冒険記録日誌
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2005年10月03日(月) 紅蓮の騎士(伊藤武雄/創元推理文庫)

 創元推理文庫で行われた第1回ゲームブックコンテストの入賞作品。
 ルールの説明を呼んでいると「他のゲームブックには見られない独特の能力のポイントがあります」という主旨の記述があって、作者の盛んなアピールに少々微笑ましい気持ちになります。独特といっても、FFシリーズでいう技術点を少し変えたくらいのもので、そんなに従来のゲームブックとルールが変わっているとは思えないなー、と当時から思っていましたけどね。
 ストーリーは主人公が王家に使える騎士で、悪魔ワードナを復活させようと使用人に化けて、翡翠の首飾りを盗み出した盗賊を追っかけるというお話し。
 特別な舞台背景もないし、最終的には主人公は悪魔ワードナと戦う羽目に陥るという展開になるあたり、むしろ極めてオーソドックスな内容かもしれません。

 もちろん、それだけじゃコンテストで勝ち抜けられなかったはずで、この作品には大きな売りが2つあります。
 実際、当時のゲームブックファンの情報誌「アドベンチャラーズ・イン」でも、読者から結構な反響がありました。
 そのオリジナル要素とは、ゲーム中に読者本人の肺活量を利用する点。
 早い話が、毒ガスに満たされた迷路を抜け出すシーンがあって、その迷宮をさ迷っている間は、読者本人が実際に呼吸するたびに体力ポイントが6点減ってしまうというシステムです。今ならはみだしゲームで、たまにみかけるアイデアですね。
 もう一つの特徴は、何度と繰り返して遊んでも楽しめるという工夫です。
 最初に選ぶ選択肢によって、主人公は冒険につかえる特別な助力を受けることができます。それは魔法の力、仲間としてついて来てくる動物たち、名剣の入手と盗賊達の協力、妖精の腕輪による加護、と4種類用意してあるものの、選べるのはそのうちの一つだけです。当然どれを選ぶかによって、敵との戦い方などが少しずつ違う冒険になるようになっています。
 さらに主人公が進んでいくルートは、前半に大きく2種類、後半も大きく2種類に分かれており、それぞれまったく新しいイベントが楽しめるようになっています。もちろんどちらのルートでもクリアは可能。
 つまり、これらの相乗効果でいろんな種類の冒険を楽しめるようになっているのです。

 当時は、ガチガチの創元野朗だった私は、「おおう!こんな新しいゲームブックは始めてだ!」と妙に感心していました。今から思えば、より奥深いストーリーで何度も繰り返して遊べる作品は、ブラッドソードなどで既に存在していましたし、自分の体を使ったゲームブックというのも、今から思えばブレナン作品あたりでもうあったような気もしますが。
 もちろん作者はそんなことは知らなかったのでしょうし、面白さに繋がるのなら、オリジナルだろうが前例があろうがどっちでもかまいませんけど、なんだか大人になってちょっと騙された気分かも。

 呪われた町に進んだ時のエピソードは非常に印象深いです。主人公の使命には無関係だけど、ワードナ以上に強力で主人公にはどうにもならない“悪”の存在があるのがね。
 仲間になっていたインコみたいなイノピーも可愛かったな。
 欲をいえば主人公の仲間の騎士が3人いて、彼らも主人公と同じ冒険に出発しているという設定が消化不良でもったいないかな、と思います。どの仲間も活躍するシーンもないまま、死んじゃっているあたりがね。

 正直、文章やシンプルな展開など、ところどころに初心者らしさが出ている気もする作品なのですが、それでも割と好きな作品でした。
 綺麗にまとまっていてゲームバランスもとれているので、ゲームブック初心者にも基本形としてオススメできる内容です。


山口プリン |HomePage

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