冒険記録日誌
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2016年04月16日(土) 魔法使いナシアンの旅(滝永悟/朝日ソノラマ)

 前に少し遊んで、そのうちちゃんと最後まで遊ぼうと思っていた「魔法使いナシアンの旅」をクリアしました。2003年04月23日の冒険記録日誌で、ナシアンの魔法システムを紹介したとき以来ですから、10年以上越しの達成です。
 ゲーム機ならハードが2回入れ替わっているくらいの時間だな。オンラインゲームならサービスが終了している状態でしょう。
 新刊のゲームブックもすぐに買うものの、大抵1〜2年経過してから遊んでいるし、スローゲームライフの私にはやはりゲームブックがぴったりですわ。


 さて、紹介の方をします。本書は魔法や怪物が存在する中世ヨーロッパ風の世界が舞台の、極めてオーソドックスな冒険ファンタジーです。
 主人公のナシアンは見習い魔法使いとして魔法院の学生をしています。ストーリーですが、世間では謎の人さらいが頻繁に出没する中、兄弟の結婚式に出席するため里帰りするという他愛もないもの。学院の休暇を取る条件として、プロローグでは学院長から道中に立ち寄る街に、ある手紙を配達するようお使いを命じられます。
 最終的には途中で加わる仲間と共に、人さらいが潜伏している本拠地に潜入することになり、元凶の黒魔術師を退治するという王道展開になるわけですが、この世界の人々は旅人と別れるとき「平らな道が続きますように」と声をかけるとか、描写が一般的なゲームブックより細かく、小説として意識された内容となっているのが特徴です。
 とびぬけた個性的な登場人物はいませんが、ヒロインのエイレンは現実にいそうな好感の持てるしっかり者の性格ですし、戦士エルウィンのナシアンとの会話の掛け合いは楽しく、ラスボスのビスマイアもいかにもな悪者ぶりで、キャラ小説としてもなかなか良し。何気にイラストも雑誌ウォーロックや「ニフルハイムのユリ」等でお馴染みの米田仁士氏ですし、雰囲気はばっちりです。

 こう書くとストーリーメインで、ゲーム性は普通な出来に思えますが、さにあらず。システムのいくつかが独創的で面白いのです。
 まずは魔法システム。ナシアンは11種類の魔法を習得していますが、多くの魔法はまだ咄嗟にうまく使えないとの設定で、ゲームのルール説明の段階では、初心者向けの「明かり」と「眠り」の魔法以外は名前とその成功率しか表示されていません。他の魔法がどんな効果があるのか、冒険中の実践で試して覚えていくしかないというわけです。ゲームオーバーになっても、次のプレイではより多くの魔法の効果が判明した状態でスタートできるという、プレイヤー経験値を積み上げていくシステムは、ゲームブックの名作ソーサリーの魔法習得に通じるものがあります。
 次にゲームブックを手軽に遊びたい人と、本格的に遊びたい人、双方の欲求を満たすため、サイコロを使う使わないがプレイヤーの任意で決められるようになっています。使用の有無で戦闘等のルールが違い、サイコロを使用するルールの方が、初期体力値が多くなり、戦闘で必ず先手を取れるという有利な面がある一方、攻撃に命中判定がつくようになり、安定したプレイが難しくなります。
 サイコロなしなら必ず成功していた魔法にも成功判定が必要になり、その成功率は呪文の種類によって違うので、一部の選択肢や戦闘では一番有利な呪文が変わってくるのも面白いところです。
 他にも戦闘システムでは、体力値はパーティ共有で、攻撃の手番だけ戦士のエルウィンは剣で、ナシアンは剣と魔法を状況に応じて使い分けるという風な、プレイヤーの負担を減らしつつも、パーティプレイ感があるものになっているなど、ルール面では作者がいろいろと試行錯誤したように感じますね。

 実際のゲームプレイ中の印象では、基本的に中盤まで割とのんびりした旅が続き、ラスボス手前のゴーレム戦が強敵なくらいで、難易度は割と低い方でした。有名ゲームブックでいうとソーサリー1巻みたいな感じかな?最初はゴーレム相手に体力がもたずに敗退を繰り返して苦戦していましたが、これは仲間が加わったときに体力値の上限が増えるという記述を見逃していたのも原因と判明。(汗)
 ちなみに本書には続編があり、そちらの方の作者コメントによると、前作は登場人物紹介的な意味合いが強かったと書かれていました。そういわれると本作は昔のライトノベルの第1巻みたいという方がぴったりくるかもなぁ。主人公は歴戦の冒険者ではなく、ただの学生の状態から始まっているし、序盤にナシアンが見た夢に登場した謎の3人組の伏線はそのままで、今回の事件にまだ背後があるようですし。
 エンディングでナシアン達がのん気な会話をしている裏で、3人組が「ビスマイアがやられたそうだ」「所詮、奴は若輩者……」「我らの計画が揺るぐことはあるまい」とか会話していそうだ。
 ゲームブックとしてのボリューム感はややあっさり目に感じましたが、長編ゲームブックはなかなか初心者には敷居が高いと思うので、これはこれでありです。ローンウルフシリーズみたいに巻を積み重ねて、シリーズ化すると良い感じだったのにと思った良作でした。


山口プリン |HomePage

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