冒険記録日誌
DiaryINDEX|past|will
| 2005年10月04日(火) |
ベルゼブルの竜(茂木裕子/創元推理文庫) |
「紅蓮の騎士」と同じく、ゲームブックコンテスト出身の作品であり、やはりファンタジーものですが、あちらとは毛色が違う内容です。 作者の茂木裕子さんは、もともと「魔界物語」という未発表の長編小説を書き溜めており、その世界を舞台にゲームブックを書いたそうです。そのためステレオタイプにみえた紅蓮の騎士とは違い、しっかりとした世界の歴史をもち、独特の生物や魔物が生活する魔界という異世界を見事に書ききっています。タイタンという世界が完成したあとのFFシリーズや、TRPGの下地もあるブラッドソードシリーズに見られるような、物語の厚みを感じさせてくれるのです。
この作品の冒険の主人公は、人間界のルクレオという小さな町に住む人間です。 町が、土地の急速な砂漠化のため危機に瀕しており、町を救うために魔界の魔王の城に住む「ベルゼブルの竜」が持つ魔剣、アシュナードの力を借りに魔界へ旅立つというストーリー。アシュナードの秘める再生の魔力だけが、土地の荒廃を押しとどめ、緑の大地をよみがえらせることができるのです。
冒険の前半・中盤は、魔界のあるところに落とされた主人公が、魔王の城で必要な情報やアイテムを集めながら、町や森や湖を抜け、魔王の城を目指して旅をするようになっています。 ここで面白いのは、冒険中に夜を迎えるたびに、主人公がもっている魔界の辞典が、月明かりの魔力で読めるようになるシステムです。辞典は魔界に住む、いろんな個性をもった魔物達のことが書かれています。どの魔物の項から読むかは自由ですが、一夜ではほんのわずかしか読むことができません。 アドベンチャラーズ・インの情報だったか、執筆当時の茂木裕子さんは動物学を学んでいる学生だったそうで、その経験を生かしたかのように魔物の生態系や行動パターン、弱点などを特徴的に描いています。 これが昼間に魔物と出会ったときに、対処法の知識があるかどうかで難易度が大きく変わってしまうのですね。うまい具合に、自分が調べていた魔物が登場したときは、結構嬉しい感じになります。
そして終盤は、いよいよ魔王の城へ。 ピポラグライデスだったか名前は忘れたけど、ものすごく強い竜の門番がいるので、ここまでに通行証を入手してないと、死亡確実です。通行証を持っていても、それに書かれた謎解きをしないと効力を発揮しないので、やっぱり苦戦必死。私が挑戦したときは、ここが一番の難所でした。 それから魔王には2人の娘と4人の息子がいて、アシュナードの力を借りるには、彼らからも情報を得る必要があるようにもなっています。彼らとの交渉シーンも個性があって面白いです。全員、美男美女揃いで(一人ひきこもり系の学者タイプもいたけど)キャラの人気も高く、アドベンチャラーズ・インで彼らの人気投票なんかの企画も行われていましたね。 さらに一般の冒険と違うのは、主人公はあくまで魔王の城まで力を借りにいくのであって、魔王を倒しに行くのではないということです。 この世界の魔王は、もちろん善良というわけではなく、人間をとるにたらぬ存在と思っていたり、主人公へ命をかけたテストを強制したりもしますが、反面、人間界を襲うなどといった野望もなく、主人公との約束は守る公平な存在として描かれています。魔王が課す試練はなかなか厳しく、魔王が倒せない超越した存在として描かれているぶん、魔王退治よりもむしろ対面したときは緊張感がありましたね。 見事、アシュナードの剣が手に入ったときはなかなか感動ものでした。
そういえばこの作品について、どっかの掲示板で「萌えゲームブックみたいで駄目」とか「同人誌くささが嫌」とか言う意見がありました。 でも萌えに過敏に反応しすぎじゃないかと思います。普通の人はこれくらいで、萌えとか言われてもピンとこないと思いますが・・・。 同人誌くさいというのは、好みというかその人の感じ方の問題だからしょうがないですね。私はそんなことは全然気になりませんでしたけど。 ただできれば「私は嫌だから復刊するな」とか、そういうことは言わないで欲しいです。万人に受けるゲームブックなんてあり得ないので、いちいち嫌っていたら、どんなゲームブックも復刊しませんし、新しい作品も生まれません。 最近「クイーンズ・ブレイド」に対するゲームブックファンの反応なんかをみて、ちょっとそう思いました。
話を戻すと、このゲームの難易度は少々難しめ。ゲームバランス的にも「紅蓮の騎士」よりもやや劣る気がします。 しかし読ませるものをもったゲームブックとして、私は非常に楽しんだ作品であり、次回作に期待させた作品でした。 茂木裕子さんは今は、何をしているのだろう。同人誌販売でもいいから「魔界物語」を読ませて欲しいものです。
|