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■ ひつぎさんウィーク終幕
額がぶつかり合うほど近い。目の前で頬を紅潮させて熱弁を奮う姿は、微笑ましくて思わずじっと見つめてしまう。口元が緩んでしまいそうで、さりげなく顎に手をやった。幸いにも、正面の静久は玲の様子など気にもかけずに、アルバムを指していかにひつぎが可愛いかを語っている。 「これが9歳の誕生日で、こっちが10歳。その隣が11歳……」 「わかるかっ!!」 細かな違いをわかれを言う方がどうかしている。玲に怒鳴られて、静久は目をパチパチさせた。 「え……これほど成長の過程がはっきりわかる写真はありませんよ?」 「どれもほとんど変わんねーだろ」 子供の成長は変化が早いとはいうが、ほぼ同じシチュエーションで1歳2歳違うだけの写真を見せられたって、わかるのはひつぎバカの静久ぐらいだろう。もう一人、ひつぎバカはいるけど多分そいつもわかるに違いない。が、玲はひつぎバカではないのだ。どっちかと言うと関心はあるけど好意のバロメータは低い。 「可愛らしい会長が、次第に大人っぽく凛々しくなっていく様子が神門さんにはわからないんですか?」 まるで珍獣でも見るような目つき。どっちか珍獣なんだか。 「お前がひつぎのこと、どういう目で見てんだか考えると頭痛ェ……」 とてつもない色眼鏡もあったもんだ。写真の中の金髪の子供は、頬にひっかき傷なんか作って、元気いっぱいに笑っている。他の写真では腕や足に絆創膏を貼っているのが見えた。 「こいつは本当にひつぎかよ?」 今の姿からは、少々、いや大幅にイメージが異なる。 「面影があるでしょう?」 「そうかぁ?」 静久は、思い出の中の刃友に目を細めた。その表情で、確かに写真の子供が傍若無人な天災生徒会長の子供時代だとわかる。静久は今も昔も、彼女にしかそんな顔を見せないのだから。 写真のひつぎの隣には、必ず赤みがかった黒髪の少女が一緒に収まっている。玲は、そっちの方は誰だかすぐに察しがついた。 「こっちはお前だろ」 「はい。……私はわかるんですね」 「あぁ。全然変わってねーから」 「……」 上目遣いで、睨まれた気がする。不服そうに口を尖らせて、下を向く。 「?何だよ」 ひつぎの隣で、もしくは隣にいなくても写真の中のひつぎはきっと近くにいるだろう静久に向かって笑っているのだ。この笑顔は全部静久のもの。今も昔も。 「あたしは誘拐するならお前にするけどな」 「はぁ!?」 なぜか不機嫌になってしまった静久を励まそうとしたら、変な言い方になってしまった。 「やめてくださいよ、物騒な例えは」 「いや、そうじゃなくてだな……なんつーか」 言いたかったことはそうじゃないのに、うまく言葉が見つからない。 「ひつぎのヤツはガキのくせに一筋縄じゃいかねーって言うか」 「私が単純だってことですか?」 いかにもやんちゃそうなひつぎに肩を抱かれて、困惑しつつもカメラに向かって微笑む静久。玲は、その写真だけは脳に焼付けようと思った。 「あ、あれだ。お前の方が可愛い……!」 やっと想いに照準が合う言葉が出た。つい身を乗り出してしまう。静久と目が合って、二人して同時に息を飲む。その瞬間、何かとんでもないことを言ってしまった予感がどっと押し寄せた。 「……今、なんて」 「あ、その、そうじゃなくて」 耳のいい静久が、至近距離で聞き逃すはずもなく。耳たぶが赤くなっているのですぐわかる。玲は口を開けたまま、言葉が出ない。 気まずい沈黙が生徒会室に流れた。 「私も誘拐するなら、静久にするわね」 「うん、あたしも紅愛にさんせー」 どこから聞いていたのか、紅愛とみのりが現れて静久誘拐派が3名になる。その後、紗枝が顔を出して4名。最終的にはひつぎ当人が加わって5名。 わいわいするうちに、玲と静久の間に流れた変な空気は霧散していた。6人の騒ぎの影で、玲はひっそりと息を吐く。 「……ライバルが多すぎんだよ」
あれ、ひつぎさんの誕生日を祝うはずが、玲静風味で幕引きとなってしまいました。オレらの総大将、ひつぎさんを今後も担ぎ上げていく気満々で、これにておしまいといたします。
2006年11月11日(土)
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