冒険記録日誌
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| 2005年10月06日(木) |
悪夢の幽霊都市(鳥井加南子/祥伝社) |
「悪夢の妖怪村」「悪夢のマンダラ郷」と続く、鳥井加南子の悪夢シリーズ第3弾です。 「悪夢のマンダラ郷」ではリプレイ記録を書きましたが、悪夢シリーズのリプレイを専門にしているブログがありますので、本書のリプレイ記録はそちらに譲って、ここではシリーズ全体のことも含めて感想だけ書いておきます。
<参考> パラグラフの狭間で http://parahaza.seesaa.net/
今回の冒険は、映画館からふと異次元の悪夢の幽霊都市にさ迷いこんだ不幸な主人公という出だしです。無事に幽霊都市を脱出することが冒険の目的です。悪夢の幽霊都市というのは生きている者が主人公だけという、ひとけのない不気味な町なのです。しかも幽霊都市は主人公の魂を吸い取ろうと、あちらこちらで罠を仕掛けています。 アミダクジをひいて運命数とバイオリズム数を決める簡単なシステムは「悪夢の妖怪村」と「悪夢のマンダラ郷」と共通です。今回は謎の易者さんがゲームの冒頭で主人公にアミダクジを差し出します。所持品の管理もそれほど多くなく、覚え書きくらいで簡単に楽しめました。 そしてやはり文章があいかわらず素晴らしいです。幽霊ならともかく透明人間、モスラ、ゴジラ、キングコングetc…がさまよう都市という、冒険の舞台は実にふざけているのですが、それを破綻させずに真面目に扱いきっている文章力は驚嘆に値します。さすが江戸川乱歩賞受賞作家の肩書きは伊達ではありません。
この「悪夢の幽霊都市」自体の特徴ですが、他の2作と違って、バスや地下鉄などの交通機関で町から町へ移動する事がゲームにおいて重要な要素となっています。町は無人なのに、乗り物だけは運転手もいないのに動くのです。ゲームの構成は基本的には一方向システムですが、大まかな場所移動については双方向システムに近い感じです。 さらにこの作品では主人公が死亡してもゲームオーバーにはならず、最初の町で簡単に復活できるようになっています。(ゲームオーバーになるケースもありますがここでは割愛)しかし、そのぶん主人公は冒険中にぽんぽん死んでしまいます。 ガラモンに踏んづけられたり、キングコングに乗っているバスごと振り回されて投げ飛ばされたり、謎の異星人に消滅させられたり、もうさんざん。主人公が殺されるバリエーションはシリーズで一番多いのじゃないのだろうか?主人公がリカちゃん人形になってしまう罠なんかは、そこにいたるまでの描写に危機感があってかなり印象的です。あまりの殺されっぷりに苦笑い(特には大笑い)をしながら、少しずつ安全ルートを開拓していくしかありません。 そしてその安全ルートですが、これが運命数やバイオリズム数によって変化します。それどころか幽霊都市を脱出する方法すら運命数によって違う数種類が用意されています。つまり一度幽霊都市の脱出に成功しても運命数を変えればまた遊ぶことができるのです。 「悪夢の妖怪村」では運命数やバイオリズム数は主に行動の成否判定に使うだけの単なるサイコロの代用品でしたし、「悪夢のマンダラ郷」にいたってはクリアに至るルートはかなり限定されていて、運命数やバイオリズム数を使う場面に遭遇すること自体が(氷の海のシーンなど一部をのぞいて)すでに失敗確定という作りだったので、あまりこのルールが有効に活用されていませんでした。本作はそのあたりを見事に改良したっぽいです。 逆に不満をあげるとすれば、乗り物の移動回数が多くて煩雑に感じてしまったこと。「○○駅」「□□駅」「△△バス停から××バス停へ」などと地名から選ぶだけなので、このあたりのパラグラフ移動がちょっと単調に感じてしまいました。マップングが必要なほど複雑なものではありませんが。 何気に「悪夢の妖怪村」と「悪夢のマンダラ郷」の登場キャラがゲスト出演してくるあたりにニヤリ。なかなかのサービス精神ですが、これらの3つの世界がつながっているとは思わなかったな。特に「悪夢の妖怪村」の奴ら。久しぶりに休みがとれたからと、観光バスで都会にきたそうですが、仕事って何の仕事よ。火星人に雇われていたのか?(妖怪村を読んだ人にしかわかりません) いずれにせよ、このシリーズ最終巻にふさわしい出来であることは間違いありません。古本屋で本書を見かけたら、見せかけのB級オーラに惑わされずに確保してみましょう。
以上で3作品とも感想を書き終えたわけですが、私の中では悪夢シリーズは「日本流に作ったブレナン作品」という評価です。日本人作家ならではの計算されたゲームの完成度と、ブレナン作品のハチャメチャぶりが同居しているという。「悪夢の幽霊都市」の表紙イラストはかなり怪しい感じだし、裏表紙に書いてあるストーリー紹介を読んでもB級ホラー映画のような印象しかうけないのですが、いや、今まで完全に食わず嫌いでした。それなりにいろんなゲームブックを読んでいたつもりでも、まだこんなに面白いゲームブックが眠っていたとは思いませんでしたね。創土社さんと鳥井加南子さんに手を組んでもらって、このシリーズの新作を出して欲しいくらいです。 ちなみに私はシリーズの中では「悪夢のマンダラ郷」が特に好きでした。この作品が一番冒険の舞台が明るく広々としていて開放感を感じましたし、なにより阿弥陀様の存在がいいです。海の女神タカナカプサルックのイラストも好きだったなー。「悪夢の幽霊都市」の作者の後書きによれば、「悪夢のマンダラ郷」は巫女の神秘体験をモチーフにした作品だそうで、巫女を題材にした「天女の末裔」という作品で江戸川乱歩賞を受賞したという、ある意味もっとも鳥井加南子さんらしい作品かもしれません。 この前「オンラインの微笑」という鳥井加南子さんの小説を古本屋で発見したので購入してみました。ちょっと昔の作品みたいですが、気軽に読めそうな雰囲気の作品です。 最近の執筆作品はないようですが、鳥井加南子さんって今はなにしているのかなー。
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