池ポエム
ハンス



 しゅうのうの達人。

 天地寮には学級文庫ならぬ、寮文庫コーナーがあってそこに好きな本を持ち寄って置いていける。
 先日、夕歩の部屋からいかがわしい本類をごっそり回収してきた久我順は、それらの置き場に困っていた。寮の自室にとりあえず持ち帰り、部屋の真ん中に下ろしてため息をつく。そこへ、同室の綾那が戻ってきた。
 「……」
 「せめてなんか言ってよ、綾那」
 黙ってため息をつく綾那。仕方ないので、二人して座り込んでため息をつきながら収納について話し合った。部屋には必要十分なほどの収納は設けられているし、それほど持ち物が多いわけでもない。なのになぜか二人の話し合いは難航した。
 「だから、あったよね」
 「さぁ、知らないな」
 先程から進まない押し問答が続く。順はソレの存在を夕歩の部屋で確認していた。だから間違いではない。綾那がここまでしらばっくれるのが逆に気になっていた。
 「棚なら空けるから、そこに入れればいいでしょ」
 「やだ。あんな丸見えのとこに、こういうの置くのは美学に反する」
 お姉さま、とかあなたを抱きたい、とかいう文が目に付く文庫本を手に、順は胸を張った。
 「……しまう時に隠すんなら、今堂々と主張するなよ」
 「とにかく、隠し収納には何も入れてなかったはず、だよね」
 順が強く念を押すと、綾那は諦めて立ち上がった。
 「先に謝っておくけど」
 二段ベッドの下が綾那、上が順。部屋に入った時に、それぞれ好きなほうを選んだらちょうどよくこうなった。綾那は「暗いほうが落ち着く」、順は「高いほうがいい」と理由を述べて、お互いの意見に対しては「暗くして攻略本読むと目が悪くなるよ」「バカとなんとかは高いところに……」と感想を言い合った。
 その、ベッドの下のほう。綾那は布団をどかすと、板を持ち上げた。
 「ごめん」
 「うわー」
 今度は順が呆れる番だった。
 「どうしたの、これ」
 天地寮の秘密の収納内は、すでにぎっしりのゲームソフトやら攻略本やらで埋めつくされていた。まだ封すら切ってないものもある。
 「いや、この前ワゴンセールの前をたまたま通りかかって」
 さすがの綾那も、いつになく歯切れが悪い。
 「ん……500円?」
 「それはまだ2年前に出たやつなんだ」
 控えめだがどこか誇らしげな語り口である。
 「閉店セールだったらしくて……」
 「で、一気買いしてここに入れたってわけか」
 「そのうち言おうと思ってたんだけど」
 「まぁ、それはともかく。ちょっと考えたんだけどさ」
 ルームメイトの趣味を今更とやかく言うつもりはない。が、それはそれとしてあてにしていた収納がなくなってしまったのだから、何か別の手を打たなければ。順は単純で公平な提案をした。
 「半々、か」
 「ね、妥当でしょ」
 とりあえず全スペースを占めているゲームソフト類を半分だけ出す。空いたスペースに、順のコレクションを入れる。
 「それで、こっちはどうする?」
 綾那は渋々見ないようにしていた後ろを振り返った。確かに順のいかがわしい本は半分に減ったが、さらにそこには微妙なギャルゲーや大昔のシューティングなどが加わって、カオス度が増していた。
 「残りの半分は、何とか自分で考えて始末する」
 「本気か?」
 「ちなみにあたしはアテがあったりして」
 「なにっ!?」
 言うが早いか、順はさっさと本を抱えて部屋から飛び出して行った。さすが忍者、逃げ足は早い。
 大量のソフトを前に、綾那は一人途方に暮れた。

2005年08月12日(金)
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