冒険記録日誌
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2013年09月23日(月) |
完全犯罪ゲーム(桜井一/西東社) その1 |
引き続き西東社のゲームブックから紹介。 本書は殺人犯の青年が主人公で、警察や名探偵の捜査からいかに逃げ切るかを目的にしている非常に珍しいゲームブックです。 探偵側から犯人を追いつめる推理物ゲームブックならよくあるし、冤罪で追われる主人公が警察に捕まる前に真犯人を見つけ出す、というのもよくあります。 しかしこの主人公は、追い詰められた青年として紹介されてはいますが、要するに働かずに親の遺産を食いつぶしながら遊びほうけ、さらに悪どい金貸しから多額の借金して返済を迫られた挙句、金貸しを殺して借金を有耶無耶にしようと考えつくという、どうしようもない奴で一種のピカレスクゲームブックと言ってもいいでしょう。 犯人視点というのはミステリー小説ではたまにありますが、ゲームではあまりなく、TVゲームではセガサターンのソフトで「金田一少年の事件簿 星見島 悲しみの復讐鬼」を思い出すくらいです。ゲームブックでこのタイプのものは、これが唯一かもしれません。
ゲーム的な所を説明すると、総パラグラフ数は146ですが、分岐せずに話しが続くパラグラフや、結末の似たようなエンディングパラグラフが多いなどで、実質のボリューム感はあまりありません。 西東社のゲームブックに多い切り取って使うカード類は存在せず、ポイント制も一切ありません。 わずかに警察が証拠を見つけるかどうかなどの乱数処理として、簡単な迷路ゲーム(AとBどちらの出口かで分岐)があるくらいで、単純な分岐小説となっています。 1ページに1パラグラフでイラストつきで、ストーリー志向が強い内容なので、変にルールに凝るよりこの方がいいでしょうね。
プロローグでは主人公のダメっぷりな境遇について説明があり、続いてこの殺人の為に主人公が考えた完全犯罪の計画と、この犯罪は一種の密室殺人との事でトリックの内容が一緒に書かれています。 主人公が計画どおりに金貸しを殺害し、遺体の傍から警察への通報電話をかけるところからゲーム開始。 現場検証シーンあたりまでは、この選択肢が証拠隠滅につながるのか、余計な行動でボロを出してしまうのかと悩んだかと思えば、警察が主人公に致命的な証拠を見つけるのかが乱数処理になっているわで、ヒヤヒヤ展開。一旦、警察から解放された後は、謎の脅迫電話がかかってくるなど、サスペンスドラマ風な展開になっています。 とはいえ、初回プレイであっさりクリア。開始10分くらいでエンディングまでいってしまいました。 イラスト入りで文章も少ないうえ、いろんな展開が用意されているマルチシナリオだからです。短いかわりにまったく新しい展開で再挑戦が楽しめます。 そうやって何度か遊んでいると、ちょっと古めかしくて暗めのイラストの雰囲気とかもあって、なんだか高度成長期の昭和の時代に書かれた探偵小説の世界に入り込んだような気分になってきます。(※1) 特に、ゆすりをしてきた脅迫者を自分の車に乗せて自宅に向かうシーンで、相手をスパナで殺すべきか──という選択肢なんかは、江戸川乱歩の小説「十字路」(※2)の一場面そのものです。
それからゲームクリアより苦労したのが、ペラペラをページをめくると他パラグラフでチラチラ目に入ってくる名探偵らしき人物を登場させること。 4・5度目のプレイになっても、警官相手にやりあっているだけでエンディングを迎えてしまい、どうしてもこの人が登場しないのです。 選択肢を一つ一つ潰していきながらの10回目かのプレイで、やっと会えました。 なんとこの主人公は「事件に巻き込まれたので助けてほしい」と、わざわざ自分が依頼人となって名探偵“陳田一珍助”(※3)を呼び出したのです。 「自分の完璧な犯罪を誰かに自慢したい」なんて選択肢は、次のパラグラフで即バレて刑務所行きENDと思ってましたよ。気づかないはずです! どうもこの主人公の心情が理解できませんが、名探偵もので依頼者が犯人というシナリオは、アニメやドラマなどで稀にあります。主人公は自分のトリックに絶大な自信を持っているのでしょうね。 ぼさぼさ髪で人懐っこい笑顔をした陳田一探偵は、なかなかいい味だしてましたが、勝負がすぐついてしまうのが残念。 マルチシナリオより、もっと本格的にこの対決をメインにした一本で堪能させてほしかったという感じでした。
自分はこの作品のコンセプトを知っただけで本書が読みたくなり、ワクワクして入手しました。実際、遊んでみてもこの点については満足できる内容だと思います。 最後に主人公のトリックはこのゲームの最重要ポイントですから、プロローグに書かれていた内容とはいえ、これから本書を入手して遊ぶという人の楽しみの為にここまでは伏せて感想を書きました。 このゲームブックを遊ぶことは生涯において絶対にない、気になるから教えろ、という人の為にトリックやエンディングも含めた感想を「その2」に書いておきますので、ネタバレ上等!と思う方のみ読んでください。
※1 西東社のゲームブックシリーズそのものに、発売当時から既に古いセンスを感じていたのは私だけでしょうか。貸本時代・巨人大鵬卵焼き・戦後復興なんて言葉を連想する時代に発売された方が違和感ないと思います。
※2 「十字路」は同じく殺人を犯した犯人視点のサスペンス小説。本作も恐らくこの小説の影響を受けていると思います。
※3 名前だけで元ネタが想像つくと思います。格好も着物と羽織によれよれの袴ですし。厳密には彼は某有名探偵そのものではなく、腕は確かだがその探偵小説に憧れてコフプレをしている奇人探偵という設定です。
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