冒険記録日誌
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2005年10月02日(日) ティーンズパンタクル(鈴木直人/創元推理文庫)

 霊能力をもつ女子高生の大島いずみちゃんが、謎の転校生氷室の出現をきっかけに始まった異世界からの侵略と戦うという、まるで学園ドラマのような筋立ての作品です。
 鈴木直人作品といえば、ドルアーガの塔やスーパーブラックオニキスに代表されるように、双方向システムによるマッピングの楽しさがメインという印象が強いですが、この作品には一方向システムのうえマッピングの要素がいっさいありません。
 かといって、超能力か、武器を使っての戦いという2種類の戦闘があること。時間やイベント管理のためのフラグチェックも頻繁に行うこともあって、チョコレートナイトほど気軽にプレイをできるようにもなっていません。そのかわりティーンズパンタクルは、他の作品にないゲームシステムの魅力があります。
 もちろんタイトルに「パンタクル」の文字があるように、終盤では「パンタクル」の主人公だったあのメスロンも今回は異世界の住民として登場。名脇役としていずみちゃんを助けてくれるのです。学園物という本格的ゲームブックでは珍しい世界観や、じわじわと学園が謎の存在に支配されるという展開、そしてタウルスそっくりな登場人物もいるなどファンサービスの点でもたまらない内容でしょう。
 ですが、やはりこの作品の最大の特徴は、主人公のいずみちゃんが全寮制の学校に住む一見普通の女学生として学園生活を過ごしている前半部分のシステムにあると思います。
 その、おおまかなゲームの流れとしては、

デートや友達の誘いなどがあるので、昼間にやりたいことを決定する。
(読書・デート・昼寝など)
         ↓
夜になると事件発生!イベントが終わると、異変の原因を探るべく深夜の学園内で調査したいところを決定する。
(屋上・旧校舎・プールなど)
         ↓
デートや友達の誘いなどがあるので、昼間にやりたいことを決定する。
(読書・デート・昼寝など)
なお、日にちによっては特殊イベントが発生。
         ↓
夜になると事件発生!特殊イベントが終わると、異変の原因を探るべく深夜の学園内で調査したいところを決定する。
(屋上・旧校舎・プールなど)

 基本的にはこの繰り返し。

 このうち“特殊イベント”は日にちが進むにつれて、次々と新しいものが発生して、全体のストーリーを引き締める役割を果たす一方、メインとなる(  )内のデートや調査などのイベントは、どの日に行っても良いので、何度でも選択する機会があります。
 これにより、小説のようなストーリーの進行が楽しめるうえ、気になった箇所は好きなときに調べられるという、一方向システムと双方向システムの良い所だけを組み合わせた秀逸なシステムになっているのです。
 このシステムにより、このゲームブックはゲームの攻略法がバリエーション豊かになっています。例えば、このゲームにはニバスという名前の中ボス的な悪魔がいるのですが、こいつはとんでもなく強い。倒すためには弱点を調べて、戦う前に必要なアイテムを準備するのがセオリーですが、それがなくても主人公を鍛え上げて戦闘力を高めることで、終盤前くらいのタイミングなら通常の戦闘で倒すこともできるのです。
 他にも異世界にいるメスロンを学園に呼び出す方法も2種類用意されていたり、クリアに必須ではないが後々の攻略が楽になるイベントが数多くあるなど、プレイヤーの好みに合せて攻略を考えていくことができます。このあたりのゲームバランスは鈴木直人らしく絶妙なのです。
 繰り返し遊べるゲームブックとして、コストパフォーマンスはかなり良いと思いますね。

 メールのやり取りで、ある方がこの作品のことを「TRPGでゲームマスターが融通を効かせながら、ゲームを進めるような感覚」となかなかうまく表現していました。その方は、「文章とかいろいろキツイ部分があるので、そのまま創土社で復刊させるのは問題があるとは思うのですが」とも言っていましたが、このあたりは海外ファンタジー小説と、日本のライトノベル系の小説の違いのような、好みに対する問題でしょう。
 私にとっては、ブラッドソードやソーサリーに並ぶ名作なので是非とも手を加えず、そのまま復刊してもらいたいところです。
 そんなわけでそろそろ鈴木直人ゲームブック関係の発売情報をお願いしますよ、酒井さん。


(追記)是非とも手を加えずとは書いたけど、現代風にリメイクするのはありかもしれないと思いなおしました。当時と現在は学園の様子も違うし、ライトノベルなら流行の文章というのもあるし。となると、表紙や挿絵も萌え系イラストレーターによるものに差し替えなのかなぁ。


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