冒険記録日誌
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2006年02月08日(水) 暗黒教団の陰謀 輝くトラペゾヘドロン(大瀧啓裕/創元推理文庫)

 H・P・ラヴクラフトの恐怖小説、クトゥルー神話の世界をベースにしたゲームブックです。
 私は創元推理文庫のゲームブックは大好きですが、ホラーものは苦手だったので、今まで敬遠していました。初めて挑戦してみましたが、うむむむ。とにかくよく死にますね。
 原作はよく知らないのですが、この作品は現代アメリカっぽい社会に、神話の邪神やそのしもべが実在する世界が舞台です。
 主人公は邪神の復活をふせごうとする、叔父の頼みを聞き、協力を誓うところから物語が始まります。その叔父は物語開始直後に何者かにさらわれてしまうので、主人公一人で怪しげな住民と事件の多発している田舎の町を訪問することになるのです。
 続いてゲームのルールを紹介。大まかなルール部分は、FFシリーズのような一般的なゲームと似ているので、遊びにくくはないと思います。
 気力ポイントと生命ポイントがFFシリーズでいう、技術点と体力点と思えばわかりやすいでしょう。戦闘ルールも似ています。他には、文献などを読む場合に必要な知性ポイントに、消費することで一時的に他の能力を強化できる経験ポイント、ゲーム中に加算していき10ポイントを越えた時点で主人公が発狂してしまう狂気ポイント、これら全部で5つの能力とわずかな所持品管理が必要です。

 それでこのゲームブックのどこがそんなに死にやすいかというと、大きく2つの理由があるのです。
 まずはクリアが可能な選択肢が、結構限られていること。ノーヒントでほぼ一本道の正解ルートの展開を踏み外すと、一見まだまだ先に進めるように見えても、唐突に現れた車から銃撃されたり、主人公が絶対に勝てない化け物に襲われたりして、すべて遅かれ早かれゲームオーバーになってしまうのです。
 まあ、これはホラーがテーマの作品だから、ある程度は仕方がないと思います。不条理な難しさも演出の一種ともいえますし、中盤でシュリュズベリィ博士にさえ出会うことさえできれば、半分はクリアできたも同然ですから。
 問題はもう一つの理由、クリアの成否に関わるような重大な選択肢の一部が、読者の意思とは関係なくサイコロで決められてしまうという点です。(本書のルール説明では、これは“ギャンブル”という立派なオリジナルルールだそうです)
 これは、かなりストレスがたまります。
 運試しや、ある行動の成否判定や戦闘などでサイコロ運が影響するならわかります。
 しかしこの作品ではそれだけではないのです。例えば、見知らぬ老人が二人の男に襲われている所に遭遇した場面。ここでは老人を助けるか、見て見ぬふりをするかの行動の分岐が、サイコロを振って7以上がでるかどうかで決まってしまうのです。普通なら、ここは読者の意思で選ぶところでしょう。
 「モンスター誕生」のように演出に利用している例外的な作品はともかく、これはゲームブックの最も基本の面白さを捨てているとしか思えません。
 クリアに必須なルートに、こういった場面が数箇所あるので、最善の選択肢を選んでいてもクリアできるかはサイコロ運で決まってしまいます。おかげで真面目にサイコロを振って遊ぶ気が失せたので、途中から分岐小説のように読むことにしました。

 こういったゲーム性の問題点は別とすると、両生類のような顔をした“インスマス面の住民”の存在や、怪物は絶対に勝てない強さの生き物ばかりという設定など、面白い描写が多い作品ではあります。巨大な水槽から魚人間のような化け物が登場したときは、チェンソフトから発売されたSFCの「弟切草」を連想してしまいました。
 ウォーロックの書評では、クトゥルー神話をベースにしているなら、ゲームオーバーにいたる描写に、もっと力を入れて欲しかったとか書かれていましたが、私は先程も書いたように原作のクトゥルー神話を読んだことがないのでよくわかりません。
 エンディングは尻切れトンボというか、なんとも奇妙な展開でしたが、クトゥルー神話を読んでいる人ならどう感じるのでしょうかね。


山口プリン |HomePage

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