冒険記録日誌
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2009年08月28日(金) ルパン三世 エルドリア大脱出作戦(樋口明雄、沙藤いつき/双葉文庫)

 小説版ルパンシリーズ第3作目。本書も2作収録されていますが、本のタイトルにもなった「エルドリア大脱出作戦」が本全体の7割くらいを占め、中篇くらいの長さの作品になっています。
 樋口明雄さんは、1作目にも書いていますから2度目の登場ですね。ちなみに彼は、2005年にも同じ双葉社から「深き森は死の香り」というタイトルのルパン三世の小説を発表しています。 

・エルドリア大脱出作戦(樋口明雄)
・泥棒さんたちの華麗な休日(沙藤いつき)


 「エルドリア大脱出作戦」は、これはちょっと目新しく、銭型警部を主人公にした作品。
 プロローグで南米にあるエルドリア国でルパンをついに逮捕した銭型。しかし喜びもつかの間、エルドリア国の政情不安により飛行機も飛ばず、国から脱出できなくなったルパンと銭型。この国は、最新型戦車を従えた軍隊が街を焼き民衆を蹂躪し、旧式なライフルを担いだゲリラたちが、政府軍兵士をなぶり、街ごと軍を吹っ飛ばす。銭型も呆然とするほど、無意味な虐殺の応酬が続く最悪の国。果たして2人は無事この国を脱出できるのか。
 こんな感じのストーリーです。作者のあとがきによると、名前こそ変えているものの、エルドリア国は現実に存在する国であり、そこで実際に起こっていることを書いてみたそうです。(本文を詳細に読んで世界地図を見れば国も特定可能)
 銭型とルパンの移動中にも、兵士が市民をテロリスト容疑で射殺したり、後のシーンでは反対に命乞いをする兵士達が一人残らず射殺されたりと、悲惨な光景を見るシーンが続きます。本作はルパンの冒険というよりは、銭型の目を通して見たドキュメンタリー風の作品といってもいいかもしれません。
 もっとも、ルパン小説として面白くないかというとそうでもなく、銭型が助けたテロリストの女と銭型の淡いロマンスや、銭型とルパンの友情物語のような展開はなかなか魅せてくれます。
 特にルパンたちを逃がすために自ら囮になった銭型が、敵に捕まり銃殺刑が決まりながらも「俺は(あのとき)ルパンを逮捕できたんだ。悔いはない」と清清しく空を仰ぐシーンは泣けます。もちろん、刑の執行直前にルパンが、銭型を助けにきたことはいうまでもありませんが。
 テーマがテーマだけに雰囲気は重いのですが、こんなルパンもありかもしれません。


 もう一方の「泥棒さんたちの華麗な休日」はうって変わって軽い作風の短編小説です。「エルドリア大脱出作戦」が重かっただけに、本のバランスを取る意味でもいい感じだと思います。
 作者の沙藤いつきさんは、少女小説風ゲームブック、ペパーミントシリーズの「オリーブたちの危ない放課後」シリーズなどを書いています。もともと、このルパン小説シリーズを読もうと考えたのは、「オリーブたちの危ない放課後」が面白かったので、同じ作者のこの作品も読みたいと思ったことがきっかけなのでした。
 ストーリーの方はというと、ルパン、次元、五右衛門の3人は、優雅なバカンスを楽しんでいた。3人それぞれの好みにピッタリあった食事が提供され、魅力的なナースに毎日楽しく健康診断をしてもらい、プールに射撃場に人工スキー場完備のスーパーリゾート地。その正体はパラダイスと呼ばれる謎の刑務所だった…というもの。
 刑務所でバカンス。無茶な設定です。無茶苦茶ですが、面白いです。刑務所のくせにアホらしいほど、いたれりつくせりのサービスでもてなされるルパン一味。和服姿の美女ナースに裸にされて、慌てふためく五右衛門など、他の小説ルパンシリーズではあまりない、ルパン三世のコミカルな一面が中心に書かれています。
 ところでこの話しの結末では、ルパン一味は結構な財宝を盗み出すことができます。ルパンって、金にならない事件に巻き込まれるか、苦労して手に入れた古代の財宝が現代では無価値のものだったとか、財宝の正体は古代遺跡だった(ルパン曰く「おいらのポッケにゃ大きすぎらぁ」)みたいなオチが多い気がするんですよね。まともな財宝を盗むのに成功した今回の話しは、実は貴重なんじゃないでしょうか?


山口プリン |HomePage

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