冒険記録日誌
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2006年02月07日(火) トラブルくらぶ事件ファイル 放課後のキス泥棒(沙藤いつき/双葉文庫)

 ゲームブックといっても、内容は千差万別。例えば鈴木直人の作品と、ブレナンの作品はどちらも名作でも、その内容はまったく別のシステム、別の面白さに包まれています。
 一般の小説でもそう、良くできた純愛小説と怖いと評判のホラー小説、その面白さに優劣をつけることは困難です。それはまったくジャンルが違うからです。もしかすると怖がりな人なら、純愛小説に満点の評価をしても、ホラー小説には0点の評価を下すかもしれません。まっとうな比較は不可能でしょう。
 ただし、同じジャンル、同じ冒険小説というジャンル同士ならある程度は、比較して評価できると思います。鈴木直人は双方向性などのゲームシステムの妙で、ブレナンはゲームブックという形態を生かしたユーモアの妙で、それぞれトップクラスの作品になっているといっていいと思います。

 そしてゲームブックには、少女小説をベースにしたゲームブックレーベルがありました。双葉文庫のペパーミントゲームブックシリーズです。
 今回紹介する「放課後のキス泥棒」は、「オリーブたちの危ない放課後」(2003年02月25日の冒険記録日誌を参照)の続編となる作品。
 私立中学校を舞台にトラブル解消研究会、略してトラ研のメンバーたちが、学園で起こった事件を解決するというお話しです。
 今回の事件は、女子学生にキスをする謎の仮面男を捕まえるという、なんとも気恥ずかしい事件なのですが、完璧な男の葵様をはじめ、ちょっとやんちゃな森下君、男勝りの天王寺桜子、大食いの小林などなど、前作で登場した個性的な登場人物たちが今回もバンバン活躍してくれます。
 しかもここは重要なのですが、ゲームバランスが非常にいいのです。ストーリーは大まかには一本道ですが、中規模程度の別々のイベントに分岐することは結構多く、フラグの管理が徹底されています。選択肢に理不尽なものはないので、考えて攻略すれば一度目の挑戦でもクリアは可能です。だけど考えなしで進めると、ゲームオーバーになっちゃいます。
 SOSチェックなるものがあって、ソーサリーのリーブラのように、追い詰められても一度だけ救済処置をしてくれるシステムになっているのが、また親切です。

 ネタバレをすると面白くないのでストーリーの詳細は書きませんが、前回はただの脇役だったあの彼女が終盤でヒロイン格に急上昇するのはびっくり。前作はちょっと後味の悪いところもあったけれど、今回はとてもさわやかで少し切ない、まさに青春小説といったラストが待っています。
 もちろん、峰不二子なみにしたたかな橘雅は、あいかわらず男子学生を手玉にとっていて笑わせる。展開しだいでは意外な人物が、女装したりと笑える要素も入っています。つまりストーリーの面白さも合わせて、小説としても普通の少女小説以上のクオリティがあり、読ませる力をもっているのです。

 私の中ではこの「トラブルくらぶ事件ファイルシリーズ」は、ペパーミントゲームブック界のソーサリーと心で呼ばせてもらっています。
 ただ、少女小説なんてジャンルそのものに興味がない人には、この作品を見ても表紙だけ見て鼻で笑って終わりかもしれません。実際、発売当時からペパーミントゲームブックは、ゲームブックの衰退期と重なっており、あまり本屋で見かけることがなかったそうで、お世辞にも有名な作品とは思えません。
 TVゲームや映画でもよくありますよね。購買層が合わなかったとか何かのタイミングを逃してしまったとかで、あまり人に知られることのなかった不遇の名作って。
 でも、せめて私だけは「放課後のキス泥棒」は名作として確かに存在したんだよ、ということを記憶に残すために、ここに書いてみました。


山口プリン |HomePage

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