冒険記録日誌
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| 2009年08月31日(月) |
ルパン三世 激走チャイナ!贋作の秘密(速水 彩/双葉文庫) |
双葉のルパン小説シリーズ第6作目にして最終巻。5巻と同じく、1話の長編が収録されています。 私はゲームブック、小説に関わらず、本を読む時は後書きから読むことがよくあるのですが、今回はそれが裏目にでて、本編を読むときに妙な先入観が入った状態になっていまいました。どういうことかというと、後書きには「私が趣味でやっているモータースポーツを作品に取り入れてみました」とか「中国で開催された国際ラリーにナビ役で出場したことがあります」みたいなことを書いてあったのですね。 それでこの小説の方を読んでみると、中国でルパン一味が高価な壷を狙っているところから話しが始まります。銭型警部の妨害があったとはいえ、盗みは案外あっさり成功。翌日、ホテルの中で国外への逃走経路を考えていると、ラリー仕様の車に乗って旅をしていた2人の美人姉妹が登場し、ルパン達はわたりに船とばかりに、この姉妹とともに国外まで脱出を目指すというストーリーなのです。 ここで、なんでわざわざラリー仕様の車なんて目立つものと一緒に、逃走する必要があるのかまず疑問がわいてきます。 中国製のいい加減な地図を頼るより国際ラリー大会で使用された地図を利用した方が信用できるとか、鉄道などは見張られているとか、ここ中国では簡単にまともな車が買えない(壷を盗んだシーンでは事前に逃走用の車を入手できずに、キャデラックと名前のついたボロ自転車で逃走するハメになった)とか、いろいろこの脱出方法のメリットが書いていましたけど、後書きを読んだあとでは、要するに作者がルパンの冒険に、国際ラリーカーを運転する要素を無理矢理でも入れたかっただけとしか、思えなくなったのですね。ルパンなら変装を駆使するなど、もっと別の楽な逃走方法が選べそうなものです。 これならいっそ、TVスペシャルの「ナポレオンの辞書を奪え」みたいに、狙った獲物がレースの優勝賞品だったとかで、ルパンがレースに出場するストーリーの方が素直でよかったんじゃないかな。
ちなみにこの姉妹は日本人のうえ国際ラリーの出場経験があるそうで、見方によってはこの姉妹は作者自身を投影したキャラといえるかもしれません。「カリオストロの城」の影響を受けているのか、今回のルパンはヒロインの姉妹に接するときは、やたら自分のことをおじさん扱い(例えば「そんな風に頼まれるとおじさん困っちゃうな〜」みたいな感じ)しています。 文章はどっちかというと軽いノリで、のんきなルパンに対してつっこみを入れたり小突いたりする次元や五右衛門らとの軽妙な言葉の掛け合いが見られるのは、このルパンノベルシリーズの中ではアニメ版のルパンに一番近いかも。一転して終盤クライマックスのカーチェイスでは、銃で撃ち合うこともなく、熾烈な運転技術の勝負になります。ラリーに関する専門用語や解説も次々と飛び出して、激走中に出てくる薀蓄(うんちく)はイニシャルD並みです。 ただ、ルパンを追いかける敵役がはっきりした存在ではなく、チャイニーズマフィアやら中国警察やら銭型警部とその部下達やらが混ぜこぜになって追いかけてくるだけで、ストーリー的には漫然と車でルパン達が逃げ回っているのみという、なにか気の抜けた作品に感じてしまいました。
面白いところをあげるとすれば、作者の実体験を元にしたと思われるリアルな中国の描写。 空港に到着したときからただよう中国独特の臭気や、科学調味料たっぷりのステーキ、ガラスカップに注がれたホットコーヒーとなぜか蒸してあるトーストの朝食に、次元が何度も辟易してしまうシーンなどがユーモラスに書かれています。また普通の観光客がお目にかかれない、中国内部の道路事情や、道路周辺の住民の生活ぶりは驚嘆ものです。 粗末な服を着たまま、でも笑顔で遊ぶ子どもたちを見つつ、何が幸せかの判断はひとつではないと、ルパンがフォローらしきセリフを一応言っていますが、同時に中国は常識が通用しないとんでもない国というセリフも作中で何度も言っており、そっちの方がビシバシ伝わってくる内容でした。 本書が発売されてもう20年にはなりますが、今はどの程度変わっているのでしょうか。あれからオリッピックも開催しているし、空港あたりはさすがに変わっていると思いますが、内陸部の方までは全然変わってないと思うに私は一票入れたいのですが。
あと、この作品につっこみを入れさせてもらうと、冒頭でルパンが「ごぞんじ、名盗アルセーヌ・ルパンは俺のひいじいちゃん」とか自己紹介していますが、それじゃ君はルパン四世なのだね。
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