冒険記録日誌
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2016年02月28日(日) 鉄人28号 東京原爆作戦(樋口明雄/光文社文庫)

 特集みたいに、光文社文庫ゲームブックの紹介を続けて書いてきましたが、最後は双葉ゲームブックでお馴染みスタジオハードの制作「鉄人28号 東京原爆作戦」です。作者はなんと樋口明雄さん。おー、やったー!
 遊んでいた時は、なんだかもうアウェイでずっと試合が続いた後に、やっとホームに戻ってきたスポーツ選手みたいな気分になりましたからね。定番の方の作品はやはり安心するなぁ。

 本書は鉄人28号という、ゲームブックにはちょっと珍しい題材を使っています。説明の必要もないほど有名な原作ではありますが、実際にリアルタイムで見ていたのは私より上の世代ですからゲームブックブームと時代が合わないんですよ。発売された時点ですでにレトロ感が漂っていたはずです。一見子ども向けのようでいて、実は大人を狙った作品なのかもしれません。
 私も小さいころに、鉄人28号の絵本を持っていたはずなので、リメイクされたカラー版のアニメは見ていたと思うのですが、まったく記憶に残っていません。ずっと後の「鉄人28号FX」の方は、好きでよく見ていましたが。
 ゲームブック版の内容はオリジナルストーリーです。時は昭和30年。ブラックファントム団なる組織が「東京のどこかに原爆を隠した。もうすぐ爆発するぞ!」と宣言したからたまりません。当然、大騒ぎが起こり、次々に人々が疎開して東京は機能不全に陥ってしまいます。
 頼りの鉄人28号ですが、なんと産みの親である敷島博士が誘拐され、原作の主人公である金田正太郎氏はアメリカへ留学中という間の悪さ。そこで、東京を救うため、ピンチヒッターとして鉄人28号を操るのは、主人公であり敷島博士の書生である滝一平という設定です。
 ルールは原爆爆発までの時間ポイント、鉄人のパワーポイント、主人公の体力ポイントの3つの管理が必要で、100点からの減点方式。さらには鉄人28号の輪郭図があって、鉄人が手や足にダメージを受けると、その箇所に×をつけるという面白いルールもあります。
 東京中の目ぼしい場所を鉄人と共に探索しながら、原爆を発見するのが目的なのですが、この混乱に乗じてブラックファントム団と無関係のテロリスト達も爆弾を仕掛けたり、警官と小競り合いを起こして、どこに行っても事件が発生するうえ、さらにはファントムXという、鉄人28号以上の力をもった巨大ロボットが東京中を徘徊して荒らしまわっています。
 一つ一つ相手にしていると時間が足りないものの、解決するかどうかはある程度自由に選択できるようになっていてゲームとしての自由度は高い方です。
 難易度は丁度良い感じ。私は4回目のプレイで原爆を発見しましたが、手を出せない状態になりEND。敷島博士の捕まっている場所がわからず救出がなかなかできなかったせいで、クリアまでに7・8回はかかりました。
 また、鉄人を動かして力ずくで解決するだけでなく、操縦者である滝一平自身が行動して解決しようとする選択肢も多くあるので、逆にいつ鉄人を使うべきかと考えるようになり、鉄人を遠隔操作している感がうまく伝わってくる作りとなっています。何度かあるファントムXとの格闘シーンも含め、鉄人の見せ場もたっぷりあり、原作を上手に生かして丁寧に作られている印象です。
 樋口明雄ゲームブックによくあるギャグは控えていますが、ブラックファントム団の首領が読者に挑戦状を叩き付けるような話し方でルール説明をするなど、世界観を考えた遊び心が見られますし、都民の避難を疎開と表現することや、敵の火炎放射器を見れば沖縄戦を連想してしまう主人公など、まだ戦後をひきずっている時代の空気感の表現もいいですね。
 さらに特筆すべきは本作の挿絵の大半はイラストではなく、プラモデルやミニチュアセットを駆使した実写ということ。今見てもアナログな特撮にノスタルジーに浸れてしまう素晴らしい挿絵です。表紙のイラストも横山光輝さんの書き下ろしですから死角なし。まさに鬼に金棒、鉄人28号にロケットです。
 光文社文庫ゲームブックでは最高傑作かもしれません。オススメ。
 


山口プリン |HomePage

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