奈落の帝王」は発売当時本屋で立ち読みしたことはありますが、こちらは当時の記憶はまったくないな。
 本作はSF作品(ちなみに海外版も含めて、FFシリーズ最後のSF作品だそう)ですが、ネットの評判ではそのコレクター的な希少価値とは異なり、ゲーム自体の評価は非常に悪いことでも有名です。シリーズワースト作品だとか、前作の方が最終巻にふさわしかったとか散々に言われています。
 実際はどんなものかと、今週はずっと本書に挑戦していたのですが、自分的にはそんなに悪くはなかったです。でも、評判の悪い理由もよくわかります。
 ナンセンスなギャグが多いんですよね。
 例えるなら双葉ゲームブックのドラクエで、頻繁に登場する樋口明雄ギャグを受け入れられるかどうか?というような感じでしょうか。
 問題はFFシリーズでこれをやったという事です。
 今までのFFシリーズでも「サイボーグを倒せ!」では上司へのプレゼントに本屋で「火吹山の魔法使い」を購入するとか、「恐怖の幻影」で逆さづりになった主人公の周りをミュージカルのように踊る妖精どもとか、そんな笑えるシーンはありましたが、あくまでおまけ要素でした。
 FFシリーズの世界観の基本は、シリアス、ハードボイルド、冒険のロマン、男のハーレクインなのです。(いいすぎか?)
 当然、シリーズを購入する人もそういったものを求めて購入したところが、今回のように毛色の違う作品だったとなると、期待外れから酷評になるのも無理からぬことと思います。

 とりあえず、どんなところがギャグか抜き出してみますと……。
 まず、プロローグで今回の敵となる科学者ル・バスティンの数々の悪行が語られるのですが、自分を追放した王への復讐として、美容整形外科医に扮して王妃の頭にパイナップルを移植したと書かれている時点で、疑問と不安が生まれました。
 ゲームが始まり、宇宙船でル・バスティンの本拠地アーロックに向かって主人公は旅立ちます。序盤でトラブルにより見知らぬ惑星に不時着するというシーンでは、せっかく湖の畔に軟着陸できたのに、そばに生えていた大木が怒って宇宙船をポイッと湖の中に放り込んでしまう展開に衝撃。
 謎の宇宙船内で、倒せない映画のエイリアン的な宇宙人(オレンジ色の球状生命体)から逃げ惑う展開では、さっきまで恐怖まじりに逃げ惑っていたのに、遊戯室に到着した途端、「どの遊戯で遊ぼうか?」とのん気な選択肢が登場。そしてビリヤードをしようとキューでついた球は見覚えのあるオレンジ色というオチ。
 17次元の力を融合した鎧を装備した敵に勝った時は、「17次元では熱は固形になるのだ」という解説と共に、レーザービームを針金のように使って、敵を縛り上げる。
 ドリル付きヘルメットで穴をあけようとすると、反対に体の方が猛回転して彼方に放り出されてEND。
 中盤でも、57次元という意味が分からないけどなんだか凄そうな世界から燃料補給にやってきた巨大宇宙船が唐突に登場して、王からの通信で「やつらが太陽エネルギーを吸い尽くそうとしているから、破壊してくれ!」と命じられます。ル・バスティンのケチな犯罪より、どう考えてもこちらの方が遥かにスケールが大きな大事件ですが、こちらが寄り道任務扱いとはどうなの?
 このように突っ込みどころが多すぎて困るくらいです。

 一方、ゲーム的な面はどうかと言うと、戦闘バランスはまあまあ。技術点7じゃクリアは無理っぽいですが、技術点11・12クラスの無茶な強敵は基本的に登場しません。
 基本的に一本道ストーリーですが、それを感じさせないよう、寄り道ルートが多く仕掛けているのも良い感じです。
重要アイテムの岩塩の入手箇所がわからず苦戦しましたし、難しくはあるのですが、FFシリーズとしては標準の難易度といえます。
 ただ大きな問題点があり。ゲーム中に頻繁にミニゲームが登場するのですが、その多くはルールが意味不明だったことです。自分が考えるのを面倒くさがっているだけという理由も多いにあるのですが、もうちょっと感覚的にわかりやすいゲームにしてほしかった。
 しょうがないので真っ当なゲームクリアは諦め、ミニゲームになると指ばさみセーブによる選択肢総当たりで強引に進めました。
 ちなみにミニゲームのうち2つは、ゲームに必要なマップが本書カバーの折り返しについているので、カバーなしだと遊べません。これから購入を考えている人は注意してください。

 まとめると、古き良き時代のアメリカ製スペオペに、アメリカン人センスのコメディやギャグを盛り込んだ作品と言えばいいでしょうか。ちなみにプレイ中はそんなに気にならなかったのですが、主人公は標準的な人間種族という扱いにもかかわらず四本腕で、その設定からすでに日本人向け感覚じゃないですね。
 遊んでいる間は、ちょっとぎこちない動きをしたアメリカ製アニメのイメージでゲームシーンが脳内再生されていました。
 アーロックの最大の間違いはFFシリーズの一つとして発売されたことだと思います。しかし、FFシリーズは共通舞台となるタイタンの世界観が定まってきた終盤からが面白いという方もいますが、定まったタイタンの世界で描かれた終盤のFFシリーズを、逆に私は苦手に感じていました。そんな中、アーロックを遊んでいると、そんな他のFF作品に尻をまくったかのような自由過ぎる展開に、段々爽快感すら感じてしまい、笑って楽しく遊べたくらいです。
 誤解のないようにいうと読者視点ではギャグに感じても、登場人物達自身はギャグをやっているつもりはなく真剣に行動しています。特にル・バスティン登場からの終盤は、小説やアニメ等で例がないわけではありませんが、ゲームブックでは珍しい展開で結構好きです。プロローグのル・バスティンが妙に小物臭かったのはこの伏線だったのだろうか。あと、展開次第ですが、主人公のクローン集団登場には笑えました。

 最後に私よりずっと詳しく、的確に書いてくれているレビューがありましたので紹介しておきます。
 近年のお値段がお値段ですし、持っていない方は無理に入手せずに、こちらを読んで満足されるのがよろしいかと思いますよ。

オセンタルカの太陽帝国 『天空要塞アーロック』。
http://blog.goo.ne.jp/ryuzojiryuzoji/e/5df0dddf841fc021eb0dc1b48c6128a5


山口プリン |HomePage

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