冒険記録日誌
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2016年04月03日(日) 妖魔館の謎(塩田信之・飯野文彦/光文社文庫)

 光文社文庫のゲームブックレーベルもこれで最後の紹介となりました。
 菊池秀行さんの小説「妖魔シリーズ」を原作としたゲームブックで、現代社会の裏で触手がうねうねしていそうな妖魔が、人間を食らったり取り付いたり悪さをする世界で、主人公が妖魔退治をするという話しです。
 どうしよう、これ。私、塩田さんのファンなのに感想が書きづらいよ。塩田さん、すいません。これはあくまでこの作品のみに対する感想です。その後の作品は別ですから。

 一言で言うと文章がヘタすぎ。

 まず、「〜であった。〜であった。〜であった。」と畳み掛ける文章の多用にクラクラ。普段、正しい日本語なんて気にしない私が気になるのだから、相当なものです。
 怪しいとはいえ登場したばかりのお婆さんを家族の目の前で殺しにかかるあんまりな選択肢。突然、別の登場人物視点になって読みづらいパラグラフ。基本ハードボイルド調なのに、それをぶち壊すように時々入る「わっはっはっ。後は知−らないっと。」といったお茶らけた文章に腰砕け。
 とどめはパラグラフの先がつながっていない。選択肢により今回は登場しなかった男をなぜか知っている主人公。などと、バグのオンパレード。
 要するに商品レベルに達していません。
 
 本作は塩田さんと飯野さんの共作となっていますが、後書きによると、発売当時まだ高校生だった塩田さんのデビュー作であり、飯野さんがサポートしたような形だそうです。
 ロクに編集による校正作業もされてなさそうなので、全て作者のせいにするのは酷ですが、やはりプロ作品として見ると、厳しい感想しかでてきません。
 本作のポイントはやはり文章力。それが普通にあれば問題点の多くは解決したのじゃないかな。
 例えば招待された館で主人公が寝室に向かうシーンでは、依頼をしてきた館の婦人が案内を申し出ているのに、婦人の他、3人の娘の誰に案内してもらいたいか?という不自然な4択になっています。しかし、ここは婦人が「どの娘に案内してもらいたいですか?」と冗談めかして言うシーンにすれば普通の選択肢です。
 ちなみに娘に案内してもらう選択肢を選ぶと、ある娘は唐突に抱いてほしいとか言い出す意味不明さ。(注:初対面です。)存在感がなかったのに、いきなり忍者みたいな下男どもを引き連れて襲ってくる館の主とか、どの登場人物も突飛な行動をする変な人達ばかり。これも書き込みが全然足りないので行動に説得力がないのと、人物像がつかめないせいでもあります。

 一応、全てが駄目というわけでもなく、前向きな感想を書くとすると、原作にある妖魔と人間の戦いに、本作ではさらに魔樹というオリジナルの存在を加えて、三すくみになっている設定はなかなか良いです。(ただ、絶対的な存在として描かれているはずの魔樹が、ごく普通の除草剤を撒いたら瀕死になる展開には笑えた。)
 ゲームとしては一回のプレイ時間は短めで、沢山の展開が用意されているタイプのゲームブックで、それ自体は悪くありません。能力値やら、弾丸やお札の管理を求められますが、すぐに終わるためその気になれば暗記だけで遊べると思います。
 作者が目指している方向は間違っていなかった。しかし、実力がまだ足りなかったというところでしょうか。ファミコンゲーム原作なら文章の表現力が弱くても問題ないことが多いですが、小説原作だとそうもいかないようです。
 ただ、ゲームブックには珍しくベットシーンが(といっても18禁レベルには程遠いですが)あるので、当時の煩悩小僧どもを釣るには良かったかも。


山口プリン |HomePage

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